十五話
平穏な日々と言うのは、この世界において早々続く様なモノでは無い。
まぁ、〝還らずの森〟にてモンスターを狩猟する生活を、平穏と呼ぶのであれば……だが。
とは言え、こと勇者や女魔族と子狼にとって、此処での生活はまさに平穏であった。
勇者が狩って来るモンスターの肉を、女魔族が調理し、二人と一匹で分け合って食べる。
勇者が作った玩具を使い、子狼と遊び戯れる。女魔族がそれを、私もやりたいと羨ましそうにする。
勇者と女魔族がレベリングの為にと、模擬戦をしたり、モンスターを討伐したりもするが、それらは彼等にとって、何の変哲も無い日常だ。そう、彼等にとって平穏と呼べる物だった。
「……何しに来たのよ」
「いやいや、姉さんが人間と戯れてる……なんて話を聞いたからさ。様子を見にきたら、これどういう状況?」
今、女魔族の前に、彼女の事を「姉さん」と呼ぶ男の魔族が、この〝還らずの森〟に来ていた。
そして、誰から聞いたのか人間……そう、勇者と共に居るという情報を入手しているようで、勇者と女魔族の状況を見極めるように観察しながら、言葉を交わしてくる。
「別に? 利害が一致してるのよ。何か問題でも?」
「いやいやいやいや……何を言ってるのさ。……人間は潰すものでしょう?」
魔族から周囲に溢れ出る殺気。それにより、周辺にいるだろうモンスター達は一気に距離を取ったのか、森の中で騒がしく移動する音が聞こえる。
子狼にいたっては、尻尾を股に挟みながら「キューン」と言いつつ、勇者や女魔族の後ろに隠れた後……木を失った。
「中々穏やかじゃないなぁ。利害が一致したとこいつも言っただろう?」
「黙れ人間。キサマの話など聞いてない……と言うより、死ね」
「おやおや、僕ちゃんはレベルも計れない程に節穴な目なのかな? ……此処で手を出せば死ぬのはどちらか解っても無いのか?」
挑発と殺気のぶつけ合い。とは言え、女魔族に対して楽に勝てる勇者だ。彼にとって、男魔族の殺気などそよ風程度に過ぎない。
それを理解しているのか、ただ挑発された事に対して苛立っているのか、男魔族は勇者に対して不快感を全開にしながら睨みつけている。
「おやおや、何も言い返せずだんまりか? いきって登場し口を開いた割には、その程度と言う事か。これなら、コイツの方が数段も優秀だな」
「な! 姉さんは俺達の中でも落ち零れの部類だ! そんな姉さんに俺が負ける訳がないだろ!」
「なるほどなるほど。お前は「お姉ちゃんなら弱いから、ここで叩いても問題ない」とでも考えて、此処に来た訳か。だが残念だったな? お前のお姉ちゃんは優秀だぞ? しっかりと見極める目を持ち、様々な物を吸収出来る本質を持っているからな。すでにお前如き、片手間で倒せるのでは無いかな?」
「な! ふざけるな!!」
勇者の口撃がクリティカルヒットし、男魔族は頭に血が上っている。
この状態であれば女魔族でなくても、此処ら辺に生息するモンスターにも勝てないのでは? と、勇者は思ってしまうほどだ。
「殺す……殺してやる!!」
「僕ちゃんは会話で勝てないとなると、直に手が出るのかな? まったく、駄々っ子だな」
「えっと……其処までにしてあげてくれない? こんなのでも、兄弟姉妹の中では上から数えた方が良い資質だって、皆が褒めてた子なのよ」
「それがいけなかったんだろう? 幾ら質が良くても、腐っていたら意味が無いだろうに」
「き……きさまらああああああああああああ!」
吠える男魔族が、等々自らの武器を手に勇者へと向かって斬りかかった。
しかし、その一撃を片手で受け止めると、勇者は詰らないモノを相手するかのように、ポイッと投げ捨てる。
「……な!? 俺の……俺の一撃をあんな簡単に!?」
「だから言っただろう。レベルの違いすら計れないのか? とな」
衝撃を受ける男魔族だが、これで終れる訳が無いとでも思っているのだろう。武器を握る手に力が入っていく。
「人間に負けた? そんな事が知れ渡れば俺は破滅だ……そんな事認める事など出来ん!!」
「な……やめなさい! 其れは禁止されているでしょう!?」
女魔族が止めるも、一切止る気配が無い。と言うよりも止める気など一切無いと言った方が良いだろう。
「おい。あれは何をやろうとしているんだ? たった一度投げ飛ばされただけだろうが」
「えっと……あれは、そ……お父様が与えた力のリミッターを解除しようとしているの。ただ、未熟な状態で使えば……」
「なるほどな。自滅技といった処か……まったく、世話が焼けるボウヤだ」
そう勇者が嘯くと、彼は聖剣を片手に持ち男魔族へと向き直った。
「さぁ、教育の時間だ。お前の世界が如何に狭かったかを教えてやろう」
勇者は宣言し、聖剣に自らの魔力を纏わせていく。
ただ、勇者には現状、この男魔族を殺すつもりはないのだろう。何故なら教育などと言っているからだ。
この魔族が自壊するのは別として、自ら切り捨てるつもりが無いのは、この男が女魔族の兄弟だからなのかもしれない。
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