5章
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目の前で這い蹲る少年が意識を失う。
『戦士』でありながら魔物化した相手にここまで奮闘したのだ。先程のユニークスキルといい見込みがある。
「頭部から出血、右腕はバキバキに折れているな。包帯が巻いてあるが腹にも一撃貰っている。全身の骨の至る所にヒビが入り、オマケに魔力が枯渇している。やれやれこれは骨が折れるな。」
少年に『浮遊』の魔法をかけ慎重に浮かび上がらせ、仰向けにし『回復』をかける。
全身が淡い光に包まれ、傷がゆっくりと癒えていく。右腕と腹は完全には治ってはいないが血はもう流れていない。
「残りはゆっくり癒すといいだろう。『自己治癒』」
これで怪我はいいだろう。問題は大量出血と魔力──だが、血はこの場ではどうしようもないので魔力からだ。少年の左胸に右手を当て意識を集中する。
「『霊化』」
呟きと共に、右手の実体がなくなり、魔力の塊となる。そのまま左胸から体内に侵入、心臓に到達する。左手から直接心臓に魔力が流れる
傷つけないように──慎重に──
魔力が枯渇し徐々に弱っていた鼓動が徐々に早く、大きくなっていく
無事に心臓が動いていることを確認し左手を引き抜き『霊化』を解除する。
「さてこんなものでいいだろう。」
治療を一通り終え『浮遊』を解除し少年を背負い、足元に落ちていた見覚えのある剣を拾い上げる
「それにしても───────」
剣から視線を離し、右腕と頭を失った巨熊を亡骸を見る。
(私が到着したとき、確かに巨熊は少年の頭を粉砕していた…だが少年の頭は傷こそあれ残っている。一度砕かれてから再生するなんて聞いたことがない。間違いなくユニークスキルによるものだ。)
「実に興味深いぞ!何としてでも弟子にしてやろう!」
少女は大きく笑い声を上げる。次の瞬間、少女は姿を消した。
残されたのは哀れな骸と静寂のみだった。