二十五話
獣人奴隷を解放した勇者達三人は、これ以上は余計な接触を避けるべく一気にこの戦場から離脱した。
とは言え、何も言わずに去る訳にも行かないので、男魔族が彼の持つ伝手の相手に一言だけ告げて置いてからだが。
「良し、これで正体がばれる事無く救出出来たな」
「皆お面をみて、吃驚してたわよ? 可愛く出来すぎたのかしら?」
正解は、獣人で無いものが救助してくれた事に驚愕していたのだが、お面で顔を隠している勇者達にとっては、正体がバレていないと考えているので、全く見当違いな会話をしていた。
「うむ。そうだろうそうだろう! その狐のお面は自信作だしな! この狼ももふもふに大絶賛だしな! であれば、獣人達にも、こう友好的だったり可愛く見えたりとするのは当然だろう!」
自信満々に言い切る勇者。このお面は彼のお手製なので自画自賛だと言いたい所だが、実に出来が良い物なのは間違いなく、確かに獣人……それも女子供には受けていた。ただし、彼等の正体は獣人達には完全には隠せていなかったのだが。
ただそれでも、出来が良いお面をつけた者が助けてくれた。その事は事実でその仮面も女子供の目を引いたという事で、後々獣人の国では救世主のお面として売り出される事になる。
まぁ、カルガモのお面だけは何故かネタ枠で売られ、コアなファンが着く事になるがソレはまた別の話。
「それにしても、被害無しで救助が出来て良かったわね」
「ふん。あの程度なら俺達の内、一人でも問題なかったと思うがな」
確かに一人で行ったとしても作戦は成功しただろう。しかし、勇者は慎重なタイプだ。奴隷側に被害を無くす為に、アクシデントがあった時の為にと、三人全員で出撃した。
「兄貴戻りました! なにやら面白い事になってるみたいですぜ!」
「ほう? 面白い事と言うと……逃げた臆病者が捕獲されたか?」
「いえいえ! どう言う訳か、他国が動いたみたいで……戦争をしていた人間の国が攻撃されて居るようです」
「は?」「え?」
勇者と女魔族が何とも気の抜けた返事を返した。しかし、そんな返事も仕方ないだろう。何せ……余りにも他国の動きが早すぎるからだ。
何せ、少し前に人間側の軍が崩壊したばかりだ。それは勇者達がやった行為なので間違いが無い。
なので、もし他国が動くにしても、まだまだ先の話だろうと思う事は普通の話。しかし、現状は全く普通で無い事が起きた。
「何がどうなってるんだ? 余りにも早すぎないか?」
「へい……ソレがですね。どうも、俺達が戦場で暴れてた頃には既に動き始めてたみたいで」
「は? 既に動いていた? あの、基本的に動きが鈍間すぎる奴等がか?」
「えぇ。どうやら獣人との間にやり取りがあったみたいで……」
やり取り。人間側からは確かに支援をしようと獣人に話を持ちかけた国がある。
それは、反奴隷を謳っている国や、不当な奴隷狩りを止めろと言って来た国達だ。しかし、そんな彼等も本来なら支援物資や金銭を送る予定だった。
だったのだが、獣人からの返事は直接奴隷を助けてやって欲しいと言う事。
従来であれば、そのような話は受け入れないのだが、どういう訳か彼等は……人間側が戦争に負けると確信していたようで、奴隷を推奨して居る国が軍を挙げた後、直に部隊を展開した。
結果……守りの薄くなった国は、他国の猛攻を防ぐ事が厳しい状況に置かれている。
「という事は、戦場に出ていない者達も開放される可能性が高いという訳か」
元の作戦ならば、捕らえた将等と奴隷を交換する予定であった。
そして、獣人達もそのつもりで敵将や身柄の良さそうな者達を捕虜として捕らえていった。
だが此処に来て、他国による介入が始まった。
「……まぁ、誰が裏で糸を引いたのか解らんが、無事に開放される事を祈るか」
「そうね……でも、誰かは少し探っておきたいかな?」
「姉さん任せてください! 俺がちょっと見てきます!」
そう言ってスッと消える男魔族。もはや完璧に漫画の様な忍者である。
これで、獣人奴隷の問題は一先ず片付くだろう。しかし、この裏で勇者達以外にも動いた者が居る。
しかも、一切その姿を見せずに、幾つかの国を動かすと言う行為をしただけの者が。そしてそれが、災厄をもたらす者で無ければ良いのだがと勇者は思う。
ただ言える事は、これで世界が動いたという事だ。勇者が予測した通りでは無いものの、彼が潜みながら待っていた状況。まぁ、平和的に過すなら起きて欲しくなかったとも勇者は考えているが。
とは言え動いてしまえば、これに乗じて事を成そうとする者が出てくるはずだ。
もしかしたら魔王が動くかも知れないし、勇者が元居た国が動くかも知れない。と言うよりも、動く可能性の方が高いだろうと勇者は考えている。
「あの、強欲共が此処で動かないはずが無いからな」
何処に如何動くかは別として、間違いなく行動するだろう。ならば、ソレに合わせて対処するべく準備をしないといけない。
その為に勇者は今まで集めたモンスターの素材を使い、〝何か〟を始めていった。
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