表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/64

五話

 女魔族の説明は彼女の言う通りで、何も面白い事は無かった。

 だが、その説明におかしな反応を示したのは勇者だった。


「……と言うと何か? 貴様は魔族の癖に、赤子の狼が可愛いから守っていたと?」

「魔族の癖にって……それは偏見すぎない? 私だって可愛いと思えば手助けぐらいするよ」


 この、赤子の動物を守るという行為に、かなりのショックを受ける勇者。

 それもそのはずで勇者が受けた教育とは、〝魔族は絶対悪で弱いモノは助けず甚振る者達〟と言うのが常識の様に語られていた。

 しかし、今現在において彼の目の前に起きている光景は全くの正反対。これはショックを受け混乱しても仕方ない話だろう。


「なによ? 私がこの子を可愛がるのがそんなにも意外なの? 其れとも人間にはこの可愛さが解らないのかしら」

「いや、そのモフモフが可愛いのは認める。だが、余りにも常識外過ぎて理解が追いつかん」

「常識外ね……まぁ、それを言ったら私にとっても同じよ。なんで人間がこんなところまで入り込めるのか……私達からすれば、余りにも考えたくない状況よ」


 お互い様。と言うのはこう言った状況の事を言うのだろう。

 魔族にとって人間はひ弱な者で、群れなければ何も出来ない弱者。

 人間にとって魔族は心の無い荒くれ者。人間を襲い殺戮の限りを尽くす排除すべき相手。

 そういった認識だったはずなのに、今この二人の状況がその〝当たり前〟を否定している。


 ただし、女魔族にとっては一つだけ……そう、一つだけ心当たりが有る。

 故に、相手の正体に当たりを付け、話を振ってしまう。


「一つ聞くけど、こんな所で人間が散歩をするかのように歩いている。しかも魔族の私より強い人……勇者で良いのよね?」


 実際の所、戦闘中にも女魔族は勇者だと考え、相手に勇者と呼びかけていたのだが、余りにも勇者と言えるような言動ではなく、勇者自身もそれに対して否定も肯定もしなかったので、今再び勇者に対して確認の意味を込めて質問をした。


「まぁ、こんな場所に来る事が出来るのは勇者のみだろう? もしくは勇者に付き従っているパーティーメンバーだ」

「あら……そういえばパーティーメンバーは居ないみたいね」

「ふん。俺は単独の方が戦えるからな。っと、そんな事は良い。貴様……そのモフモフを如何する積もりだ?」

「貴方に会わなければ、家に持ち帰って育てるつもりだったけど……私を逃がすなんて事はしないのでしょう?」


 育てる。その言葉を聞き勇者の心は揺れた。

 魔族が何を言っているんだという思いと、目の前の状況、主に子狼を優しくなで微笑みかけている女魔族の表情。

 果たして、ここでこの女魔族を殺害し、子狼を奪って良いのだろうか? その思考が勇者の脳内を駆け巡る。

 従来の勇者であれば、有無も言わずに斬り殺していただろう。しかし、旅をする中における度重なるストレス。漸く一人になれたという安心感。

 そんな勇者の前に突如として現れた女魔族。そして、彼女との会話による異常な状態。

 もはや勇者には、正しい思考と言う物が出来る状況では無い。と言うよりも、何が正しいのかすら解らなく為っている。


「少しだ。少しだけ時間をやる。お前は俺の質問に答えていけ。後、余計な事は言うなよ」


 なので、少しでも疑問を解消する為に、勇者は対話をする事を選んだ。それが、どれだけ今までの認識を覆すのか、薄っすらと感じつつもそれを否定するかのように。

ブックマーク・評価ありがとうございます!!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ