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カフェぱんどらの逝けない面々  作者: 来栖もよもよ


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NOと言ってもいいですか

 そんなこんなで、ここ一カ月ほどの私は仕事に行くだけで、良い時給と昼夜の美味しいご飯、そしてプロが淹れるコーヒーに困ることもなく、それを作ってくれるのが、引きこもりだけど目がチカチカするほど恐ろしい美形のマスターという、「私はもうすぐ死ぬんだろうか死ぬに違いない」としか思えないほどの過分な生活環境に置かれていた。


 しかし人間は、堕落の道を転がり落ちて行くのをただ漫然と受け入れるタイプと、どうにかしようと何とか歯向かい抗おうとするタイプがいる。私は確実に後者である。そして抗う過程で、マスターのようにお菓子も作れない、料理もそれほど上手くはない私が出来ることを考えれば一つしかない。マスターが提唱している成仏ドミノだか成仏コンボだかいう、ジバティーさん達の輪廻転生のお手伝いである。


 勿論、ジバティーさん達は自然に消えるまで放っておいて欲しいのが希望らしいが、本人達すら長い年月で忘れてしまっている悔恨を見つけ出し、可能なら解決し、それで成仏出来るならば、暇を持て余して動画を食い入るように見る必要もない訳だし、お互いにメリットはあると思う。

 マスターは何も見えないくせに無駄に霊感アンテナだけは鋭いというか、気配を察知し店に来るたびにゾワゾワと肌を粟立てている。まあ幸い、先日マスターの自宅のトイレに潜んでいたような生霊には全く気付いてなかったので、本物の霊にしか反応しないのはまだマシだった。もし、あれに気づいていたら、きっとこの先一人でお風呂やトイレにも入れなくなるだろう。あれは私が墓場まで持って行く秘密としたい。




「それで泉谷さん、ニュースとか見ていて何か思い出したことはないですか? ああこの辺に住んでいた記憶がある、とか」

『……ないなー』

「李さん、どこら辺でお店やっていたとか、あ、そうだ、お店の名前とか思い出せませんか?」

『思い出せないデス。それに小春サン、中華のお店は何とか飯店に何とか苑、華という字を使うところも多いデス。だから大抵似たよな名前ヨ』

「……ですよねえ。──あ、じゃあ杏さん、通っていた高校とか校章のマークとか、記憶に薄っすらでも残っていることはないですか?」

『私は十六歳で死んでるんだよ? まだ沢山勉強しないといけない、脳がつるっつるしてる年頃よ? そんな娘がさ、十年以上も前に通っていた学校の名前を記憶に留めておけると思う? その上、校章をしっかり覚えている学生なんて、最初から絶滅危惧種でしょ。いやー、もしくは雪男みたいな感じで、居るかもだけど実際に見たことない存在みたいな?』

「──ええと、じゃあそんなに亡くなってから年数経ってないマークさんなら、乗っていた車のナンバーとか、車種とか、勤めていた会社とか、ふんわりとでいいので覚えていたり……」

『赤っぽいスポーツタイプの車、だったような記憶は少しありますが……あとはさっぱり。ハハハッ』


 ハハハッ、じゃないっつうの。外国のアメリカンコミックみたいな呑気な笑い方しおって。


「──そう言えば李さんも上手ですが、マークさんも日本語上手いですよね。それもアニメ見たりとかマンガ読むために日本語学校に通ったんですか? そしたら学校の名前とか……」

『全部独学です。好きこそモノの上手なれ、と言いますね。留学生で日本人見つけたらすぐフレンドになって、日本語で話すようにしてました。でも知り合った留学生で、マンガを読む人はいましたが、アニメとか好きな人少なかったですね。悲しかったです。トクサーツも子供が見るものと言われました』

「トクサーツ? ……ああ、特撮ヒーローものですか。何とかライダーとか●●レンジャーとか?」

『そうですそうです! とてもクールでスタイリッシュ! 小物もとても凝っていて感動しました』

「日本の文化が好きなんですねマークさんは」

『はい。でも日本の誇るべき文化をなぜ日本人が評価しないですかね?』


 だんだんと話がコアな方面に進み出したので、「あ、ほら、せっかくニュース流しているんですから今は見た方が」などと言って話を切り替えた。

 ──やれやれ。彼らに視覚的な刺激がバンバン行ってるはずなのだが、一カ月ぐらい刺激を与えた位では、十年二十年以上前の記憶を取り戻せと言っても難しいのかも知れない。


「マスター、どうやらまだいい話は出来そうにないです……」


 肩を落として報告すると、マスターは笑った。


「今は私達も模索中の段階だもの。仕方ないわ。ま、気長に行きましょ。──でも、小春ちゃんが働いてくれている間にはどうにかしたいけれどねえ」

「ですねえ」


 マスターの淹れたマンデリンを有り難く受け取り、軽くため息をついた。


『おっ、なー小春、これ、すぐそばの駅やろ』


 皆とニュースを見ていた泉谷さんが、私を手招きして画面を指さした。マスターと一緒に覗き込むと、なるほど言われた通り地元の駅である。人身事故が発生して、現在運行に遅れが発生しているらしい。


「春先は何だか多いですよね、人身事故。今は徒歩で行ける勤務先で良かったですけど」

「春は色々環境が変わったりするし、五月病とかもあるじゃないの」

「まだ三月下旬ですけどね」


 画面を見ていた私はあるものに気づき、咄嗟に不自然にならないように目を背けた。


『──あ、今の見ましたか小春サン? 駅のベンチのとこ座ってた女性』


 マークさんが驚いたように私に話しかける。

 見えてませーん。私は全然見てませーん。


『あれはマークさんとおんなじタイプやなあ』


 浮遊霊なんて全くもって目に入りませんでしたー。


「え? 何でしたか? そろそろ時間かなあって時計気にしてたもので、画面見てませんでした」

「──ねえ小春ちゃん、何の話?」


 マスターが不思議そうに私を見る。そこは深く掘り下げたらいけない話題なんです。スルーして下さい、マスターの為なんです。


「さあ何の話かさっぱり」

『──小春さん、分かってんでしょ? 可哀想じゃん、あの人一人ぼっちだったよ?』

『小春、しらばっくれたらあかんで。夜道は危ないから明日の朝でええし。流石に駅までは距離が遠すぎて、ワシらが行きたくても弾かれてしまうもんなあ』


 ジバティーさんの縄張りというか移動可能範囲は、ぱんどらから大体半径一キロ圏内らしい。徒歩だと十分程度だろうか。そこを越えようとすると、見えない壁みたいなものがあって押し戻されると以前聞いた覚えがある。だから、本来なら会わないで済む幽霊なのである。


「……あちらの方にはあちらの事情というのもあると思いますし」

『ほら気づいてたんじゃないデスか小春さん。いけないヨ嘘は』

『マークさん、ボディーガードで付いてったりや。まあ何の役にも立たんやろけど、陽気な兄ちゃんやから、あのお姉さんに話しかけて警戒解くぐらいは出来るやろ』


 してくれなくて構わないんですが。


「ねえ小春ちゃんってば。何なのよう」


 くいくいっと袖を引かれて、私は諦めたようにマスターを見た。


「マスター、どうやらお友達が一人増えそうです」

「……え? どういうこと?」


 一難去ってまた一難というのはこのことである。





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