11章 襲撃開始
今日の治療が終わり、服を着込む。周囲の冷気に体を震わせながら、防寒着を来ている最中、遠くから音が響いてきた。
カンカンとけたたましく、繰り返し鳴り響くこの音は…鐘か?
それも次第に音が大きくなっていく。音源が近付いてきているのだ。いや、それだけじゃない。あちこちから聞こえ始めた。一つ共通点があるとすればそれらは全てマクシムナ大山脈の北側から聞こえてくるということだ
次の瞬間、表情を変えたクロリーが茂みから飛び出し、凄まじい勢いでオセロ宅に向かっていく。慌てて後を追い、全力で駆け出す。
調子は万全ではないが大体八割くらいの力が出せるようになっている。クロリーとの距離がどんどん離れていくがどうにか見失わずにオセロ宅に戻ってきた
「お頭!」
「クロリー、そなたは先に往け。妾も直ぐに向かう。」
「了解!」
オセロから弓を受け取り、勢いよく山を降りていく
「何が起きてるんだ!?」
「敵襲じゃ。帝国のやつらのな!ジーン、そなたに何かあってはライザに面目が立たぬ、山脈の南側に避難せよ。」
「分かっ────」
返事をしようとした瞬間、豪風と爆音と共にオセロ宅が爆ぜ、遮られる。突然のことに理解が及ばない。
土煙の中、瓦礫と化した元オセロ宅から人影が一つ、現れる
「『真空刃』」
オセロがノータイムで魔法を唱え、不可視の刃が人影に迫る。土煙を切り裂き、そのまま相手を両断──かと思ったが直前で防がれてしまった
「突然の来訪で失礼をしたのは私の不手際。しかし、いきなり攻撃するのは失礼ではないでしょうか。」
土煙が晴れ、相手の姿がハッキリと露になる。
燕尾服を纏った白髪混じりの髪の男
「ご紹介が遅れました。私、レックス帝国のアンディと申します。以後、お見知りおきを。」
丁寧にお辞儀をするアンディ。
相変わらず状況が飲み込めず、動けずにいると目の前に突如ナイフが現れる
「おや、防がれてしまいましたか。」
そんなアンディの言葉でようやく自分が攻撃されたと気付いた。俺の目にはナイフを取り出す瞬間も投擲する姿も見えなかった。今、オセロが受け止めていなければ何も感じることもなく殺られていただろう。その事実に冷や汗が吹き出す
「早く行くのじゃ。ほれ、そなたの剣とポーチじゃ。小人の集落にアイリーンがおる。そこまで逃げれば安全じゃろう。」
「あ、あぁ。気をつけろよ。」
ここにいればオセロの邪魔になる。それどころか、巻き添えを食らって死ぬまである。剣とポーチを受け取り、クロリーが向かった方向とは逆、山脈の南側へと駆ける。
走り始めた直後、背後で強大な魔力が膨れ上がったのを感じた。
ミストリオーレ最強が動き出す──帝都を脅かした圧倒的な暴力、その息吹が大気を震わせる。
オセロの敵意はあのアンディとかいう男に向けられている。それにもかかわらず、背中に感じる圧は人生で最も生存本能を刺激した。
燕尾服の男とオセロ、二つの脅威から逃げるように脚に力を込め、山道を駆け下る。
いつの間にやら鐘の音は止み、代わりに聞こえてくるのは人外の咆哮、爆音、悲鳴に怒号。
旅行十九日目。静寂な夜は突如として襲ってきた帝国によって破られた。
そしてこの夜、俺は大きな決断をすることになる。




