八話
奇妙な生活。そういえる日々を勇者は過ごしていた。
確かめたい事や知りたい事など、気になる事は沢山出来てしまったのだが、色々と整理をつける事が出来ず、この〝還らずの森〟に簡易的な小屋を作り、そこで少し考えを纏める事にしたのだが……。
「こら! 今拭いてあげるから待ちなさい!」
「キャン!!」
奇妙な生活と言える理由。何故か女魔族と子狼が一緒に居る。
勇者としては子狼は居ても良い、むしろ是非にでもと言った思いはある。だが、何故女魔族まで此処に居座っているのか。
彼女は「この子の面倒は誰が見るのよ? むしろ私が見るべきでしょう」と言い切った。
余りにもの剣幕さに、勇者はこの小屋に女魔族が居座る事を許可してしまったのだが……何故だ! と、思う反面、許可した以上それを反故にするのは躊躇われた。
その結果。人と魔族が共同で子狼の面倒を見るという、奇妙な空間が生まれた。
「それにしても成長が早いな」
「当然じゃない。成長が遅ければモンスターの餌になるもの。ゆっくりと成長していられる生き物なんて、人種以外居ないわよ」
女魔族が言った人種。これは人間だけでなく、人間が言う亜人である獣人や魚人などに、魔族……彼等曰く魔人族の事で、人の形をしていて意思疎通を取れる者達の事を指す。
実際の所、見た目やスペックが違うと言うだけで、使う言語が同じであり会話も出来るのだが……過去の事が原因で全ての人種で、険悪なムードになっているのが今の時代。そして、全ての始まりなど全ての種族が忘れているという、どうしようもない状況だ。
「そういえば、どこぞの学校のお偉いさんが、全ての人は全て同じ根源から生まれている! なんて言ってたな」
「さて、どうなのかしらね? 同じと言うには違いが多く出てるのだから、何が正しいかなんて解らないし」
「まぁそうだな。当然だが、異端者だと叩かれまくったって話だ」
「人間はそうよね。自分達が一番だと思ってるもの。全く違う長所や短所が有ると言うのにね」
排他的。その言葉が正しいだろう。基本的に人間の土地では人間至上主義が蔓延っており、それを主導しているのが教会と国。
教育を行う人達が其れなのだから、当然その教えが当たり前となり、子供へと受け継がれ、魔人はモンスターと交わった者で魔族(神にそむいた者)、獣人は獣と交わった者で亜人(人より劣る者)と言うのが常識と化していた。
当然だが、それに対して異論を唱えるのが獣人達。魔人族の人達は、魔王至上主義なので攻めてこなければ、人なんてどうでも良いと、そういう流れが過去に生まれ今も続いている。
「人とは何なのだろうな?」
そんな事をぼそりと口にしながら、子狼と戯れる女魔族をチラリと見る勇者。
彼の目には、女魔族が人と全く変わらないように見えて仕方ない。むしろ、一緒に旅をして来たあの三人に比べれば、かなり常識的なのでは? と思えてしまう。
人と魔族と亜人の違いに、常識とは何なのか、異常とは何なのか。その狭間で揺れる勇者に、答えを教えてくれるモノは居ない。
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二人は、かなり惰性で一緒に居ます。と言うか、お互いに今までと違う人種だけに、興味を持ち観察しているような状態。