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下克上戦士~バケモノ師匠と目指せ打倒勇者~  作者: 水草
第5部 人生で最も忙しい非日常
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8章 瞑想

屋敷まで帰り、広い庭を歩く。

復学一日目から濃い学園生活だった。拭えぬ汚名にハーロムの依頼。『レイナたんを崇める会』の実態もまだまだ謎な上に俺たちで遊ぼうとする男、ジャンドラの存在。考えただけでも疲れる。


ため息を吐きながら玄関の大扉を叩けば中から開かれる。しかし、俺を出迎えてくれたのは予想外の人物だった


「お帰り、なさい、ませ。ご主人、様。」


たどたどしい言葉にぎこちないお辞儀で俺を出迎えてくれたのはアイリーンと同じメイド服に身を包んだ、髪も肌も瞳も雪のように白い少女だった


「…何してるんだ?ベル。」


俺に名前を呼ばれた少女は恥ずかしいそうに視線を逸らしながら体をもじもじさせる


「アイリーン、お姉ちゃんに、言われた、から…!」


消え入りそうな声でそう言ったあと、とてとてと駆けて突き当たりの角の先に消えていった。そして、入れ替わるように現れたのは長い黒髪を後ろで一つにまとめた、鉄仮面のように無表情が張り付いたメイド。

剣の達人であり師匠の唯一の使用人、アイリーンだ


「お帰りなさいませジーン様。」

「ただいま。それで、さっきのベルは一体どういうことだ?」

「ライザ様のご意向で使用人として迎えることになりまして。わたくしが世話役を務めさせてもらってます。」

「使用人…?いや、でもそうか。それが一番いいってことか。」


ベルは半人半魔の『死霊使い(ネクロマンサー)』。帝国だけでなく王国内にもその力を狙う輩がいてもおかしくない。そうであるなら、使用人として迎えてストリーガ家の一員とした方が牽制になると言ったところだろう。師匠の権威がどれほどのものかイマイチ把握できていないが


「世話役って大丈夫か?前から思ってたが先生は一体いつ休んでるんだ?」

「心配してくださりありがとうございます。ですがジーン様、この程度の仕事はライザ様の従者たるもの余裕でこなさなくてはいけません。それに、しっかりと休む時間もございますよ。」


とても一人でこなせる仕事量では無いと思うのだがな…まぁアイリーンも師匠に負けず劣らずの実力者だ。彼女が余裕と言うのなら余裕なのだろう


「ベルにはあまり無理をさせないでくれよな。」

「えぇ勿論。ベル様はまだまだ幼いので。それでは、夕飯の支度に戻りますのでこれで。」

「あ、そうだ。ちょっとやることがあるから部屋にベルを近付けないでくれないか?夕飯には終わるから安心してくれ。」

「分かりました。ベル様に申しておきます。それでは。」


お辞儀をすると、音もなくアイリーンの姿が消える。それを見送る…というのも違う気はするが見送ったあと、自室へと向かう。

手提げ鞄を置き、いつもなら庭で剣を振るが今日は別にやることがある。腰に帯びた剣も近くの壁に立てかけて、椅子に座る。


目を瞑り、意識を深い深い…自分の奥底に向ける。

別に疲れて昼寝をしたくなった訳ではない。

魔力(オド)をゆっくりと全身に巡らせ、自分の魂に干渉する瞑想の一種だと師匠に教えられた方法だ。


体から力が抜け、俺の意識は現実世界から乖離し、俺自身の内なる世界に沈んでいく。初めてやってみたがなんとも不思議な感覚だ。自分を探っているというのにまるで別の世界に放り出されたかのような感覚になる。道標もないまま、それでも真っ直ぐと目的地と思われる場所に向けて進んでいく。


やがて、時間という感覚すらも曖昧になりそうなほど昏い世界を進んだ後、掴みどころのない、どこまでも続く暗い海の底のような場所に「それ」はあった。形はなく、靄のような、俺の体に巣食う「それ」をハッキリと認識する。

お互い、肉体が形をなしていないというのに「それ」と目が合った。そんな気がした。


『【人間作家ゴーストライター】に何か御用でしょうか。』


何度か聞いた、それこそ今朝にも聞いた声が耳を介さず直接脳内、いや意識そのものに語りかけられる


「お前と話をしにきた。」


そう告げると「それ」────『人間作家ゴーストライター』は靄状の体を蠢かせる。俺の言葉を不思議に感じている、そう直感的に思わせられた


『【人間作家ゴーストライター】と話、ですか。』

「お前は…スキルか何かは知らないけど明確に意思を持っている。なら会話はできるだろ?」


ミストリオーレでは確かに俺の言葉に反応していた。神のスキルだけあってか、『人間作家ゴーストライター』は自分の意思を持って思考出来るということだ。改めて謎が多すぎる


『了解しました。【人間作家ゴーストライター】は貴方様と会話を致します。』

「まぁ会話というより俺が一方的に質問するだけだがな。」


まずは何を聞こうか。『世界創造デミウルゴス』やら『地母神』についても気になるところだ。だが、最初の質問はあれにしよう


「お前は俺のスキルってことでいいのか?」


世界観測(オーバーワールド)』のように俺が自覚せずに所持していたスキルか否か。この答えは後々の質問にも関わってくる。もし俺のスキルであれば何故神のスキルが俺に、となるし、もしそうでないのなら────


『答えは否です。【人間作家ゴーストライター】は他者に干渉して発動するスキルです。【人間作家ゴーストライター】の本当の所持者は貴方様ではありません。』


…そうでないのなら誰が所持者なのかって話になる。この路線で質問を続ける


「お前の本当の所持者は『地母神』ガイアか?」

『答えは否です。』

「…お前の正体はガイアのスキル『天地創造デミウルゴス』の権能の一つと聞いている。」

『答えは然りです。【人間作家ゴーストライター】は【天地創造デミウルゴス】の権能の一つです。』


つまりどういうことだ?『地母神』のスキルに含まれていながらも『地母神』のスキルではない?オセロの話は間違っていたのか?


「『天地創造デミウルゴス』の所持者は『地母神』ガイアである。」

『答えは然りです。』

「『人間作家ゴーストライター』の所持者はガイアである。」

『答えは否です。』


何故ここで答えがすれ違う?いや、慌てず質問すればいい


「『人間作家ゴーストライター』の現在の所持者…俺にお前を植え付けたのは誰だ?」

『その質問には答えることは出来ません。』


おっとこの反応は初めてだ


「その質問の答えが禁忌に触れるからか?」

『答えは否です。』

「では何故答えられない?」

『貴方様の権限レベルでは開示することを禁止されているからです。』


権限レベル…またよく分からない言葉が出てきたな


「その権限レベルってのは何だ?」

『その名の通り【人間作家ゴーストライター】に関わる権限。それをどれほどお持ちになっているのかの指標です。』

「今の俺の権限レベルは?」

『2でございます。そのため、この様に【人間作家ゴーストライター】は貴方様の質問に答えております。』


なるほどな。今の状態で本当の所持者を開示されないということはそいつの権限レベルは俺よりも上と考えられる。普通に考えて最大レベルと考えていいだろう


「権限レベルを上げる条件は?」

『【人間作家ゴーストライター】とのシンクロ率の上昇です。先日の戦いに起きまして貴方様と『人間作家ゴーストライター』のシンクロ率が一定を上回りましたので現在、貴方様はステージ2です。』


シンクロ率の上昇か。シッチとの戦闘で『人間作家ゴーストライター』を発動させたことと関係あると見てよいだろう。しかしそうなると困るな。

人間作家ゴーストライター』の使用が前提となれば権限レベルを上げることは簡単ではない。情報の開示は難しいと考えていいだろう


「そういや俺の胸に出来た痣は関係あるのか?」

『答えは然りです。シンクロ率の上昇──魂との結び付きが強くなったため【人間作家ゴーストライター】が肉体に影響を及ぼした結果です。』

「前みたいな害はないんだな?」

『答えは然りです。ただ、【人間作家ゴーストライター】の力の一部を代償なく使えることを害と成すのであれば害と成るでしょう。』


お、有益な情報が聞けたかもしれない


「力って言うがそもそもお前は何が出来るんだ?今のところ身体能力の強化と…あとは俺の体を勝手に操ることか。」

『【人間作家ゴーストライター】に出来ることは貴方様を死から遠ざけることです。身体能力への支援及び自動操縦が主な能力です。』

「なるほど分かった。」


それらの力の一部を使えるってのはかなり便利かもしれない。俺は『僧侶』のような強化魔法は使えないから自前で身体能力を強化できるのは助かる。

…いや、こんな訳の分からないものに頼るのは良くないな


「じゃあ俺の命が危険な時以外は何もしないで欲しい。少なくとも、学園の中では絶対にだ。」

『分かりました。【人間作家ゴーストライター】の力を借りたい時は心の中でお呼びください。』

「頼むぜ。」


よし、これでうっかり発動したのがバレて機密保持の為に処刑なんてことは回避できる。このまま他の質問も一気にやってしまおう。

何時俺に植え付けられたのか、何故ホーファーツ王国の機密なのか、『地母神』ガイアとの関係などなど……


『その質問にはお答え出来ません。』

『答えを持ち合わせておりません。』


だが、その大半の答えを得ることは出来なかった。得られたものは既知の情報ばかりで追加の情報は皆無だった。


一方的に俺が問い質すだけの、それも相手が生物かも怪しいそれを会話と呼べるのかは知らないが、会話に夢中になる内に大分時間が経ったような気がする。質問も思い浮かばなくなってきたことだし、そろそろ戻るとしよう


「今日のところはこれくらいにする。また何時か訪れるつもりだ。」

『分かりました。それでは、さようなら。』


次の瞬間、俺の意識が力強く引っ張られる。黒い靄だった『人間作家ゴーストライター』の姿がすぐに見えなくなり、光の無い世界を遡って行く。


目を開けば自室に戻ってきた。勿論、俺は瞑想をしてただけだから部屋の様子に変化はないし、俺自身椅子から動いていない。しかし、窓を見れば太陽が今まさに地平線に沈み切る直前だった。


そろそろ夕食の時間だ。今から何をするとも叶わないだろうし着替えだけ澄まし、部屋を出る。


人間作家ゴーストライター』について、得られるものはあったがこれでは足りない。しかし、今のところ問題は無さそうだし慌てることはないだろう。

そう考え安心したお陰か、疲れて重かった足取りが軽くなった。そんな気が少しだけした。

気がついたらもう8章で「30章超えるやろなぁ」と少し焦っております水草です。

お盆に時間が少し出来たので投稿してまいりましたがやはりまだまだ忙しく、投稿頻度が回復する見込みがありません。お許しくださいm(*_ _)m

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