13話
13
今日の帰社時の恵と三人で交わした話し合いの事を、姉の有美に説明した。
「で、最後にその会社の先輩の 恵さんが最後に言った言葉の意味が分からなくて、由香と二人で考えていたんだよ。どう思う?姉ちゃん」
「どういう意味でそう言ったのかは、その時の状況に居た状況からでないと分からないが、分かるとすれば、何か対策の糸口があるという事かな」
「解決策があるって事なのかな?」
「う~ん、そうとも取れる言い方だな」
そこで有美が何かを考えているさらにそこへ。
「いらっしゃいな、由香ちゃん」
「あ、おばさんこんばんは。遅くからお邪魔してます」
母の香が、トレイにお茶セットを持ってやって来た。
「いいのよ。...で、何か相談事なのかな? いつも大輔と仲良くしてもらってありがとね」
「いえ、こちらこそ大輔クンにはお世話になってます。ありがとうございます」
「うふふ、ホントに良いのよ。 大輔の事なら、良い様に利用してやってね。なんなら、婿に貰ってやってくれてもいいわよ」
「おば.....」
「おほほ.....」
今日は何度由香の顔に火が付いたのだろう。最後に大輔の母親からの、大型爆弾並みの攻撃は、由香の顔を赤鬼の様にするには十分な攻撃だった。
言いたい事だけを言い切った香は、 それじゃあ おほほ~、と言って、部屋を去って行った。
「嵐だったな、母さんは」
「さすがウチの母、見事な由香に対する攻撃(口撃)だったな」
そう言い、姉弟は揃って由香を見ると、ものの見事に、しっかりと凍結されていて、しかも、意識も何処かへすっ飛んでしまっている由香を確認した。
((母さん........))
△
“お~い、お~い”と、固まっている由香を、姉弟二人で協力して解凍して、少ししてからやっと融解し始めた由香が、なんとか意識が戻り始め掛けてきた。
その戻り始めた意識の中、呼びかけた大輔の返事に由香は。
「だ、大輔。私たちの赤ちゃんは、大丈夫なの?」
いきなりのとんでもない由香からの発言に、大輔は。
「あ....、ああ、大丈夫だ。ちゃんとオレが抱いている」
と、咄嗟に話を合わせた。すると.....。
「ありがとう、大輔。 大好きよ。愛してる」
コレに、姉弟二人は固まった。 さすがの有美でさえ、固まったのだった。
これはどう言う事なのか、困惑してしまう様な事を由香から言われてしまい、大輔は由香の意識がまだ戻って居ない、いや、妄想をつい言ってしまったのか、はたまた、本当の由香の本心なのか、たった今の出来事に大輔は由香に対して、考えさせられる事になるのだった。
有美が由香の頬を軽く ペシペシ と、数回叩いていると、やっと正気に戻ったらしく、瞬きしながらあっちこっちを見ていた。
ようやく視線が戻り、正気になったところで。
「ところでその“性悪女将軍”の名前だが....」
「あ~、谷川だよ、谷川 奈緒」
「な.........」
このフルネームを有美が聞いた時、その表情が一気に険しくなった。 まるで何かを知って居る様に、歯ぎしりもし出したのだ。
「タニカワ~.....、あのイカレ女、性懲りも無く、いまだに周りに迷惑を掛けてるのか」
その表情を見て、大輔と由香が驚いた表情をした。
「姉ちゃん、谷川って知ってるのか?」
「あぁ、アイツは学生の頃からの寝取り女なんだ。 それにしても、谷川 奈緒。社会人になっても、性根が変わっていなかったんだな。進歩が無い可哀そうな女だ」
「って、同級生なの?」
「大学の同期だ、って言って欲しくない程、イヤなヤツだ」
自分の姉からこの様な言葉が出てくるなんて、今まで無い事だ。 めったに人の悪口をいわない姉が、このような態度をとるという事は、相当な事があったのかもしれない。そう思った大輔は、由香に対する先日の態度は、谷川にとってはまだ序の口なのだと言う事を、姉の口から知らされるのだった。
「何か対策の糸口はないのか?」
「う~ん、今のところ、その恵さんしか頼れることは出来ないかな。でも、一人に任せっきりと言うのも、何だか気が引けるし、悪いし.....」
「ちょっと待て大輔、そのさっきから言っている先輩の“恵さん”って言うのは、もしかして、藤堂 恵さんか?」
「違うよ、鈴木 恵さんだよ」
「そっか、勘違いだったか」
「でもね、常に会社的には正義の味方な人だよ。仕事は厳しいけど、あったかい人だよ」
「そうか、私の人違いか、残念だったな」
だが、会話の後に大輔が意外な事に気づいた。
「あ!!」
いきなりの大輔の大きな声に、有美と由香がビクついた。
「な、何だ大輔、ビックリしたぞ」
「姉ちゃん、オレ思い出した」
「?」
二人の唖然としている表情を見て、大輔が思い出したことを姉に告げた。
「姉ちゃん、そう言えば、恵さんって、旧姓って、“藤堂”だった」
「え!」
「恵さん、今は結婚して、お子さんが居るんだ......、けど、何で恵さんの事を知ってるんだ?姉ちゃん」
先ほどから会話について行けない由香も、この姉弟の会話に真剣に聞き入る。
「はは~ん、わたしの通っていた大学の先輩なんだよ。しかもサークルも一緒だ」
「ええ? でも、姉ちゃん27なのに、恵さんは、え~っと、確か32歳って言ってたけど、そうなると、恵さんの在学中、一緒に要る接点が無いじゃないか、何で知ってるんだ?」
「へっへ~ん。 今でも年一回、そのサークルのOB会があって、会ってはいるんだ。気が良く合うんだ、だから今でも結構親しくしてもらっているし、連絡先も知ってるぞ」
「わ!、姉ちゃんグッジョブ、ファインプレーだ」
これで何とかなると思った大輔は、由香に安心させる様に。
「由香。あのDQN達、これで何とか解決が出来るかもしれない」
この大輔の言葉に、由香がホッとした。
「ほんと?」
「まあ、やり方次第だけどな。でも、気になる事があるな」
「ん?何だ、大輔。 何か気になる事があるのか?」
もったいぶらせる様に、思案する振りをして、有美にその気になる事案を話してみる。
「その奈緒先輩なんだけど.....」
「どうした?」
少し言い辛そうに。
「社内恋愛しているみたいなんだ」
「は!?」
拍子抜けした有美の表情に、大輔は、違う違うと言わんばかりに、右手を左右に振る。
「違うんだ、どうやら友人情報で、社内の部長と 不貞な恋愛をしているらしいんだ」
「ま、所謂 不倫ってヤツか?」
「ま、そう言う事なんだけど」
有美から何やら不敵な笑みが見えた。
「それ本当だったら、奈緒自身が、自分から墓穴を掘っている事になる。最終的に、社内処分だけじゃなく、相手が既婚なら不貞行為となって、補償問題になり、慰謝料という事態が発生する事になる。なのに、社会人になっても見境なく、今だ学生気分で恋愛をしていたという事に、罪の意識が無いのが、痛いヤツだな」
この姉の言葉に、由香は自分の事ではないのに、体が震えてくるのを自覚した。不倫と言う、不貞な行為をした代償と言うのが重いと言う事に、社会人としての軽々しく不貞な情事をしてはならない事を知った。
「怖いですね。私はそんなリスクを負ってまで、そんな関係は持ちたくないです」
「だよな、由香はこの大輔の“彼女”だからな」
いまだに“寄ってって”での会話の事を言われ、由香はまた恥ずかしさが込み上げてきた。
「ねえちゃん!」
「ほほほ、怒るなよ。でもさっき、由香の本心を聞いただろ? お前もいい加減に観念しろ」
「???」
「覚えて無いみたいだな由香。お前がさっき気を失っていた時に.....むぐぐ....」
有美の口を抑えたが。
「姉ちゃん、それ言っちゃダメだって」
すぐに外され。
「由香、お前の脳内では、すでに大輔との子供が生まれている設定なんだな」
「!!!!!!」
言った。
有美が言ってしまった。
「だ、い、す、け?..........、聞いたの?、わたしそんな事...、言ったの?」
仕方なく大輔がゆっくりと頷くと。
「いやぁ~!!!」
今までに無い程の大きな声量で、由香が叫びながら、泣き出した。
「うえ~ん........」
(あ~、こりゃダメだ。暫く話が出来ないぞ)
大輔はそう思い、由香の泣き止むのを待つ。
しかし、社内事情の話から、有美の先輩の話になり、それからは一気に飛んで、由香の大輔に対する心の奥底の思いの暴露話に次々と進み、今現在は、由香が泣き叫ぶと言う事になってしまった。
(それにしても、由香って、オレに対して、そんな事を思っていてくれたのか)
と、大輔は、何処からか、安堵感と、由香に対しての、何かしらの熱い感情が一気に広がるのを自覚した。




