二十一話
種族間における領土の緩衝地帯とも言える場所を挟んで、二つの大軍が睨みあっていた。
片や今回、奴隷解放を名分に戦争を仕掛けた、モフモフとした耳や尻尾を持つ獣人族。
そして、もう片方はそんな奴隷達を最前線へと配備した、戦争を仕掛けられた人族。
本来であれば、奴隷を戦わせる必要も無かったのだが、今回の戦争において人間側は人員が集められなかった。
何故かと言うと、人間至上主義では無い国や、不当な奴隷狩りに反感を持っている国が参戦拒否をした。色々な思惑はあれど、人族で纏まり獣人に対応するのを拒否したのだ。
そうなると、当然だが戦力が足らなくなる。その結果、奴隷にされた獣人が最前線へと出ると言う……不当奴隷反対派からすれば、実に面白くない形になってしまった。
「なんと言うか……酷い作戦を立てる奴も居たものだな。無理矢理奴隷された獣人を獣人と戦わせるとか」
「奴隷化されてるって事は、反抗出来ないんでしょう?」
「そうなるな。確かに合理的ではあるが……それは現状だけで、先の事を考えたら悪手なのは間違いない」
同族同士な上に、これから開放しようとしている相手に刃を向ける。精神的にかなり苦しい戦いになる。下手をすれば、動きが鈍り……その間に命を刈り取られるだろう。
幾ら指揮官が、必要な犠牲だ! と檄を飛ばした所で……納得し戦える者など早々居るはずも無い。
なので、戦術的に見れば実に有効な一手と言っても良いだろう。
しかしだ、その方法で戦に勝ち、獣人を下したとしよう。
其処に残るのは、今まで以上の憎悪。そして、その憎悪はレジスタンスを作り出し、人の街で村でテロ活動を行いだす可能性が有る。
そうなってしまえば泥沼だろう。ただの一般人に次々と犠牲者を出し合い……お互いが疲弊しあう未来しかない。
「……全く。他の国にとってもいい迷惑だな」
「兄貴……それがですね。裏で獣人の為に動いている国も有るようで」
「ほう。それだと、また話が変わってくるのか」
参戦していない国からすれば、本来ならこの作戦は流れ弾を浴びる可能性があった。
違う国とは言え同じ人族。それだけで獣人にとっては憎悪の対象になりえるのだ。幾ら濡れ衣だ! と言っても、坊主憎ければ袈裟まで憎い、と言う訳だ早々別だと判断出来るわけが無い。
しかしここで、獣人達に裏から支援する人間が居る。まぁ、獣人達にとっては受け入れがたい、信用するのも難しい事ではあるが、相手は確かに不当な奴隷狩りを反対している者達だ。
獣人達にとって何処まで信用し利用して良いか悩ましい。しかし、ここで彼等の手を借りる事が出来るのであれば、奴隷解放が一気に進む。
「悩むだろうな。裏がないか? と、今までの奴隷狩りを考えればな」
「ですね。獣人側は信用半分疑心半分と言った所で……それなら、自分達とは交わらぬ所で、奴隷にされた獣人を助けてくれと言う事にしたようです」
「それはまた……難しい要望を人側からすれば、資金やら物資の提供をと考えていただろうに……直接奴隷を救助して欲しいときたか」
眼下の舞台を見つめている勇者と魔人族の二人が、戦場とその裏で動いている者達について会話をしている。
そう、今この三人が居る場所は、戦場になるだろう場所が一望できる場所。
少し遠い場所にある山の上といった場所だが、三人にとってはその距離から視認するぐらい気軽に出来る。
「で、兄貴。戦争は介入するんで?」
「……あの奴隷達を見るとな。最低でも彼等が戦わなくて済む状況は作ったほうが良さそうだな」
人間の為にも……と、勇者は口の中で呟く。
獣人の戦士と奴隷が刃を交えてしまえば、もう引き返すことは出来ないだろう……と言うのは勇者の考えだが、その考えはあながち間違ってはいない。
と言うよりも、これまでの勇者の考察自体が間違ってはいないのだ。
獣人達は仲間を大切にする。不当に狩られた獣人達も、常に解放するように人間側に訴えてきた。結果は芳しくなかったが。
故に、武力に訴えて出た。人間側が荒れていると言う状況を見て、チャンスだと思ったのだ。
だが、ここにおいて狩られた奴隷達が盾にされて居る。仲間思いの彼等がこれに激怒し無い訳が無い。
「怒りが引き返せる内に……兎に角、奴隷の部隊は救助する方向で行くぞ。まぁ、俺達が動いたとばれたら不味いから、用意した仮面はつけるように」
「はーい。任せて」
「兄貴……この仮面マジでつけるんですか?」
「姿がばれたら不味いだろう? 勇者や魔人が獣人に手を貸した。その事実が残るのはな」
勇者はそう言うと、仮面をつける。仮面と言っても、動物の顔をかたちどったお面だ。狼をモチーフにした其れは実に勇者とマッチして居る。これには子狼も尻尾を振って喜んでいた。
女魔族も狐のお面をキュートにした感じで、実に可愛い仕上がりだ。
実はこのお面……全て勇者のお手製だったりする。なんとも手の込んだことだ。
そして、どこか嫌々として居る男魔族の仮面はと言うと……実に可愛らしいカルガモのお面……ただし、シスコン! と、でかでかと書かれている代物。
まぁ、そうかかれても仕方ないだろう。何せ、勇者にボコボコに去れて以来、姉の慧眼に感動し、姉さん! 姉さん! っと、後ろを追うカルガモの子供みたいな雰囲気なのだから。
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まずは、戦場視察から。




