七話
「人間と戦う理由……ね。私にも解らないわよ」
勇者に聞かれた女魔族の返事。それは解らないと言う物だった。
そもそもの話、魔族からしても人間と同じで、人間の攻撃は迎撃する物が常識だ。
そして、その常識が生まれて既に何千年と言う時が経っている。どちらの陣営も根源となる部分など既に忘れてしまっているのだろう。
ただ、一人をおいては。
「そもそも、魔王様が何を考えているのかすら解らないのよ? 人間なんて迎撃しなくても、魔族が全軍で進軍すれば人間なんて簡単に滅びるでしょうし」
勇者はその言葉に対して顔を顰めてしまうが、女魔族の言う事は正しく、魔族が本気を出して攻めてきてしまえば、人間の世界など疾うの昔に滅んでいる。
ならば、何故滅んでいないのかと言えば、人間側からの答えだけなら〝勇者が居るから〟なのだが、その勇者自信がそれを否定した思いを持っている。
なぜなら、勇者一人では魔族全てと戦える力など無いと、本人が一番理解して居るから。
もし、人間と魔族が全軍でぶつかったとしよう。そうなると、勇者と勇者のパーティーは誰と対峙するのか? それは、魔王やその側近達だ。
そして、魔王と戦い必ず勝てるという保障も無い。が、例えば魔王が単独で勇者達と戦い、勇者達が魔王に勝てたとしよう。だが、それは他の魔族達が人間を滅ぼすのと、どちらが先かという話になる。
そして、残った魔族と勇者達のパーティーとの戦いだが、人類が居ない世界で戦う理由が勇者達に残るのか? と言う話だ。まぁ、復讐と言う理由付けにはなる。だが、魔王の側近達や親衛隊などを全て相手に、たった数名のパーティーのみで戦うのは、如何考えても勝てる訳が無い。
故に、人類と魔族の戦いは、必ず魔王が侵略せず、勇者に対して全軍で当たらず、ただ待ち構えている。その前提があるから成り立っている。
こうした内容を女魔族と話してしまい。勇者には今まで薄っすらと有った不思議な違和感。それに気がついてしまう。
「なるほど、そう言う事か。この戦いを始めてからあった違和感がやっと理解できた。俺達人間が教わっているように、〝勇者が居るから魔族と戦える〟とか〝勇者が世界を救った〟なんてのは間違いなくまやかしだったって事か」
勇者からしてみれば、魔族にお膳立てをされ、魔族に成長するのをまたれ、まるでゲームのキャラのように相手をされる。そうとしか思えない事実。
それに気がついてしまい、勇者と言う存在の意義や戦う理由の全てが音を立てて崩れていってしまった。
「さて……如何したものかな。知れば知る程、戦う理由が無くなるじゃないか」
「まぁ、状況を整理しただけでも、人間が侵略者。魔族は迎撃しているだけだからね」
女魔族の言う通りだな。と、勇者は心の中で溜息を吐く。ただ、こうなると魔王に対する疑問や疑惑が生まれる。
何故、この状況をキープしているのか? と。
真に魔族を守る為ならば、魔族が侵攻を開始すれば全て済むはずなのだから。
人間と魔族。その関係や歴史などに、少し踏み込んでしまい勇者は揺れる。
一体誰に何を聞けば良いのか。何処になにを調べに行けば良いのか。
王や教会に問い詰めるべきか? それとも、魔王の元に突撃し会話を試みるべきか? そういった思考が、勇者の脳内と心の中で入り乱れていた。
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勇者は葛藤の時期に入ります。情報量も多すぎて普通ならパンクするんじゃないでしょうか? 発狂もしくは思考停止するか。