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2.計略

少し地味なパートですが、どうしても外せないのでお付き合いください…

1943年9月26日 1500 陸軍宗谷要塞 司令部

宗谷要塞司令官、平野恒三郎中佐は自責の念に苛まれていた。

6日前に宗谷海峡を敵潜が突破、しかも昨日にはその敵潜による初の犠牲が出た。

平野中佐は素から責任感の強い男であった。自身の目と鼻の先を通過した敵に気づけなかったことは、彼には許せないことであった。

 宗谷海峡の防衛は私の責務だ…そこを、夜間とはいえ浮上した敵潜に通過されるなど…

 我々が発見していれば、太湖丸の乗組員は犠牲にならずに済んだ…

北の海に沈んでいった太湖丸と数百人の乗組員のことを思うと、居ても立っても居られなかった。

 この雪辱は必ず晴らさねばならない。

「至急、宗谷岬砲台部隊長の斎藤中尉、それと西能登呂岬砲台部隊長の北村大尉を呼んでくれ。」

「はっ!」

ただならぬ雰囲気を感じ取った通信員は、緊張しきった面持ちで敬礼して足早に去っていった。


1943年9月26日 1630 陸軍 宗谷要塞 司令部

堅牢なコンクリートで固められた薄暗い半地下の司令部には、平野中佐、斎藤中尉、北村大尉の3名の士官が集っていた。

じめりとした重苦しい空気の中、平野司令が口を開く。

「今日呼んだのは他でもない、昨日大島沖で太湖丸を撃沈した敵潜についてだ。航路状況から、奴は恐らく帰路もこの宗谷海峡を通過するものと思われる」

斎藤中尉が声を上げる。

「なるほど、雪辱戦ということですね?」

「そうだ。そこで、敵潜を撃沈するための諸君らの考えを聞きたい。」

北村大尉が低い声でゆっくりと答えた。

「往路と同じく、敵潜は夜間浮上突破を図るでしょう。発見は警戒監視を厳にするとして、問題は攻撃ですね」

斎藤中尉は首をかしげる。

「攻撃は問題ないのでは?宗谷岬砲台、対岸の西室戸岬砲台には26000mの長射程を誇る九六式十五センチカノン砲が4門づつ配備されていますから、45kmの幅の宗谷海峡は容易にカバーできるでしょう」

平野中佐は大きく首を振った。

「いや、確かに初撃は砲で可能だが、もし十分に損害を与えられなかった場合、潜航されたら砲では手も足も出なくなってしまう。」

北村大尉が深く頷いて答えた。

「ええ。ですから、ここは大泊港と稚内基地の海軍の力を借りましょう。」

斎藤中尉が目を丸くする。

「か、海軍…ですか?」

驚くのも無理はない。このころ、陸軍と海軍の関係は決して良好とは言えなかった。陸海軍が協力して作戦を遂行するのは極めて稀であり、双方のプライドがそれを許さなかった。

しかし、平野司令は初めてニヤリと笑ってつぶやいた。

 こうなってはなりふり構っていられない。

「名案だ。それで行こう。海軍宗谷防備部隊指揮官、岡恒夫中佐に協力要請を出せ」

秋の夕暮れ時に、いずれ来る雪辱戦の準備は着々と進んでいった。


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