4章
日が落ち始め、暗く鳴り出した山林を一人と一頭が駆け回る。
「ハァハァハァハァ──────」
どれだけの時間、逃げ続けたのだろうか。上手く呼吸が出来ないほど息が上がり、目眩もする。足を止めてしまいたい。たが後ろの化け物がそれを許さない。少しでも足を緩めようものならあの太い丸太のような腕でミンチにされて人生に幕を引かれるだろう。
「───っ。」
しかし限界を迎え、足がもつれ、そのまま木の根につまずき地面を派手に転がる。
ブオォン!と一瞬前自分の頭があった位置に右腕が振るわれる。危なかった。もし転んでいなかったら───
しかし絶対絶命の状態には変わらない。もはや巨熊との距離はない。このまま地面を這いつくばっていればその腕が振り下ろされ今度こそお陀仏だ。
死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない
酸素不足の体を何とか起こす。巨熊は逃げることが出来ない俺にゆっくりと近づく。
「力を貸してくれ父さん。」
父の剣を抜き、正面に構えて迎え撃つ。
改めて見た巨熊の目は赤く輝いており、涎を垂らしながら丸太のような太い腕でこちらへ向かってきていた
『馬鹿げている。勝てるわけがない。無駄な抵抗だ。』
頭の中で声がする。分かっているさ。ギルからは充分離れた。俺の役目は終わったんだ。これ以上苦しむ前にその命を捧げた方がいいのだろう。
『今度は2人で冒険ごっこ行こうね。』
ふと幼馴染みの言葉を思い出す。やはり死にたくない。もう一度あの子の笑顔を見たい。
巨熊との距離が完全に無くなる。巨熊はその後脚で立ち上がる。突然目の前に壁が出来たかのようだった。
そして無造作に右腕を振り下ろす。
「っつあぁ!」
横に飛んで躱し、振り下ろされた腕に剣を振り下ろす
が、恐ろしく堅い。渾身の一撃は腕に少しくい込んだあたりで止められてしまった。分かってはいたがこれ程とは
「ガアアア!」
巨熊は剣を振り払うと同時に右腕を雑に薙ぎ払う。
後ろに飛んで避ける。
「んぐぅ!?」
爪の先端が僅かにかする。それだけで服は割かれ、腹に切り傷ができる。
熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い
傷は内蔵には達していないようだ。だが血が止まらない。
「うおおおおぉ!」
剣で地面を削り、土を飛ばして目を潰す。
全身が重い。この出血は不味い。ポーチから包帯を取り出し気休めに毒消しごと腹に巻いて応急措置を済ませる。
目の見えない巨熊が暴れる。巻き込まれる前に距離をとろうと後ろに下がろうとし─
死の予感に剣を盾のように右に構える。
遅れてやってきたのは激しい衝撃、耐えきれず吹き飛ばされ近くの大木に背中から衝突する。
全身の骨が軋む。呼吸が出来ない。右腕から血が流れる。剣を握ってはいるが右腕を動かせるような気がしない。意識が今にも飛びそうだ
「グルルルルル……」
巨熊は視力が回復したようだ。暴れ回り倒れた木々の向こうから怒りの目を向けて徐々に近づく。
「───────ぐぅ!」
左手に剣を持ち直し、声を出して既に限界の体を起こす。最早痛みは感じない。次の攻撃を躱すことも防ぐことも出来ないだろう。
せめて最後は一矢報いようではないか。相討ちにしてやろうではないか。
狙うは心臓。文字通り命の燃やして一突きしてやる。
そんな俺の覚悟に呼応するように心臓が熱くなる。限界の体に最後の一撃の力が湧いてくる
「────来いよ。」
「ガアアアアアアアアア!」
巨熊は残りの間合いを一瞬で潰し右腕を振り上げ俺を潰しにかかる。
今───
左腕ごと剣を突き出し巨熊の右胸に剣を突き立てる
巨熊は己の勢いによって剣は深々と突き刺さる
そして振り上げた左腕は心臓を突き刺されたあとも勢いを衰えず俺の頭に振り下ろされ─────
しかし、振り下ろされることは無かった。右腕が肩の部分で切り落とされていたからだ。
理解が出来ない。心臓に突き刺したはずの剣は熊の右胸にはなく、俺の手の中にある。
────まるで振り下ろしたあとのように。
突如吐き気が込み上げる。限界を超えて体を酷使した代償だろうか
巨熊が残った左腕を振り上げる。
なぜ動ける。心臓を突き刺したのに。なぜ右腕が切り落とされている。何故何故何故何故─────
そんなことを考える頭に左腕が振り下ろされ、地面に叩きつけられ、脳漿がばら撒かれ、俺の人生は終わ───
おかしい。終わらない。まだ生きている。頭がある。
苔で足を滑らせ体勢を崩し『おかしい』皮一枚かするだけですんだ『おかしい』ようだ。
しかし掠った『おかしい』だけとはいえ勢いが伝わり地面に顔から叩きつけら『おかしい』れる。
意識が一気に遠のく。謎の吐き気も『おかしい』さらに増す。
何故死なない?俺も熊も死んでるはずでは───
「ガアアアアアアアアア!!!」
熊の咆哮が響く、様子は分からないがもう奇跡は起きない。今度こそ終わるだろう。右腕で頭を潰され、骨も残さず食われるのだ。力を使い果たし、その瞬間を待つことしか俺には出来なかった
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長い。長い。俺は死んだのか?また奇跡が起きて生きているのか?相変わらず吐き気がする。
意識が今にも途切れようとしている。自分が死んでいるのか生きているのかも分からない。思考すら溶けてなくなろうとした瞬間
「面白いユニークスキルだな。」
声がして意識が少し戻る。なんとか顔を上げるとそこには赤髪の少女がいた。そばには巨熊が倒れている。
「おい、少年。私の弟子にならないか?」
少女が提案する。
「───────────ぁっ。」
早く助けろよ───そんな文句も言う間もなく俺の意識は途絶えた。
ようやくアクションシーン?的なものが書けました。書きたかったシーンその1です(笑)
前置きの割に短いなどツッコまれたらキリがないですか暖かい目で見守っていただきたい(なお閲覧者が全然いないのは内緒)
あと1章か2章で1部完となります。
短いのかな?よく分かりませんo(`・ω´・+o) ドヤァ…!