十話
世界と言うのは残酷だ。ある日突然、平穏だった日常が破壊される日が来る。
世界と言うのは理不尽だ。悪い事などしていないのに、突如として悪として吊るし上げを食らう事がある。
誰かが言った……正義とは力だと。
巨大な力を持つモンスターに、弱者は怯え、それを助けるだけの力を持った者が英雄として称えられる。そして、称えられた英雄は小さい事であれば弱者から奪ったとしても、無かった事にされる。
そして、色々な人が口をそろえてこう言うのだ「英雄は正義の代行者だ。命を守ってもらえて要るのだから、その様な細かい事など気にするな」と。
力とは何か? と問うた人が居た。
戦士風の男は「この肉体の事だ!」と言い、魔法使いと思われる女性は「魔力こそ力よ」と言う。
信徒の者は「神」と答え、商人と思われる者は「お金です」と答え、平民達は「貴族様です」と答えた。そして、その貴族達はと言うと、「王家」と答える者も居れば、「私だ」と答える者も居る。
ならば、それ等を従える事が出来る〝権力〟を持った者が、力の所有者であり、正義なのでは無いか? と口にする者が出た。
その発言を聞いた者達は一斉に口を紡ぎ……その場から解散して行った。
そして、幾日か立った日。権力について口にした男が、川に浮んでいるのが発見された。
世界とはとても非道だ。守るべき力を持たぬ者は、突然としてこの世界から消えてしまう。
しかし、今この世界で住む人達にとっては、それが常識で、それが日常。
だが、本当にそれで良いのだろうか? その答えに辿り着く者は居ない。それどころか、その事を疑問に思う物は現状居ない。
「世界は滅んだ!! 神は死んだ!!!」
「いきなり何を言ってるのよ!」
「仕方ないじゃないか! クラウンバード……あれを全部食べやがって! あの鶏肉は最高に美味しいのしってるだろ!」
「し、仕方ないじゃない! この子食欲旺盛だもの!」
「も……もふもふぅ!? だが、もふもふが全部食べれる量じゃなかったはずだ! おのれ……やはりハンターでは台所の権力者には勝てないと言うのか!」
嘆く勇者。それも仕方の無い話で、このクラウンバードと言うのは、見た目が実に派手な上に普段は滑稽な動きをして居る。して居るのだが狩猟をしようとすれば、基本すべて回避される。
それも手品とでもやったのかと思うような、突然消えたり現れたり、前に進んだと思えば後ろに居たりと、まるでおちょくられているかの様な印象すら抱く回避術だ。
そのクラウンバードを、勇者は三羽華麗にしとめる事に成功した。名前の通り、見た目も動きも道化師と言っても過言で無い鳥だが、その味は最高級。クラウンはクラウンでも王冠を意味する方と言って良いだろう。
「だと言うのに……三羽しとめた時は、全員で食べれると思ったのに……何故、一羽も残ってないんだ!」
「キュ……キューン」
申し訳無さそうに鳴く、主犯たる子狼。最近しっかりと物が食べれるようになり、食前に運動として走り回った事もあってか、たまたま食べる量が通常時よりも多かった。
そんな時に、クラウンバードと言う最上級の鶏肉が出てきたのだから、もう興奮はマックスだ。一羽を恐ろしい勢いで食べた後、既に目の前に無い事に気がついた子狼は、必死にお替りを強請った。それはもう、あざとすぎる可愛さを前面に出しながら。
結果、女魔族は陥落。お替りを用意してしまったのだった。
「くぅ……そんな目で……まぁ良い。無いものは仕方ないからな」
「ごめんね? ただ、少し気になったんだけどなんで、世界が滅んだだの、神は死んだだの、台所の権力者だのと言う言葉が出てきたの? 確かに貴方が狩って来て、私が台所で調理してるけど」
「あー……ふと思い出した事があってな」
勇者がパーティーと離脱する事となったもう一つの理由。理由と言うよりも事件。
その事について、ぽつりぽつりと勇者は語りだす。
すりすりと足元でじゃれつく子狼を撫で、尊敬の念すら抱いている目を遠くに向けながら。
ブクマ・評価・誤字報告ありがとうございます。
因みに、事件とパーティーメンバー離脱は関係がありません。
事件は主に、勇者が人間から少し距離を取ろうとした理由です。パーティーメンバーと離れたのは……まぁ、余りにもアピールがしつこく、レベリングをやらないからと言うのが理由です。




