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四十四話

 ゆらりゆらりと勇者が歩く。

 今しがた、勇者の語りを邪魔した魔王へ向かって。


 ゆらりゆらり、ふらりふらり。

 一見、足取りが定まらず、隙だらけといった感じなのだが、相対する魔王は全く違う印象を受けているのか、勇者の動きを警戒し待ちの態勢を取っている。


「……あいつはさ。本当ドジな癖に周りに頼らず自分が家事をするって頑張ってたんだよな」


 そう力なく呟いた勇者だが、片足をゆらりと前に出したかと思えば、既に魔王の目の前へと移動をしてた。

 驚く魔王。だが、驚いただけで勇者の行動に対応出来た訳ではない。


 ガッ! と、音が響いたかと思うと、勇者は虫でも払ったかのようなポーズを取っていた。

 ただ、その虫はと言えば、魔王だ。勇者の手のひらで払われた場所は魔王の腹に当たり、その威力は……。


「がっ!?」


 相当なダメージが入ったのだろう。魔王は攻撃を食らったと同時に、体内の酸素をすべて吐き出しながら、後ろへと下がった。いや、下げられてしまった。


「見てて楽しいぐらい頑張り屋でな? 日を追うごとに料理が上手くなるんだよ。俺も一人で放浪したりしてたからさ。それなりに自炊は自信が有ったんだけどな。ここ数日はもう、毎食あいつが作ってたんだよ」


 思い出しながら話す勇者。その内容で思わず柔らかく笑う勇者だが……行動は別。

 下がってしまった魔王に、一瞬で追いつくと今度はローキックを魔王の足へと入れる。


「なに!?」


 余りにもの速さに魔王は驚愕するが、それもつかの間。すぐに足へのダメージで思考が移ってしまう。ただし、そのダメージはボキッ! と言う音を鳴らしながらだが。


「お……折れただと? ただのローキックで? クハハハハ! 愛や友情と言った物で、奇跡でも起こし覚醒したか!」


 しかし、魔王と言われるぐらいの男だ。ただ骨を折られた程度道という事はない。即座に折れた骨を修復し、勇者に向かって戦闘態勢をとる。


 だが、勇者はそんな魔王を気にすることなく独り言のように呟きを続けていく。


「そうそう。もふもふの取り合いもしたな。どっちがブラッシングするかで、一時間ほど口論したんだよ」


 ブラッシングと言いつつ、今手にしたのは聖剣だ。


「随分と物騒なブラッシングだな」

「そうか? 魔王の毛ともなればこれぐらいの刃は要るだろう? まぁ、抜くのは毛じゃなくて頭だが」


 やっと会話が出来たようで、その中身は会話になっていない。一方的な殺戮宣言だ。


「見ろよ。なんか魔力が愉快な事になってるんだよな」


 勇者が言うのと同時に、勇者が発する魔力が聖剣へと纏わりつく。

 それは、先ほど勇者が魔王の主刀を受けた時と全く同じ魔力。黄金と漆黒が重なり螺旋を描き、融合しては分離をし、不思議な模様を常に描いているかのような魔力。

 このようなものを見れば、得体の知れないものだと恐怖したり、未知の現象だと距離を取ろうとするだろう。


 だが、魔王は……実に楽しそうな笑顔を浮かべていた。


「良いな。実に素晴らしい。さて、勇者よそれをどうするつもりだ?」

「さぁ? ただ、何だろうな。こうすれば良いんじゃないか?」


 やる気がなさそうに言う勇者。動きも実に緩やかだ。




 しかし、その魔力は、聖剣は魔王の胸を誰も気が付かない内に貫いていた。

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