三話
森が騒いだ方向へと警戒をしながら勇者が森を進んで行くと、途中から激しい戦闘音が聞こえてくる。
「ちっ……やはり誰かがレベリングでもやりに来たか」
思わず舌打ちをしてしまう勇者。戦闘中の魔族はこの森で戦える相手、当然だがレベル次第ではてこずる相手となる。
それに、相手が単体とは限らない。敵が複数居るとすれば、勇者も負けるつもりは無いだろうが、相当厳しくなるだろう。
それ故に、勇者は森の中を静かに進む。
もし、この姿を元PTメンバーが見れば、勇者らしくないと騒ぎ立てるだろう。正々堂々としていない……と。
しかし、そんな馬鹿な話があるか! と、勇者自身は思う。戦いとは生き残ってこそだと言うのが勇者の信条。
彼女達が言う「卑怯者」だの「正義」だの「勇者としての誇り」なんてものは、死んだ者が言えるわけが無い。はっきり言って、誇りなんぞゴミ箱に捨ててしまえ! と、勇者は常日頃思っていた。
ただ、そのような戯言を口にしながら、敵へと突っ込む馬鹿者達……もとい、三人のパーティーメンバーや、派遣されてくる騎士達の尻拭いをしてきたのも……また勇者だ。
「こうやって一人で行動してると、本当に気は楽だな」
尻拭いの呪縛から解き放たれたとでも言うべきか、勇者が今の状況で感じているのは、凄まじいほどの開放感。
全てが自己責任ではあるのだが、周囲を気にしなくて良いという環境は、其れほどまでに勇者の心を軽くした。
しかし、数と言うのはまた力でもある。
勇者にとって足手まといだった三人娘や騎士もまた、勇者にとってミートシー……いや、にくか……違う、人力センサ……所謂、情報収集源でもあった。
なので、一人となった現状では、悲め……掛け声による敵の接近を認識する事が出来ない。
それゆえに、勇者は何時も以上に慎重な行動を取る事となる。
木々を使い身を隠し、明るい空間は避け、その行動は勇者ではなく暗殺者と言った方がいいだろう。
「此処までは近づけたか。さて、暴れているのはどんな奴だ?」
聖剣を手に爆破の震源地、其処に居るであろう敵を探す勇者。
しかし、其処にいたのは……人間と全く違いがない姿をした女。そして、その女の背には何故こんな所に居るんだ? と疑問しか出ない小さな存在。
それは、まだ生後数日ぐらいのもふもふとした何か。そして、周りのモンスターはその小さい存在を食べようと襲っている。
「……此処で戦えると言う事は、あの女は人間じゃないよな? 普通の人間なら、この森に入れるまでレベルを上げる事は出来ないはずだ」
レベルを上げるにしても、強いモンスターが出る場所などは国が管理している。特定のダンジョンなどが其れにあたるだろう。その為に、勇者が知る国が許可を出している人間……には、あのような女は居なかったと勇者は記憶を探った。
だからこそ、目の前でモンスターと戦闘をして居る女が、人間だと言うのは否定出来る。
「何であんな狼の子供を守ってるのか謎だが……魔族が一匹なら都合が良い」
他にあの女の仲魔が居ない事を確認してから、勇者は手に持つ聖剣に力を込める。
今なら、あの魔族の女を討つ事が出来る。そう、相手を睨みつけながら。
やっと更新できましたー……体調め。