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九話

「ピィィィィィィィィィ!!」


 甲高い鳴き声が森の中に響き渡った。

 ただし、その鳴き声とは裏腹に、その主はとてつもなく馬鹿デカイ……空を飛ぶ入れ歯。

 アンデットモンスターで、スケルトンの派生だと思われている存在で、空中を飛びながら噛み付いて来る何とも不思議なモンスターだが、この〝還らずの森〟にしか生息しておらず……普通に強い。レベルで言うのならば、間違いなく百五十以上もあり普通の人間には戦う事すら出来ない相手。


 そんな空を飛ぶ歯だが、勇者の剣撃により一閃され、今はボロボロと崩壊して居る。


「ったく……こいつらは何処からあんな声を出しているんだか」


 あの甲高い声は奴等の断末魔であり、下手をすれば仲間を大量に呼ぶという悪夢の音。それ以外の時ならば、常にカタカタカチカチと上と下の歯を打ち鳴らす程度。ただ、その音は一種の警戒音では無いか? ともいわれているが真実は不明だ。


「しかし、入れ歯が居たと言う事は……此処ら辺に何か亡者のお宝でもあるんだろうな」


 何故スケルトンで無いのか等の疑問は棚の上。ただ、この歯もスケルトンと同様でアンデットと言われている理由は、出現する場所に必ず何か遺品が残っているから。

 そして、何故勇者がお宝と断定した化と言うと、この森に入れる者が限られているからだ。

 〝還らずの森〟に入れる存在。それは、人間なら勇者パーティーであり、獣人達でもこの森で戦い抜く事は出来ない。出来る物が居たとしても、人間の勇者達と同様に限られた者のみ。例外は魔人達だが、彼等であれば余程の馬鹿でも無い限りこの森で死ぬ事は無い。

 なので、必然的に遺品と言うのは、歴代の勇者パーティーの物か、それと同等の獣人達の勇者パーティーみたいな存在と言う事になる。

 そして、そんな存在が残す物は、高確率でお宝と言えるだろう……よほど、変な物を持つ趣味があるような者達でも無い限り。


「飯のオカズやもふもふの餌をとりに来たんだけど、思わぬ収穫と言った所だな」


 そう言いながら、勇者は空を飛んでいた入れ歯があった付近を捜索しだした。

 しかし……世の中、予想以上に可笑しな存在と言うのも居る訳で……。


「ナンダコレハ!! こんな物黒歴史以外何ものでもないじゃないか!」


 出てきたのは、歴史の教科書にも載るような偉人。勇者パーティーの一員で、勇者を守る為に自ら〝還らずの森〟に残った聖騎士の日記帳。

 ただし……中身は勇者に対する溢れんばかりの愛情が記されたポエム。しかも、一つ間違えれば官能とも取れるかもしれない、微妙なラインの妄想まで書かれている。主に、クンカクンカとか書かれていたりする。


「確か、この時の勇者は十五歳前後の少年で、この聖騎士は……四十過ぎのおっさんだっただろ!?」


 手は出していなかったようだが、間違いなくアウト! と言いたくなる。そんな内容に勇者は辟易とした。

 なにせ、その聖騎士といえばみんなの憧れといった存在。勇者と並んで歴代最高の騎士とされて称えられているのだから。

 そんなおっさんの黒歴史ポエム。それを手にした勇者が行った行動は……。


「あの入れ歯は……聖騎士のモノで、このポエムを隠したかったって事か……」


 秘めたる思いだったのだろう。そして、時が過ぎてそれが表に出される事すら嫌だったのだろう。だからこそ、アンデットになってポエム日記をひたすら守っていた。

 実に……何とも言えない気分になる勇者。


「……そうだな。これは闇に葬っておこう」


 そう判断し、歴史的に重要な物と言える日記を燃やす。心なしか、消えたはずの入れ歯が、お礼を言っているかのように感じた勇者だが……間違いなく勇者の気分は闇へと沈んでしまった。










「お帰りって、そんな沈んだ顔をして如何したの?」

「いや……歴史の闇を少し垣間見てしまっただけだ」

「キューン?」

「慰めてくれるのか、ありがとうなもふもふ」

「だから、もふもふって名前じゃないって!」


 帰宅した勇者を心配しながら暖かく向かい入れた魔族と子狼。

 一人と一匹の存在に、少し心は晴れたものの……その相手が魔族というのはどうなんだろう? と思いつつ、まぁいいかと棚上げし、今日の事は記憶の奥底に蓋をして置こうと決心する勇者だった。

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