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下克上戦士~バケモノ師匠と目指せ打倒勇者~  作者: 水草
第4部 亜人連合国ミストリオーレ
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18章 騎士の志

油断していた。あの規模の『黒霧シャドウ』を使えるなんて聞いていなかった。その前には不意打ちに近い一撃を人間に防がれてしまった。今頃標的と合流して逃げてると考えてもいいだろう。全く、面倒なことになった


「それもこれもあのじーさんのせいだ。問答無用で殺しにきやがって。」


全身に残る激痛に舌打ちする。じーさんから食らった傷は決して軽くない。全力には程遠い状態にされてしまった。そうでなけりゃ、あの人間を仕留め損なうなんてことはなかったというのに。


いや、それは言い訳というものだ。仕留め損なったのではない。殺したくない、そんな甘い気持ちが残っていたのだ。その結果、失敗し、こうして限りある時間を浪費することになってしまった。


だからこそ、己の心を殺す。狸のじーさんの時と同じ、目的のために、命を選ぶ。もう、引き返すことは出来ない。


悪魔ゴミ共が四方八方へと、標的を探しに動き出す。だが、やつらの行き先を知っているワシには関係ない。じーさんを半殺しにした時、番兵の若造が戻って来て教えてくれたからな。


小人ドワーフのとこに何があるかは知らんが、辿り着く前に追い付き、人間を殺し、標的を攫う。魔法を使えないように次は気絶させるとしよう


「すぐに殺してやるからな、坊主。」


───────────────────────


山羊人族の集落まで戻って来た頃、四度目の轟音が響き渡った。これで『黒霧シャドウ』が全て払われ、敵が自由になっただろう。すぐにでも動き出すに違いない。


偵察型の悪魔を全て撒き、今も見つかっていない。現状、敵が俺たちの居場所を知る術はない、となると、選択が生まれてくる。


一つ目は山羊人族の集落に身を潜め、助けを待つこと。

どういう訳か、今この集落には山羊人族も悪魔もいない。一本道である以上、敵がこちら側に来た場合、道中で追いつかれる可能性が高い。


二つ目はこのまま小人ドワーフの集落へ向かうこと。敵が反対側に探しに行ったことに賭け、アイリーンに合流し安全を得る。

この集落は安全かもしれない。だが、同時に不気味すぎるのも確かだ。


二つに一つ。敵は既に動き出している。本体が来なくても、偵察型に見つかればアウトなため、すぐに行動しなければならない。


何があるか分からない場所で潜伏か、命懸けで逃走か。少しの沈黙の後、答えを出す


「ここに隠れるぞ。少なくとも、出歩くよりは安全のはずだ。事態が収束するか、助けが来るまで隠れ続ける。」

「駄目。あいつ、ここに、来る。真っ直ぐ、来る。隠れ、ても、無駄。」


だが、そんな決断を少女は否定する


「…敵は俺たちの居場所を知らないはずだ。どうしてそう言い切れる?」

「ごめん、なさい。魔力(オド)、漏れるの、止まら、ない。隠れ、ても、バレる。」


それは、『黒霧シャドウ』の代償なのだろうか、少女の両手からは魔力(オド)の流出が止まらない。ずっと漏れていたとなれば、大気中の魔力(オド)を辿って少女を見つけ出すのは容易いだろう


「止まらなさそうか?」

「うん。魔法、暴走、させた。これ、は、罰。ルール、を、破った、罰。ごめん、なさい。」

「大丈夫だ。それよりも、自分の心配をしろ。」


場所がバレるのは不味いが、それよりも少女の状態の方が深刻だ。このまま漏れ続ければ、魔力(オド)が枯渇してしまうだろう。


少女を背から下ろし、手を握る。手探りで魔力(オド)漏れを治そうと探るが、止まる気配はない


「アイリーンなら治せるかもしれない。先を急ぐぞ。」


少女に手を差し伸べる。だが、一向に握ろうとしない


「お兄ちゃん、逃げて。あいつ、の、狙い、は、私。今、死相、とても、薄い。きっと、逃げ、切れる。」

「お前を見捨てけって言うのか?」

「私、足手まとい。ごめん、なさい。」


そう言って俯いてしまった。少女の魔力(オド)を辿っているのならもう時間はない。少女の言う通り、悪魔たちの狙いは俺じゃない。このまま一人で逃げれば生き残ることが出来るだろう。


だが、俺は動かなかった。俯いた少女の頭に手を乗せ、優しく撫でてやる


「お兄ちゃん?」

「そういや、自己紹介がまだだったな。俺はジーン。ホーファーツ王国からやってきた『戦士』のジーンだ。夢は騎士団に入団して、父親のように人々を守ることだ。」


まぁ父親の記憶はないんだけどな。突如自己紹介を始めた俺を、少女は不思議そうに見上げている


「俺は、お前のことを知らない。何故狙われているかも知らなければ、そもそも名前も知らない。」


分かっているのはオセロの知り合いということぐらいだ。種族も分からない


「だけどな。俺の目指す『騎士』ってのは、少女を見捨てて逃げるようなやつじゃない。」


ここで少女を見捨てることは、志を捨てるということだ。記憶にない父への憧れ、それだけのために師匠の弟子になり、村を出た。志を捨てれば、過去も、未来の俺も、死んでしまう


「まぁ何が言いたいかって、すぐに敵を倒してやるからそこの家の中で待ってろ。」

「駄目!死相、濃く、なった。早く、逃げて。死んじゃう。死んじゃう。」


少女の瞳から涙がボロボロと零れる。お互いのことを全く知らないと言うのに、この子は俺のことを心から心配しているのだ。そんな優しい少女を、ますます見捨てることはできない


「悪いな。」


涙を流す少女のうなじに手刀を入れ、気絶させる。力の抜けた小さな体を抱き、近くの家の中に寝かせる


「さて、そろそろ時間だな。」


家から出れば、集落の入口に立つ存在に気付いた。見覚えのあるその姿に驚くが、すぐに心を落ち着かせる


「助けに来た…ってわけじゃないんだろ?おっさん。」

「そうだな。とりあえず、遺言なら聞こう。」


入口に立っていたのは、悪魔なんかじゃなかった。見るに堪えないほどの切創。象徴である四本腕のうち一本がちぎれかけており、動かせそうではない。


多腕族族長、シッチ。ここにいるはずの無い男が立っていた。

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