1.始まりの狼煙
1943年9月25日 0730 北海道 大島沖42km
宗谷海峡を通過したのち、「ワフー」は潜航し、南南西に向けて4ノットで航行していた。
「ソナーに感!本艦艦首より136度の方向、3000mの距離に敵船!速力9ノットで南へ航行中!」
一気に発令所に緊張が走る。
モートン艦長は即座に指示を飛ばした。
「速力このまま、取り舵一杯、西へ」
「アイアイサー、速力このまま、取り舵一杯!」
ソナーマンの声が上ずる。
「敵船、方向変わります、120,100,85,50度」
「舵戻せ!進路まっすぐ」
モートン艦長はニヤリと嗤って続けた。
「潜望鏡上げろ…よしそうだ。3000トン級の輸送船だな…、魚雷発射用意。」
進路を変えると、まさに船は「ワフー」の目の前を通過するところだった。いつものことながら乗組員はその技量に舌を巻く。
「一番から四番まで射角2度、雷速29ノットで発射。のちに100mまで急速潜航。」
「一番打て!二番打て!三番打て!四番打て!」
断続的な激しい空気噴射音とともに、4本のMk18魚雷が飛び出した。
同時刻 大島沖44km
「左舷2000m、雷跡4!」
東亜海運のタンカー、太湖丸の船橋には見張りの乗組員の悲鳴が響いた。
Mk18は電気推進魚雷であり、はっきりした雷跡を引かない。それを2000mの距離で発見した見張り員は大したものだが、いかんせん相手が悪すぎた。
突然の報告に船長は動揺しつつも、魚雷をかわすために指示を出した。
「と、取り舵一杯!後進一杯!」
「了解!取り舵一杯!」
操舵手は事態を呑み込めないまま、必死に舵輪を回す。
ゆっくりと、しかし懸命に太湖丸は向きを変え始める。
間に合ってくれ…!
船長の想いも空しく、船腹に雷跡の1つが飛び込んだ次の瞬間、大爆発とともに船体は引きちぎられた。
太湖丸は断裂した船首を大きく上げたのち、ものの5分で轟沈してしまった。避難する時間もなく、甲板にいた乗組員は海に投げ出され、船内にいたものは船と運命を共にした。
大爆発の煙は立ち昇り、日本海における死闘の狼煙は高く上がった。
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