押し付けられた仕事で1人寂しく残業
好きなことを仕事にできる。
それは誰もが夢見ること。
だからこそ、そんな会社に就職できてラッキーだと思っていた。
好きなことをするだけで収入を得られ、好きなことだから頑張れる。
そんなバラ色の人生が待っている…………、はずだった。
「クソッタレ、部署も違うくせに仕事押し付けてくんな!」
御影和真。入社4年目の26歳にして絶賛残業中の男、それが俺だ。
定時1分前、よその上司から来たチャットにより俺の定時退勤が阻まれ今に至る。
「何が『明日までにやっといて』だ。自分の仕事ぐらい自分でやれ!!!」
深夜の残業、口が悪くなるのは必然。
予期せぬ仕事、残業確定の仕事、他部署の上司から押し付けられた仕事……。
どれも頭に来るが、それだけならまだ耐えられる。
耐えられないのは……
「俺はゲームプランナーだぞ! 押し付けるならせめてゲームに関する仕事にしやがれ!!!」
押し付けられたのは、他部署の資料作成。
当然ゲームとは無関係。
自分が早く帰るためならよその部下にも図々しく仕事を渡す、最低な野郎だ。
こんな上司にはなりたくねえと、キーボードを叩く力が強くなる。
「アイツさっさと退職しねえかな……」
愚痴がとめどなく溢れてくるが、誰も聞いていない。いや、聞いているはずがない。
23時50分のオフィスには、とうに自分しかいないのだ。
せめてガス抜きせねばやっていられない。
「せ〜んぱい♪」
「うぉああ!?」
背後から声をかけられ、間抜けな声をあげてしまった。
「アハハハッ、先輩の反応可愛い〜」
「う、うるせーな! なんでこんな時間までいるんだよ!」
「お疲れの先輩を癒すために決まってるじゃないですか! あ、コーヒーどうぞ♪」
絶妙なタイミングでマグカップを差し出され、いつの間にかコイツのペースに呑まれてしまう。
コイツは柚季美雪。
新卒入社したばかりの新人プランナーで、俺が教育係になり一緒にゲームを運営している。
誰からも好印象な明るく元気な女の子だが、俺には特に懐いてくる。
本人曰く「カズマ先輩が大好きなので♡」とのこと。
その言葉通り、本当に毎日のように構ってくるのだ。
自慢じゃないが俺はモテたことなど一度も無いので、これが本気なのかどうか判断できない。
さすがに冗談……だよな?
「で、何の用だ?」
「決まってるじゃないですか! 今日もやりましょう!」
「ああ、タクオタか」
柚季が満面の笑みで見せて来たスマホには、プレイ中のゲーム画面が表示されている。
タクティクス・オブ・タイムライン。略称はタクオタ。
俺たちが運営しているスマホゲームだ。
対人戦がメインのデジタルカードゲームで、先日めでたく6周年を迎えることができた。
「先輩、早くやりましょうよ〜」
「断る」
「なんでですか! お仕事終わったんですよね!?」
「そりゃ終わったが、時間見てみろ。今日は遅いからまた明日な」
後輩の女子から毎日ゲームに誘われるのは素直に嬉しい。
だが一度付き合ったら最後、気づいたら朝までプレイしてることも珍しくないため、残業で疲れた日まで相手すると翌日眠くて仕方がない。
「嫌です! 先輩とプレイするまで帰りません!」
ブホッ!
飲んでいたコーヒーを吹き出してしまった。
違う、これはゲームの話をしてるだけだ。
良からぬ妄想をしてしまうのも残業で疲れたせいだ。
断じて俺が後輩に欲情しているわけではない。
「あれあれ? 先輩、どうしちゃったんですか〜? もしかして、エッチな妄想とか」
「してねえ!!!」
「え〜? 先輩が勝ったらなんでも1つ言うこと聞いてあげますよ? もちろん、そういうことでも良いですよ♪」
「ばっ、やめろ! とっ、とにかく俺は帰るからな!」
このまま乗せられてはマズい。足早にここから離れねば。
「……もしかして、先輩。私に負けるのが怖くなったんですか?」
ピクッ。
「今回のデッキは自信ありましたからね〜。勝負しなくて正解かもしれませんね〜」
ピクピクッ。
「ついに先輩に勝つ日が来たなんて感動です! しかも戦わずして勝ってしまうなんて……!」
「聞き捨てならねえな。誰に勝つって?」
「だって先輩がしてくれないのはそういうことかな〜と」
「上等だ。泣いても知らねえからな!」
「優しくしてくださいね♪」
その後、宣言通りボコボコにしたのは言うまでもない。
「もう1回! もう1回!」とせがまれて、結局朝までプレイしたのはもっと言うまでもない。
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