二十話
勇者が〝還らずの森〟に潜んでから既に数ヶ月が経った。
その間にも、勇者の元パーティーメンバーやその付き添いの騎士は、今だ足がかりすら手に入れれぬ勇者の影を探し、人……国や教会は必死に人間同士で戦争が起きないようにしながらも、お互いのマウントを取り合おうとする。
魔人族は……勇者が襲って来ないという事で、日々平穏と言える生活を送っていた。
「しかしまぁ、此処まで何も無いとなると、本当に当たって欲しくない予想が当たった感じだな」
「ん? どういう事?」
「あー、前にも言っただろう? 勇者と魔王の戦いには何か有るんじゃないか? って話だ」
「んー……良く解らないのよね。確かに違和感は有るけど……」
二人はこの手の話を、此処数ヶ月の間に何度と無く繰り返している。
そして、その間に人間と魔人族の間で何事も無いとなると、どうしても何者かの陰謀では! などと言う考えが正しいのでは? と思えるようになってくる。
「確かに、陰謀なんて話になると、聖剣は何ぞや? と言う話にはなるんだがな……状況が状況だからなぁ」
「魔王様も動かないみたいだし……本当に謎は深まっていくって感じ?」
「まぁ……な。突拍子も無い事だが、本当に聖剣というのは、魔王というよりかは、何かあった時の抑制装置みたいな物じゃないか? と思えてくるな」
「人・魔・獣問わず、暴れ出した物を押さえつける為の力って事かな」
「そうそう。そもそも魔王が人の領域で暴れたなんて話、今まで無いからなぁ」
そう考えると、対魔王と言うのは政治的に人の国家社会において共通の敵を作る事で、お互い武力で争わないようにしましょう。なんて話では? と思わなくも無いと考える勇者。
もし其れが正しいのであれば、一番割を食っているのは勇者と魔人族だろう。とは言え、過去の勇者だと、確かに命を落とした者も居るが、結構な数の勇者達が美人の嫁を貰い幸せに暮らしました……っと、英雄叙事詩などにもなっている。まぁ、何処まで本当の事かは謎だが。
だが、そんな勇者が過去に居たとしてもだ。それは何者かの掌の上で踊り、魔人族と殺し合いをして来たという事に変わりは無い。それも、立った数人のパーティーメンバーでだ。
「本当……この考察が正しいなら、糞みたいな話だよな」
「ただ、魔王様が暴れたって話も文献には有るわよ?」
女魔族がそう言いながら、魔人族に伝わる伝記を数冊ある事を指摘する。
この読み物は彼女や彼女の兄弟である、今はスパイ活動に勤しんでいる男魔族が持ち込んだものだ。
当然だが、勇者も何度もそれに目を通している。
「だからこそ、聖剣が抑止力の為では無いかと行き着いたんだけどな」
「んー……ダメね。人間側の読み物だと、かなり話が歪められているのか、勇者最高! みたいな事しか書いてないわね」
「その点、魔人族や獣人族の文献だと、割と似た事が書かれている部分が多いな。まぁ、多少自分達の種族を持ち上げている部分はあるが」
お使い。と称して、勇者は男魔族に獣人族の領域まで行かせて、書物を手に入れさせて来ていた。
ただ、そのお陰で次々と穴あきだらけの情報が埋まりつつあるのも確かだ。
「しかしまぁ、一体誰がこの構想を練ったんだろうな? 獣人族の書物からしても、獣人族が魔人族と戦う理由は無いんだが……睨み合ってるんだよな」
「そうなのよね。本来なら人族相手の方が獣人族にとっては理由があるのに、どちらにも牙を剥いてるもの」
どちらかと言うと、脳筋気味な獣人族。中には策謀を巡らせる者も居るが、どちらかと言うとそう言ったものは少ない。
そして魔人族もまた、強い者は崇めるモノという風潮があったりするので、本来であればこの両者は手を取り合えるはずなのだが……もう、何百年と睨み合いを続けている。
「古代書でも有れば良いんだけどな。人が所有して居る者は恐らく禁書ならマシだが、焚書されてるだろうな」
「魔人族だと……魔王様のが所有してるだろうから手に入れれないだろうし、獣人族だと、そもそも手に入れる処か探す事すら難しいわね」
兎に角、まだまだ情報が足らないと、二人で会話をして行く。
そんな中……男魔族がスパイ活動から一旦帰宅し、彼等に驚きのニュースを告げた。
「兄貴! 姉さん! ニュースだニュース!! 獣人達が奮起した!! なにやら人間と戦争するみたいだ!」
その言葉に勇者は驚く。何故なら彼の想定とした物とは全く別の内容だからだ。
「おいおい……人間が魔境の守り手をしてる者達を、少しずつかき集めて魔人族を攻めると思ってたのに、其れは考えてなかったぞ」
「あー……でも獣人族って、人間達の国によって奴隷狩りをされてる場所もあるから……」
「そう言う事か。人間同士が纏ってない今なら、奪還のチャンスって事で動いたのか」
「勇者も居ないしね」
彼等の思わぬ方向から時代が動き出した。それだけに、どう動くべきかと考える勇者。
教会や人間国家の定義で言うのであれば、獣人族との戦争で勇者が力を振るう事は一切問題が無い。
しかし様々な情報を精査した結果、獣人だろうが魔人だろうが、下手に戦争に介入するのは良くないのでは? という思考に勇者はなっている。
「まぁ、奴隷狩りからの開放だしな。人間の国にも獣人だからと奴隷にするのはだめだって言う国もある。此処は手を出さないほうが良いか? いや、むしろ手を貸すなら獣人達にか?」
「……まぁ、其処は任せるわよ? もし手を貸すなら私も付き合うわよ」
「兄貴! 俺も行くぜ!!」
この三人がもし手を貸せば、その時点で勝敗が決してしまうだろう。だからこそ勇者は今後の為にも、どう動くべきかを思考する。
一番上手く治める方法は有るだろうか……と。
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不穏な動きが出てきました! さて、彼等はどう動くのやら……。




