三十四話
緩やかな時が流れる。
化物事件以来、大きな事件も無く人々は一時の平穏を享受していた。とは言え、何事も無い訳では無い。
不当な奴隷解放による変化や、勇者と魔王の共闘と言った衝撃的なニュース。
大きな点と言えばこの二つだろうか。しかし、この二点について世界は大きく揺れたのも間違いでは無い。
しかし、その揺れにより様々な人達が色々と疑心暗鬼になり調査をメインに動いており、平和な状態が続いているといっても良い。
薄氷の上を歩くような平穏とでも言った所だろうか。
その様な中。勇者達はと言うと、此方も〝還らずの森〟の中で何時も様に生活していた。
勇者は、元パーティーメンバーが彼を探し、人の領域に居る人達が勇者の声を聞きたいと願っている事などしらずに。
女魔族と男魔族はと言うと、魔王に勇者と交流を持っている事がばれた事により、ドキドキハラハラとしながらも、許されたんだよね? と、微妙に疑心を抱きながら、それでも勇者の元を去らずに日々を過ごしていたりする。
「うーむ……モフモフも大きくなってきたなぁ」
「わふ!」
「よしよし。可愛いモフモフには、このオークの骨をやろう」
そして、子狼もまたこの環境下の為か実に成長が早い。早いのだが、勇者がとことん甘やかすので、甘え癖が抜けず勇者にべったりとしている。
たまに、女魔族が甘やかしすぎ! と怒るのだが……まぁ、効果は無い。
「平和っすねぇ……兄貴、今日も余り目立つ情報は無いっすよ」
「そうか。と言う事は、まだどこの陣営も動かないか……おつかれさま。風呂が沸いてるから入ってもいいぞ」
「お! 風呂っすか! 頂きます!!」
今日の情報収集を終えた男魔族が帰って来て、勇者に報告するものの一切の動きが無い。
ただ、全ての陣営が情報収集に徹している状態なので、それも仕方の無い話だろう。
とは言え、これが凪の状態であるだろうと勇者は考えている。
間違いなく、動き始める者が居るはずだ。何せ、奴隷が開放され、あのような化物が暴れたのだ。
奴隷を欲して動く者。化物を作り出そうとする者。化物が暴れた後の土地を狙う者。
例題を挙げれば限が無い話だが、この三点においては間違いなく狙っている者が居る。何せそれが人間の業と言う物だ。
今まであった物を手放す事が出来ない。見てしまった巨大な力を手に入れたい。空いた土地があれば、そこを領有したい。
この程度の事なら考えないわけが無い。だからこそ……必ず動きを見せる者は出てくる。
「さて、魔王は……どのタイミングで動くんだろうな? ま、化物には手を出さないだろうけどな」
勇者は魔王の動向を気にする。
魔王から受け取った資料から化物が何かと言う事を知り、ソレに手を出すことは無いだろうと判断するが、それも全てを信用している訳では無い。
兎にも角にも、勇者は沈黙する。
勇者の中にある疑問は有る程度解決したのだろうか? 今までのような、考え込むといった雰囲気は無いのだが……それでも、勇者は動く気配が無い。
一体何故なのだろうか? それは……もしかしたら、今の生活を思った以上に気に入ってしまったからなのかも知れない。
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束の間の……。




