25話
25
「有美ちゃん、それ本当なの?」
「はい、やはり思った通りでした」
「だよな~.....」
ココは長田家。 今朝の話を由香の父 俊博と、母 倫子に報告している有美だった。
「いつかはそうなる事とは分かっていたのだが、こんなにも早く話が進んでいるとは、いやはや、思っても見なかったな」
「いえ、決定では無いんです」
「どう言う事なの?有美ちゃん」
長田家の両親の気持ちを、少し落ち着かせる有美。
「あくまでもこの話は、双方の両親が承諾して初めて決まるものだと思っています。なので、あちらはあちら、由香ちゃんも両親に認めてもらって欲しいと言ってまして、今ココに揃ってお願いに来た次第です」
あれから支度をして、この日のうちに長田家の両親にも話をして、大輔、由香、有美と、3人揃って長田家へ来たのだ。
双方の両親に伺いをかけ、どちらも了承が得られれば、細井家と長田家の両親の顔合わせを計画している。
その後、今朝の細井家とほぼ同じやり取りに、若い世代の4人は。
「やっぱり親って、同じことを思ってるんだね」
が、トータルな答えだった。
今更ながら、親の大切さと、子供たちに対する思いやりが、とてもありがたく思える4人だった。
□ □ □
週末が過ぎ、新しい週が始まる。
通常通り、普段通り業務を坦々とこなしていく。.....が、大輔は業務中、恵を意識してしまって、チラチラと見てしまう。
その当人の恵は、流石にその目線が朝から気になり.....、気になり.....、気になり...、気味が悪くなり.....。
「ちょっと大ちゃん! 何なの?朝から、私をチラチラ見て」
あ!バレた...、 と言う態度をとる大輔。
「ご、ごめんなさい、恵さん。 恵さんのご尊顔を拝見させて頂こうと.....」
最後は、ゴニョゴニョとなってしまった。
「何を訳の分からない事言ってるの? 大ちゃんらしくないぞぉ~」
それを聞いていた隣の席の ゆかり が。
「大ちゃん、ダメだよ。人妻に惚れちゃ」
このゆかりの言葉に、チョットだけ大輔が、ポッカ~ンとなった。が、すぐに訂正した。
「違います。 何て言うか、恵さんが神様に見えてしまって、後光が眩しいです。ハイ」
「じゃ、拝めば?」
ゆかりのノリの良い言葉に、恵に向かい合掌する大輔。
「ちょ、ちょっと大ちゃん、拝むなぁ~!!」
「何言ってるんですか、恵さんにはどれだけお礼を言っても、言い切れないほど、感謝しているんです。本当にありがとうございました。(すりすり~)」
「だから、拝まないでぇ~」
この光景を見ていた隣の部署の、由香と美菜が、こっちを見て二人で肩を揺らして、クスクスと笑っている。どうやら聞こえたみたいだ。
「もう恵、大ちゃんがコレほどあんたの事を感謝してるんだよ、素直に拝まれナ」
「ゆかりまでぇ~」
「取りあえず、ちょっとだけ休憩しようかみんな」
「はい!」
気分転換を兼ねて、恵が提案したのを聞いて、大輔の隣の席に座る幸宏が、勢いよく返事をした。
「わたし飲み物とって来るから、みんな何かな?」
「あ、オレ行ってきますよ」
「いいからいいから、はい! 注文は?...」
そう言って、各々の好みを聞いて、ゆかりは休憩ルームの従業員専用の、紙コップ飲料を取りに行った。
*
「で、大ちゃん、その心は?」
恵が真面目になって、大輔の朝からの気になる事を訊いてきた。
「あの...、ですね.....」
言い辛そうにする大輔。
「良いから、言ってみなさい」
少し呼吸を整え。
「単刀直入に言います......、令嬢って知って、ビビってます!」
「!!...........」
一瞬驚いたが、すぐに平静になる恵。
「あっちゃ~! バレちゃったかぁ~」
予想と違うリアクションに、大輔は、何となく“やっぱ、そう来たか~”と思った。
その時。
「本当に私も驚いてしまったんですよ」
そう言って、言い寄って来たのは、隣の部署の美菜を連れた由香だった。 どうやら隣も休憩らしい。
そう言い寄って来た由香たちを見て、恵が目線で美菜に“何となくサイン”を送った。
了解したのか、美菜が、大きく頷いた。
「どうやらバレちゃったね、私たちの関係」
美菜がそう言って、恵に正した。
「ま、ゆかりが原因だけどね。ま、いいか。 いずれ分かる事だしね」
その時ゆかりがトレイを持って、自分の部署に帰って来た。
「なぁに? 大ちゃん、その気まずい顔は」
「いやはや、恵さんが令嬢となると、美菜と従妹になるんですね?」
「はは、バレたか~、って、分かり切ってるよね。美菜ちゃんのお母さんが、社長の妹なんだからね」
「えぇ!?」
「?」
「?........」
「知らなかったの?大ちゃん」
「は、はい...、てっきり美菜のお父さんが社長と兄弟だと思っていました」
「あ、そっちだったのね。違うから~」
恵も美菜も、親が会社の重要なポストに居るのに、普通の社員と全く変わりなく、態度も高飛車では無いこの二人の振る舞いに、親近感が更に沸いた、大輔と由香であった。
「でもね、それ知ったからと言って、今までと変わりなく付き合ってよ~」
「「もちろんです!」」
「あらぁ、大ちゃん由香ちゃん、さすがカップルね~、揃っちゃったわねぇ」
大輔と由香が一瞬見合って、赤面した。
「あら、顔赤くして、可愛いわね~、お二人さん」
こんな風に、周りにからかわれながらも、その場が楽しい雰囲気で、流れて行くのであった。
◇
細井家の夕食後のリビングで、家族が揃って、ひと時を寛いでいる。
「それにしても、二人がほぼ同時にこの家を出て行くなんて、思いもよらなかったな」
「全くね。 結婚ってタイミングって言うけど、自分の子供たちがこんな事になるって、あまり無いわよね」
「はは、そうだな。嬉しい事だが、親にとっては寂しい事でもあるな」
「全くね」
細井家の両親が、近いうち結婚・同棲と、この家を出て、自立する事に、センチメンタルな気分になる。
「まあ仕方ないでしょうね。 ウチの子供たちって、超美人と、超イケメンだから。でも、大輔なんかその好容姿で、いままで彼女が居なかった事が全く不思議でしょうがないわ」
「?」
この母親の発言に、大輔は疑問を浮かべた。 そして、大輔が抱えていた長年の思い込み事案を母親に聞いてみた。
「ねえ母さん」
改めて聞いてくる様な物言いで、何事か?と思わせる大輔の仕草も相まって、母親の香が、大輔に問う。
「どうしたの? 何か不思議がっているけど?」
「オレってイケメンなの?」
すっ頓狂な返答に、香が呆気になった。
「何言ってるの? 大輔と有美は学生の頃から世間ではチョットは知れた美形な姉弟って、近所で噂されていたのよ。知らなかったの?」
(オレが美形? じゃ、今までの“タレ目でイケてない男子”と、遠い昔の母親からの発言のトラウマに、今の今まで悩まされていたと言うのか?.....)
母親から幼い頃に聞いた“放言”に、今の今まで悩まされていた大輔は、全く何事も無かったかの如く、自分の事を“超イケメン”と言いきった香に、怒りを通り越して、呆気に取られるのだった。
幼少の時、一度だけ聞いた母親からの、放言の為に、自分を蔑み、何度あった事だろうか、異性からの 告白を全て断った事が、全てあの言葉から始まった事に、長い年月が過ぎ去った今でも、こうして恋愛怯懦に苛まれていた事が、何だか馬鹿らしくなって、いきなり笑い出してしまった。
「は...、はは...は。 あはははは.......」
「?」
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大輔が笑い終わった後の他の3人は、全くのポカ~ン顔で、大丈夫か? と、心配しているような仕草が見て取れた。
「どうしたんだ? 大輔。大丈夫か?」
「大輔、どうしたの? 何が何だか分からないぞ」
「何があったの大輔。そんなおかしな事、私言った?」
三人がそれぞれ心配して、声を掛けてくれる、だが、最後の母親からの言葉は、今の大輔には十分な怒気を心に蓄えさせた。
そして........。
「オレ.......、小さい頃に母さんから言われた些細な一言が、今の今までオレを縛っていたんだ。知らないだろ? 母さん....。お陰で、中学のころ変な女に付き合わされて、さらに落ち込んだんだ。 それからと言うモノは、何でこんなオレに、何度も告白して来るのか、訳が分からなかった。それが何だよ、今になって“超イケメン”とか........ふざけんじゃない!」
そう言うと、大輔はリビングから出て行き、自分の部屋へ行ってしまった。
残された3人は、一体何が何だろうと、とにかく母親の事が関係していると思ったので、香に問い正すが、全く覚えてないのか、明確な回答は得られなかった。
「私が何をしたって言うの? 大輔の言う事が私には分からない、小さい頃の大輔に、私は何を言ったの?」
「いままで親にそんな事を言うなんて無かったのに、香、いったい大輔の子供の頃、どんなことを言ったんだ?」
「?.............分からない。考えても全く分からないわ」
「お母さん。何とか思い出してよ。 大輔のあんな表情、今まで見たことが無いわ」
自分から放った些細な言葉が、何年もかけて、大輔の心に重くトラウマを与えていたなんて、今の今まで知らずにいた当人の香は、一体自分が当時何を言ったんだろうと、記憶を検索しても、全くもって見当が付かなかった。




