23話
23
溜息が出続ける大輔。
帰宅してからはや30分くらいだろうか。 今、この状態は、と言うと、大輔は両親と共に、リビングに居る状態だ。 帰宅後は、待ちかねていた有美に由香を奪い取られ、両親とテレビが大輔の相手をしている、と言うよりも、テレビだけが相手をしている状態だ。
気になる由香の現在地は、有美と共に浴室である。
見事に有美に由香が、玄関から略奪され、あれよあれよと言うままに、脱衣所へ連れ去られていったのだ。 それをただ見過ごす事だけになってしまった。
ただ、奪い去られる時に、有美から。
「由香の体は、私がピッカピカにしておいてやるからな、楽しみにしときな」
そう吐き捨てて、二人の姿は消えて行った。
(お見通しだな。ま、分かってはいた事だけど)
戦闘服からくつろぎウェアに着替えた大輔は、2階にある自室にいき、由香が来るまで、暫くタブレットでニュースアプリを見ている。
すると、じきに2階に上がって来る女性の賑やかな声がして、大輔の部屋の前で。
「じゃあお姉さん、おやすみなさい」
「可愛がってもらうんだぞ、由香」
そう言う由香と有美の声が聞こえた直後に、部屋のドアが開いた。
大輔の部屋に入って来た由香は、今の有美の言葉のせいだろう、顔が風呂上りとは違う、頬の赤らみがハッキリしていた。
「はは......、姉ちゃん....」
有美の言葉と、由香の表情に、大輔は何となく気まずさと、羞恥の表情をしてしまった。
「お風呂お先にありがとう。 ダイも行って来てね」
恥ずかしさを隠す訳でもないのだが、由香は照れから、そんな言葉が出た。
「そうだな、じゃ行ってくるか」
「うん。いいお湯だったよ」
「了解。じゃ、後で」
「うん」
入れ替わりに、着替えを持って、大輔が脱衣場へ向かった。
大輔が一階のリビング横を通ると、母親に止められた。
「大輔ちょっといい?」
何かと思い、着替えを持ったまま、一旦リビングに入る。
「母さん何?」
父も居て、夫婦で少し言い難そうにするが、そのかまま母親の香が聞いてみた。
「あなたと由香ちゃんの事だけど。 お付き合いし始めは、結構最近って聞いてるけど、何だかんだで、大学中もちょくちょく由香ちゃんと、週末とかに出かけていたわよね」
「うん。 まぁ、高校以来からだけど、何か由香とは最初の出会いは素気無かったんだけど.....」
◇ ◇ ◇
大輔と由香との出会いは、高校時代の校内の廊下で、素気無く出会ったのが最初だが、それ以降すれ違う時あれば時々挨拶する程度。 そのうちに友人たちから、結構モテる女子だと言う事を聞いた。
暫くすると、すれ違う時は、由香の方から挨拶する様になり、極めつけは、ある夕方遅くなった日、同じ男子から4回目の告白を断っていた時に、これまた遅くなって帰ろうとした大輔が、嫌がる由香の声を聴いてしまい、強引に手を引き、連れて行こうとした男子に向かって。
「その娘、俺の彼女だから」
と言う、その場限りのウソをつき、由香を助けたことから、一層親しくなった。
助けた後、そのまま家近くまで送り、比較的に家が近い事を知る。
夕暮れ時、由香を送りながらの家路中、会話をしている時に、互いの価値観と、異性に対する考え方が似ていて、更に驚いたのは、お互いに下心が無いのが分かり、そこから、男女の友人関係と言う、奇妙な間柄が始まった。
それは、大輔が高校を卒業してからも、家が比較的に近いという事もあり、大輔の大学の4年間も続き、幸宏と美菜を含めた4人で、お互いの家にも良く通う様になった。
この4人が同じ大学に通っていたのだが、大輔と由香は、学部が違うので、申し合わせをしない限り、殆ど会うことは出来ない。 なので、4人のタイミングが合う時に、学食での時間を楽しんだ。
今までは、結構あった告白も、この頃には殆ど無くなり、周りも意外に騒がなくなった。
美形の大輔と由香が、時々タイミングが合う時、一緒に帰る所を多くの学生に見られていたので、“揺るぎないカップル”だと思い込まれて、この二人に言い寄って来る輩は殆ど居なくなった。
そう言う、友人的な付き合いを在学中にしていて、大輔と幸宏が卒業・就職となった。
そして、一年遅れで由香と美菜が、同じ就職先に入社してきた。 これも。面白い話であるが、学生の頃から、やけにウマが合う4人なので。
『出来れば就職先も一緒が良いね』
と言う事で、4人がそれぞれ努力した末に、この様に報われた事になったと言う事であった。
◇ ◇ ◇
「あなた達の将来についてだけど、どの様に考えているのか、親としてはしりたいわね」
「え?! 今から?」
正しく今から入浴しに行く時に、このような長話必須の事案になるであろう事は、明らかに分かるだろうに、今このタイミングで聞いてくるなんてと、大輔はそう思い、機会を変えてもらおうと。
「その話、明日じゃダメかな?」
今から風呂に行く大輔の見掛に、長くなるであろう話の内容に、母親が気づいてくれて。
「そ、そうね。 今話す事じゃないわね。ごめんなさいね、風呂行ってらっしゃい」
「そうする。じゃ、明日」
「分かったわ」
父親の明人も気になって、大輔をチラ見していたが、母親がそう言うと、また向きを戻して、夫婦で話し始めた。
大輔はそのまま脱衣場に行き、一週間の疲れを湯船に浸かりながら、癒すのだった。
△
「は~、いい風呂だった」
「お帰り、大輔」
水のペットボトルを持って、風呂から自室に戻って来た大輔は、待っていた由香に声を掛けた。
一口飲みながら。
「姉ちゃんがベッタリで、ゴメンな」
「ううん、いいの。結構楽しいから」
「そうか、ならいいんだ」
「で、ね...」
由香が何か言いたそうだ。
「本棚の隅にあったこの本なんだけど.....」
そう言って、4冊のいかにもそんな本を、大輔の目の前に出し、コレはどう言う事? と言う態度と口調で言い寄って来た。
大輔の目の前に、重ねて奇麗に揃った“R18 大人の保健体育”の、重要な参考書が、置かれた。
「この説明を、どうぞ...」
そう言って、由香が正座をして、腕組みをしながらの、冷たい目線が大輔を貫いた。
「この度は、大変申し訳ありませんでした」
謝罪しか無かった。
今、大輔が出来る事は、丁寧に向かい合っているご婦人に向けての釈明は、ただひたすらに、正座をしての謝罪だけのみだったのだ。
「これは私が処分します。が、異論は無いですよね? 大輔さん」
「無論、意義は一切ありません。処分はお好きなようにして頂いて構いません」
「では、当方で、没収と言う事で、処分が決定致しました」
「ご髄に.....」
返って隠しておくよりも、単に、本棚の隅っこの方が、見つかり難いと思い、敢えてそこに整理(隠して)しておいたのに.....、由香のレーダー探知機は、侮れないと、この時、大輔の“由香マニュアル”に追加しておく事にした。
「もう!、こんな本、要らないでしょ?!」
おふざけモードから一転、由香からの苦言が飛ぶ。
「最近買った本じゃ無いから、勘弁してくれよ」
「本当に?」
「嘘はつかない、言ったろ? 一穴主義者だって」
「だから、その言い方.....」
ちょっとだけ頬を赤らめる由香。
「媒体は?」
まさかの由香からの言葉だった。
“媒体”。それはこのカテゴリーでは、男子としては必ず必須なるメディアなので、良いところを突いた由香の攻撃に、大輔は完敗してしまった。
「コレで全部です.....」
そう言って、大輔は約5インチの円盤を6枚と、フラシュメモリーを2個、由香に渡した。
渡された由香は、それを手にして、痛烈な一言を言い放った。
「コレからは、私だけよ?.....、いい?大輔」
コレを聞いて、大輔は、間髪入れずに、返した。
「由香、お前が居ればそれでいい。オレの人生で、最初で最後の“愛”を与え合う女性は、長田 由香 だけだからな」
「だ.....、大輔!」
そう言うと、由香は、エッチい媒体をしっかりと握りしめたまま、大輔に抱き着いてきた。 いや、しがみ付くと言った方が良かった。
そのまま二人は深く長いキスをする。
△
暫くして、二人の唇がゆっくりと離れ、至近距離のまま、互いの視線が数センチで、ビームの様に交差する。
「由香.....」
「え、なに?.....」
突然に名前で呼ばれた由香は、さらに一度 啄むようなキスをして、大輔を促し訊いた。
「さっき下で、両親が俺たちの事、これからはどうするんだって聞いてたぞ」
「コレからって言いうのは、結婚って言う事?」
「ま、それも含めてだと思う」
由香が少し考えてから。
「ダイはどうしたいの?」
「由香の心根に惚れたってのが大きいからな」
「あれ? 私の容姿は?」
大輔が溜息をつき。
「顔の形なんて、パーツの形と配置の問題だって言ったろ?みんな持ってるし.....、だ・か・ら、由香の心根と、仕草などが、オレのストライクゾーンを射抜いたって言うのか、とっても好きなんだ」
「ありがとう、ダイ。 私もあなたの思いやりがある心根、仕草、容姿、どれをとっても、私は大好きよ。それに、今までに見てきた男の人とは、全く違う観念を持ったあなたが、私はとってもと~っても好きなの」
「うわ!面と向かって言われると、結構ハズイな」
「わたしだってそうよ、今とっても、ハ...、ハズイんだからね」
由香が握っていたAVセットが、床にバラケ落ちた。
「もう我慢できない、由香....」
「はい。観念します」
その後は二人で、しっかりと“大人の保健体育”の時間を満喫した。.....、
らしい。




