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2話


                  2


 二人で歩きだしてすぐに。


「えへへ~....」

 と言い、泣き止んだ。

(こ、コイツ~....、騙したな)


「何ていう女だ、お前は」

「長田 由香だよぉ」

 素っ頓狂な返事が返ってきて、それに対して飽きれて返せない大輔。


 数秒間の沈黙.....,由香が話しかける。


「ねえ、あんたってさあ...」

「なに?」

「あんたって、私を色目で見ないんだね」

 それこそ素っ頓狂だった。


「なんだそれ」

「だって、普通な男だったら、私の事を顔だけって言うか、容姿だけで好意を持ってくるのが多いけれど、あんたって違うんだなって」


 一度、大きな溜息をついて。

「あのなぁ...。 まずその“あんた”って言うのはやめろ。これでも一年先輩だぞ、それに」

「それに?」

「お前の容姿は確かに美形の方だとは思うが、そんな事はただ単に、顔の機能の形状と配置が、たまたまそう言う位置になってしまったという事で、みんなくっ付いているから、別に不思議はないな」




「へぇ.......」

 そう言うと、由香は一度大輔を、じい~っと見つめてから。



「へぇ....、そんな考え方する人が居るなんて。今まで先輩以外には全く無かったわ」

「急に先輩って言うな、何か変だ。普通に名前でいい」

「じゃあ.....大輔...」

「.....、いきなりかよ、呼び捨て....って、オレの名前知ってたのか」

「だって有名だし、それに、名前で呼べっていったじゃん」


 そう言って大輔は立ち止まり。

「ま、いいか。......、で、何で最初から俺の名前知ってたんだ?」

 コレには由香は即答した。

「だって、細井 大輔って言ったら、女子の中では有名なのよ」

(そうなの?、女子の間では有名なんだ、オレ........。有名?......なんで?)


 今度は、由香が大輔に聞き返す。


「じゃあ、大輔はなんで私の名前を知っていたの」

「そんなん、長田 由香って言ったら、一年の時から超有名だったからな。知らない男子は余程のある意味、希少だな」


 どうやらお互いに、異性には人気があるらしい二人。 なのに、何処か“クセ”がある同士だった。


「あ! 俺ん家ココ曲がってじきだから」


 そう言って、由香の家まで目前の、手前の小さな交差点で、大輔が由香に向かってそう言った。

「え!?」


 驚愕の表情で、大輔を見上げ、不思議そうに質問する。


「こ、ココからですか?」

「そう、俺ん家ココからすぐだから。お前ん家知らないけど、もうすぐなんだろ? じゃあ、これで。おやすみ」

「ちょっと待って!」

 大輔を引き留める由香。 

「大輔って、私に対して何の感情も持たないの?」

 もう辺りは真っ暗になってしまった。 ただ早く家に帰りたい大輔は、今の由香の言い様に、不快な感情を持ってしまった。

「おま.....、由香の言っている事は良く分からないけど、兎に角、由香の家って、すぐそこら辺だろ?早く帰りな」


「ぐっ!.....」

 由香が何かを堪えたあと。

「大輔の、ばかぁ~!!」

 と言って、目の前から2件目の家に走って帰って行った。


(なんだ、由香の家ソコだったんだ。俺ん家から近いな)

 そう思い、大輔は残り少ない家路を続けた。



 しかし、この時点で由香は、ここまで自分の事を、容姿に興味が無く接してくる男子は今まで居なかったので、自分からの恋愛感情などは全く湧かなかったものが、大輔のこの日の態度・振る舞いそれに、助けてくれた事から、今までの短い人生で、初めて異性と言うモノに、若干の興味を持ち始めた瞬間でもあった。



         ◇



 翌日、由香は親友の 長谷川はせがわ 美菜みなと、昨日の夕方の事を、早朝の教室で喋りあっていた。


「全くもって、この私に興味が湧かないって事に、ちょっとイラ付いたし、反対に、なぜだか、親近感と安堵感と言うものが同時に湧いて来て、わたし、こんな感情って、初めてだったので、夕べはあまり寝られなかったの」

「由香。あんた、自信過剰気味なところ直した方が良いよ。 よく今までその本性がバレなかったね」

 痛い所をズバッと指摘され、由香は黙ってしまった。


「でも昨日、その先輩に出会って、結構いい薬になったんじゃないの? 由香」

「なに? 薬って....」


「そんな事を言ってくれる異性って、なーかなか居ないわよ。 容姿だけ見て、“好きです、付き合ってください”なんて言ってくる輩は、さっさと切り捨てて、その、えーっと何だっけ?.....、細井先輩だっけ、その男子の方が、正直で、外見だけを見るだけじゃあなく、本当の由香を見てくれるんじゃないかな?」

「大輔と、くっ付けって言うの?」

「そうは言って無いけど....、しかし、もう呼び捨てにしてるんだ、先輩なのに」

「ちょ....、違う、先輩にそう呼べって言われたの」

「へえ。 じゃ、意外に相手も満更じゃないかもよ。 由香、結構その...、えっと、大輔先輩だっけ、脈アリかもしれないよ」

「脈ねぇ.....」


 そんな雰囲気だったかな? と、昨日の事を今更考え直す由香だった。


「だけど。素っ気なかったよ、大輔って」

「まあ、お互い高校生同士だと言う事で....」

「どう言う事?」

「うふ。 まあまあ...」


「なぁんか、はぐらかされた感じだな~」

「まあいいから」


 昨日の事を思い出し、物思いにふける由香だった。



           △



「細井くん、今日授業終わったら......」


  ・

  ・

  ・


「また告白か?」

「ああそうだが」


 親友の太田おおた 幸宏ゆきひろが心配そうに、大輔に言い寄って来た。 最近はめっきり少なくなって来た大輔への、女子からの告白だったが、今日また夕方、連絡通路下への誘いがあった。


「いい加減にしないと.......」

「はは、断った」

「は?告白前に断ったのか」

「そうだが....」


 一瞬言葉を失った幸宏だが、今までの事を思うと、大輔に同感が出来た。


「どうせ結果は見えてるんだ、だったら、最初から断る事にした」

「でも、手紙の誘いだったら、どうするんだ?」

 一度、溜息をつき。

「誘いの場所には行かない事にした」

「それは失礼だろ?」

「もう、それで恨まれたって良いんだ。もう自分の口から断るのが嫌なんだ。相手が悲しむし、自分だって断る自分がイヤなんだ」

「そうか.....」


 大輔に言い寄ってくる女子の殆どは、大輔の容姿、特に面持ちの良さに惹かれて告白して来る。 だが、大輔は過去、中学で短期だが、付き合った女子以来、全て告白は断っていた。


 その恋愛が、まるで大輔の事を、アクセサリー扱いの様に付き合わされていたと言う散々の日々だった。なので、今のフリー状態の方が心地よく、金輪際あんな恋愛?(と、言えるだろうか?)は、ゴメンだと思える大輔だった。


 小学校に上がる前のあの母親の言葉、それに、中学時代の不本意な恋愛?と言い、異性に対する恋愛感情と言うモノに、積極性がかなり欠けている状態が続いていた。


         □ □ □



 相変わらず、自分の容姿に自覚を抱かないまま、大輔は大学生になった。



 親しい友人関係とは離れた市外の大学に進学した大輔は、4年間

を学業に専念し、卒業後は、地元に帰り、そこで就職した。・・・・・・・、したのだが....。



「まっさかー、お前が帰って来て、この会社に入るとはな」


 愕然とした。


「何で?  この会社に居るんだ、幸宏」

「なぜって?。知らないとは思うが、美菜の身内がココの会社の上司だって事は知らなかったのか?」

「え!?」

「はっは~ん、全くって顔しているな。 美菜のお袋さんと、この会社の重役は、兄妹だったんだよ。 だから、美菜は大卒後は当然に、この会社に入るって事になってはいるんだが、結婚前提である彼氏のオレは、そのまますんなりと、同じく入社出来たって訳だ」


 長谷川はせがわ 美菜みな、一つ下で、幸宏が高校時代から付き合っている彼女だ。


「それって....、なんかズルくないか?」

「へっへ~ん。 オレはそんなコネを使う程、姑息じゃないぞ」

「とは?」

「ちゃんと面接から始めて、二次まで受けて、難関を通ったんだ、お前と一緒だ」

「オレも苦労したが、お前も真っ当に入社したんだな、それなら何かホッとしたぞ」

「ま、この会社に入りたかったのは、由香の入社が決まってると言う事なんだがな」

「は。 全く持って、私情絡みじゃないか」

「仕方ないだろ、おれはガッツリ美菜に惚れてるからな」

「言ってろ....」


 幸宏がコネ入社では無く、真っ当に入社していた事を知って、安堵する大輔であった。



           ◇ ◇ ◇



 大輔が入社したとたんに、同期入社の女子は勿論、先輩OLまでもが、例のごとく、言い寄って来るようになった。


「大輔クン、いいよね~。カッコいいし。 イケメンだし」


こんな言葉が社内の女子事務員から常に聞かれるようになる。

いつもの様な、見た目だけの聞きたくない褒め言葉だ。


(オレってココでも、女子から興味を持たれているみたいな雰囲気なんだけど、こんなオレの外見のどこがいいのかな?)


 散々モテて、告られている当の本人が、この様に全くもって自覚が無いと言うのは、他の男子の先輩たちにしては面白くないと思われがちなのだが、これがまた、大輔自体がお高く留まって無く、行動範囲もそれほど広くない方で、派手な遊びも得意ではなく、かと言って陰キャでもない。

 世に言う、“イケメン”と言う言葉が、正しく似合う男子なのに、全く持って自覚が皆無な状態なので、周りが “可哀そうなイケメン”と、冗談交じりで言い始めた。

 兎に角。いまだに幼少の頃から母親に言われた、“あの”言葉が、現在でも寝強く、心中に塊となって解けないでいるのも、素因の一つでもあった。


 それでも、先輩たちに気に入られているのは、特に横のつながりが大輔の性格もあって、良好と言う事でもあり、入社してからの女子社員に告られても、中学頃の“あの恋愛?”のトラウマが残っていて、告られても、のらりくらりと断って、誰とも付き合わないのが、かえって男子達から好印象の一つでもあるみたいだ。


 例えば、先日の金曜日も、会社の超美人と言われる先輩OLから、二人でご飯に行こうと言われて、本当にご飯だけで帰って来てしまうと言う、先輩に対しての失礼極まりない態度も、男子達の好印象(笑いのネタ?)を持たれる要因の一つでもある。


 先日、先輩が....。


「お前、この前の金曜日、谷川たにかわ 奈緒なおとご飯に行って、告られたんだって?」

「はい、そうですが」

「でも、のらりと、断ったんだってな」

「付き合う気が全く無いんで」

「あはは...。お前って、ホント、面白いヤツだな」

「ありがとうございます」

「褒めて無い!」

「ですよね~...」


 とまあ、こんな感じで同僚とは上手に日々を過ごしている。

 だが、一方の女子社員たちにとっては、大輔に告り、敗れた一部の女子の怒りと言う立腹度は、増すばかりだ。


 大輔が入社して半年が過ぎ、女子からの告りも、次で二桁になる。 最近では告っても了承してくれないのなら、と言う事で、躊躇気味になってきている。

 あの超美人先輩の 奈緒ですら、断られると言う 男子社員からすると“もったいない事” を、いとも簡単に成し遂げた大輔に、プライドを削られた奈緒が、何やら取り巻きを従えて、仕返しと言う計画を企てていた。



             △


 週末の金曜日の業務終了後。 大輔は先輩OLに呼び出されて、社内休憩所に向かっていた。

 どうせまた、女子社員からの告りだろうと、どうやって相手を傷つけずに、断る事が出来るか考えているうちに、休憩所に着いた。...が、何やら女子社員は一人では無く、三人だった。 ちょっとおかしい雰囲気に気が付いた大輔は、休憩所に入る前に、新たに気持ちを正してから、集まっている女子社員の所へ近づいてみた。


「あの、細井ですけど、5時半にココで待っていると言う女子からの連絡があったので、来てみたんですが、三人も居るという事は、どういう事でしょうか?」


 何と、三人の中には告白された事がある奈緒を含めて三人いた。 そしてその奈緒は何か含み笑いをしている。

「あ、細井クン。 待ってたよ」

 と、奈緒が言うと、その隣の女子社員が。

「こんにちは。 細井クンだよね。 今日は私が呼び出したんだ。 この後時間は良いかな?」

「はい、今日の業務は終了したので、この後は大丈夫です」

「そう...」

 そう言った。

 

 今ココに居る女子社員は、全員大輔よりも先輩で、一番歳が近い先輩でも、一つ年上だ。 今年から入社した大輔にとって、同期以外は皆先輩だ。

 そう思っているうちに、谷川 奈緒が上から目線で喋って来た。


「あんたってさ、何でそんなに女子社員の告りを拒否するの? 何か秘密があるのかな?......、それとも、もしかして、男が好きなタイプなのかな?」


 奈緒の発言に、取り巻きの女子がクスクスとニヤけた笑いをし出す。

 それに対し、大輔は平然と答える。

「どうなんでしょうね?」

 この言葉に、少しイラつく取り巻きの中の一人の女子が。

「なに? その態度。 先輩に対して取る態度じゃないと思うんだけど」

「う~~ん。どうかな? でも、あなた達の好きな解釈でいいですよ、もう」


 どうでも良いと思うこの大輔の発言に、その女子が一歩前に出た。


「やめなさい」

 奈緒がその女子を制止して、さらに大輔に聞く。


「もう一度聞くけど、細井君は、どうしてそんなに女子からの告白を全部断るのかな? それは学生の時からなのかな?」


 その奈緒の問いに対して、どう答えてよいのか考えるが、今まで答えてきた様に返すしか無いと思い、何年も続けて答えてきた事を、また繰り返す事にした。


「じゃあ、聞きますけど。俺みたいな普通の男子に、何でわざわざ声を掛けてきてくれるんですか? オレはそれが不思議でしょうがない。 学生の頃だって、オレみたいな男子に声を掛けるよりも、もっともっと頭が良くて、イケメンに声掛けをすればいいのに、わざわざこんなオレに声を掛けるなんて、オレは、意味が分からないんですが」

「・・・・・・・・?」


 奈緒が、“何言ってんだコイツ” 的な目で、大輔を見る。


 そして。

「ちょっと待て。それは本心か?」

 と、問うと。

「? えーっと....、本心を言ったつもりですが...」

 すると、呆れ顔になった奈緒が、取り巻きの女子たちに向かって、笑い出した。


「聞いたか? コイツ、マジで言ってんだ、ホントにホントだったんだな、あの事って...」

(あの事?)

 大輔は、言われた事に不可解な表情をした。“コイツ”と言われた事にも、若干だが憤慨した。


「ちょっと、先輩たち、何言ってるんですか?」

 本心を言ったつもりだった大輔だが、女子達が揃ってイヤな含み笑いをし出したので、気分を害した。 それに素早く察知した美穂が、さらに追い打ちをしてきた。

「君は自分の容姿に、自信が無いんだな。 それに自覚が無いという事が、さらに本当に残念だ」

「その言い方は、オレがまるでイケてるとでも言っている様に思えるんですが...」


「あらら。 マジ、面倒くさい。 菜穂さん、もうこんな見た目だけの男なんてほっといて、他をあたりましょうよ」

 一緒に居た中の女子が、蔑むように言い、その言葉に他の女子も、賛同するように。

「そうだね、いつまでもこんなのに関わっていても、こっちが惨めになって来るだけだから、もう行こうよ」

「....って、まあ、細井クンと言うのが、中身が残念な男子って事が十分に分かったんで、撤退しましょうか、みんな」

「はい。 じゃあね、ほ、そ、い、く、ん」


 子馬鹿にしたような態度で、3人の女子事務員は、その場を去って行った。



 だがその後、事態が変わる事になる。


 





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