5話
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新入社員の研修が始まって一週間が経った週末。
「あ~あ、疲れたよぉ...」
「はは、だから言ったろ、頑張れって」
「もう!...」
今、大輔と由香は週末の土曜日、早朝から車で約10分のバーガーショップで、モーニングをしている。
どうしてこんな状態かと言うと。
由香たち新人の研修が始まってから、毎日の様に夜になると、由香から大輔に連絡が来る様になった。
本当にその日あった事への愚痴だ。
講師の人の説明が分かりにくいとか、声が小さすぎる等々、毎日の様に、夜になると定期交信の様に、掛かって来るのだ。
最初の数日は、面倒くさがっていた大輔も、昨日の連絡くらいから、何かコイツの愚痴ってお茶目だな、なんて思う様になってきた。
『じゃ実際に会って、今週末に話し聞いてよ』
的な話になり、大輔も了承して、現在に至る。
まだ朝早い8時前だって言うのに、何故か由香の話を聞いて宥めている大輔。
「だから、研修なんてそんなもんだって。 あと一週間だろ、残りの五日、黙って聞いてりゃすぐに終わるから」
「でも、今週の最後の方で、試験があるんだって言ってたし。私試験嫌いなのに~」
「だから、オレだって去年やって来たんだから、分かってる。テストの内容だって、もう殆どこの二週間のお浚いみたいなものだから、かぁんたんだぞ」
「人の事だと思って~...」
そう言いながら、セットのバーガーを、由香は大口でかぶり着いた。
それを見ながら大輔は、コーヒーを一口飲みながら、由香に尋ねた。
「どうだ? 由香くらい美人だと、結構男から声を掛けられるだろ?」
「う.......」
一瞬黙ってしまった由香だが、すぐに言い返した。
「いきなり初日の昼食時から、数人声を掛けられたわ.....でも...」
「でも...、なんだよな由香って。.....で、結局は断っただろ?」
「当然でしょ! 結局は、私の容姿だけを見てくる人達なんで、丁重に、片っ端からお断りしてやったわ」
「はは、ざまぁ的な表情してるぞ」
「いいのよ、あんな人類は」
「じゃあこの今のオレ達ってのは?」
わざと意地悪な質問をしてみる。
「そ...、それは、大輔って、高校の時からの知り合いだ...から...だよ」
「俺だって男だぞ」
「う!」
詰まらせた由香だが、苦し紛れに放った言葉が。
「大輔は...」
「オレは?」
「じ...」
「ん?」
「.....」
「人畜無害なのよ!」
この答えに大輔は大笑いをした。
「あ~はっはっは.......」
由香の顔面はもう真っ赤である。
△
この後、無言で残りのセットを二人で頬張り。
「なあ由香。 今日暇か?」
食べ終わった由香が、ナプキンで口周りを拭いている時に、大輔が誘ってきた。
「それって、デートって事?」
改めて聞いてみる。
「う~ん...、ま、そう受け取ってもらってもいいかな」
わずかだが、頬に赤みがかかった由香。
「い、いいよ...」
「よし!じゃあ何処行こうか?」
「えぇ。プラン無しで言ってきたの?」
「だって仕方ないだろ、今思い付いたものだから」
「だよね。...でも、再準備してきていいかな?」
一度、由香の容姿を見て。
「だよな。 仕切り直して、9時に迎えに行くから、ま、取りあえず、行き先は.....、モールだな、いいか?」
「そ、だね」
「よし! そうと決まれば出直しだ」
この時、由香は何故か些細ではあるが、闘志の様な気持ちが湧いてくるのを実感した。
◇
長田家に車で到着。
すぐにスマホで着いたことを知らせる。すると、いまだに支度中との事で、家に上がって待っていて欲しいとの事なので、一度長田家の空いたスペースに、車を止めて、玄関チャイムを鳴らした。
すると。
「はーい」
と言う女性の声がして、玄関ドアが開き、中から40代の超美人が出迎えてくれた。
「あら? え、っと...。あ!、大ちゃんね、大輔クン。 やだぁ、久しぶりね、元気だった?」
「あ、はい。 おはようございます、ご無沙汰しています」
出迎えてくれたのは、由香の母親で 長田 倫子だった。
(久しぶりに由香の母さん見たけど、全然変わらないな。 オバケだな、ある意味)
そう思いながら、大輔は続ける。
「今日は由香と約束しまして。一日娘さんをお借りしに来ました」
「あら、もう付き合っていたんじゃないの?」
爆弾発言だった。
「.......、いえ、そうでは無く、ただの愚痴聞き相手と言う事みたいです。オレ」
「あ...ら、そうなの? わたしはてっきり...、って、まあいいわ。 由香、もう少しかかりそうだから、上がって待っててね」
「ありがとうございます」
そう言って、リビングに通されると、由香の父親の 長田 俊博が、ローテーブルにノートPCで、ニュースアプリを見ていた。
(うわ! おじさんも全然変わって無いじゃん。コレは夫婦で、オバケ決定だな)
とは、大輔の心中に収めておいた。
「おはようございます。ご無沙汰しています」
PCから目線を部屋に入って来た大輔に向け、少し目を見開いてから。
「お、おぉ、大輔クンか。おはよう、久しぶりだな。何年振りかな? 4~5年くらいになるかな。元気だったかな?」
「はい、おかげさまで。至って元気です」
「今日はなんだったかな.....、あ、そうだ、由香だったな、由香を誘ってくれたんだな、わざわざありがとう」
そう話していると、トレイにお茶セットを持って、倫子がリビングに入って来た。
「本当に久しぶりねぇ大ちゃん。 最後は...えっと、美菜ちゃんと幸宏クン、それに大ちゃんの3人で高三の時に来て以来じゃないかしら」
「そうだな、多分そんなもんだ。...で、大輔クン。ウチの由香が君と一緒の会社に入社したみたいで、そちらの方もコレからまたよろしく頼む」
「そうね、コレからまたお付き合いが始まるかもしれないから、大ちゃん由香の事、よろしくお願いね」
(おばさん、オレたち付き合っては無いんですよ)
「は、はい。分かりました。 最初は不慣れだとは思いますが、早く社風に慣れる様に、協力していきます」
「でも良かったな。 由香も、またあの時期の4人がこうやって 同じ会社に要るって事は、親としても安心出来るな」
「そうね、大ちゃん、本当に由香をよろしくお願いするわね。何なら、結婚してやってね、うふ」
「け!!.......」
この母親の先走った発言に、困惑する大輔だが、父の俊博も少し驚いたみたいだ。
「これ。大輔クンが困っているんじゃないか。でも、ま、そうなると、親としても...、だな.....、うん?」
俊博がリビングの入口に目を向けると、真っ赤な顔した由香が固まっていた。
「あら由香。支度は出来たの?」
由香への第一声は母親だったが、由香を見た父親も“あ!こりゃ聞いてたな”と言う表情をしていた。
若干解凍されてきた由香が、かろうじて返事が出来た。
「う、うん...」
この空気を読み取って、大輔は由香の両親に。
「で、では、これから行ってきます。 今日一日娘さんをお借りします」
「楽しんできなさい」
「大ちゃん、由香の事お願いね。何なら、ずぅっと借りっぱなしでもいいわよ」
「お、おかあさん!」
コレに、由香が反論しようとしたが、大輔が制した。
「行こうか由香」
「う、うん」
「じゃあ行ってきます」
再び大輔が挨拶をして、玄関から出て、大輔の車に乗り、出かけて行った。
「倫子。あまり由香を弄るなよ。顔が真っ赤だったぞ」
「あら、いいじゃない。遅かれ早かれ、多分あの二人くっ付くと思うから」
「だよな~....。あ~分かり易い」
「早くお互いに、気がつけばいいのに」
こんな会話をしている、長田家両親だった。
(は~....。由香、メッチャカワイイな)
コレは、支度し終えた由香を見た大輔の反応だ。
◇
「大輔ゴメンね、あんな両親で、気悪くした?」
長田家を出発したばかりの車中での大輔と由香だが、最初にいきなり由香が謝って来た。
「はは、いいから。 でも、全然変わって無いな、由香の両親。容姿も性格も」
「ま、ウチは、あんなんだから」
「仲いいもんな」
「そうね」
「でも、何かいいな。あんな夫婦に将来なりたいもんだな....」
小さな声で、独り言のように言ったつもりが、由香には聞こえてしまったみたいで、ここでまた、頬が薄ピンクになる由香だった。
(は~....。由香、メッチャカワイイな)
コレは、支度し終えた由香を見た大輔の反応だった。




