プロローグ
1943年9月20日 2330 宗谷岬沖15km
「艦長、遂に来ましたね」
少年のように目を輝かせて、副長が話しかけてきた。
「そうだな。ここを抜ければ日本海だ」
ダドリー・W・モートン艦長は、昂る気持ちを抑えるために、努めて冷静に返した。
感情が表に出るようでは、クレバーな判断はできない。今までだって冷静な判断で常に勝利をつかんできたのだ。
我が軍も快勝を続けているようだし、ここは派手に戦果を挙げていきたい。
撃沈総トン数37000トンを誇る米海軍屈指の潜水艦長は、夜の潮風を吸い込んでそう思った。
期待にこたえるように潜水艦「ワフー」は快調な機関を震わせ、鋭利な艦首は夜の海を白く切り裂いていった。
1943年9月22日 1300 大泊沖54km
日本海軍艦艇、第15号駆潜艇は何度目かもわからない定期的な哨戒任務に出ていた。
「艇長、現在12ノットで東北東に向け航行中。聴音、異常ありません。」
着任したての若い士官が、緊張しきった声で伝える。
「うん、ご苦労。」
木村清四郎大尉は、そんな様子をほほえましく思いつつ、できるだけ柔らかい口調で返した。
この第15号駆潜艇に乗り込んでもう2年半になる。一々報告を受けなくても速力や方角は分かったが、乗組員の育成のために逐一報告させるようにしていた。
木村はこの艇が好きであった。駆潜艇は足は16ノットと決して速くはないし、水上武装も8cm高角砲1門、13mm連装機銃1機と非常に貧弱である。しかし、船幅が広いおかげで小回りはきくし、対潜兵装は爆雷投射機2機と水中聴音機まで装備して、駆逐艦に負けないくらい強力であった。
「このくらいがちょうどいいんだよなあ」
そんなことをつぶやいて、指示を飛ばした。
「速力そのまま、進路、北北西へ!面舵一杯!帰投するぞ!」
日本海にも敵潜が入ってきていると聞いたし、次の出撃までの間も短いだろう。皆をできるだけ長く休ませてやりたい。
「了解!進路、北北西、面舵一杯!」
くるりと旋回すると、第15号駆潜艇は帰路についた。
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