2章 楽しい?旅行の始まり
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「停学処分だ。」
停学処分。師匠から放たれた予想外の言葉に一瞬思考が止まる。しかしすぐに理解し、遅れて怒りが湧き上がってきた
「何で俺だけそんなに重いんだよ!?」
「まぁ落ち着きたまえ。そこの所も説明していく。」
俺を落ち着かせようとデコピンをする師匠。体が動かない俺の眉間を正確に捉えた一撃は骨にまで響き、怒りを吹き飛ばされてしまう
「さっきも言ったがジーンのその身体は『人間作家』、王国の機密の影響だ。」
今、俺の身体は『人間作家』とやらの代償で黒ずみ、全く動かすことが出来ない。実感はないが師匠曰くこのままだと死ぬらしい
「本来、機密保持のためにジーンは王宮の手によって始末される。ソレは誰にも知られてはいけないものなのさ。国民にも、勿論他国にもね。『人間作家』について詳細を知っているのはこの学園でも私と学園長だけさ。そして、学園は君を守ろうとしている。」
学園のトップしか知らないことを師匠が知っていることに疑問を感じるが師匠には常識が通じないから下手に詮索するのはよしておこう
「ジーンも分かっているように今回の騒動について君は一番罪が軽い。むしろ自身を囮にして人命を優先したのだ。賞賛に値するものさ。その功績、そして私の要望で王宮にバレる前に治してしまおうという話になったのさ。」
師匠も俺のために動いてくれたんだな。普段無茶振りばかりやらせるがこういう時はとても頼りになる
「今回のコボルト・キングの出現はなかった事になる。口封じと隠蔽のために他の生徒の処分は軽い。あとは学園側で適当に問題をでっち上げて停学処分にする。王国内での治療は不可能だから今夜、王国を発つぞ。ジーンにはとある国に向かってもらう。」
「分かった。それで、どの国に行くんだ?」
この大陸で国と云えば五つの大国が頭に浮かぶ。王国、帝国、聖国、魔道国、そして亜人連合の五つだ。他にもいくつか小国があるがこの五大国が大陸を支配している。
帝国とは昔から敵対関係にあり、いくら師匠のツテがあるとしても王国民である俺を治療することは厳しいだろう。
──いや、師匠なら可能かもしれないな。
「ジーンに向かってもらうのは亜人連合国ミストリオーレだ。」
そこからは早かった。全身に包帯を巻かれ、手配されていた馬車に乗せられ屋敷に戻った。師匠から説明を聞いたアイリーンの手際は良く、日没前には旅の手配は済んでいた
「こいつに乗っていくのか?」
「立派だろう?捕まえるのに苦労したものさ。『幻獣』ユニコーン。この子は速すぎて馬車が取り付けられないから背中にアイリーンと共に騎乗してもらう。明日の昼前にはミストリオーレに到着するだろう。」
普通の馬車でベア村から王都で七日かかったと考えるととんでもない速さだ。ユニコーンが『幻獣』と呼ばれるのはその個体の少なさだけでなく、逃げ足の速さにある。確か昔に読んだ本には「外敵に見つかると音速を超える速さで逃げる」とか書かれていたっけな。
普通の馬よりも一回り大きい身体、純白の毛と鬣。ここまでなら見た目は白馬とさして変わらないが額から生えている山吹色の一本角がユニコーンである証明となっている。
と、それよりも一つ確かめないといけないことがある。
「で、俺はどうやって乗りゃいいんだ?騎乗出来る身体じゃないんだが。」
「括り付けるしかないだろうな。無様な姿だが安心したまえ。高速で駆け抜けるから人に見られる心配はないさ。」
「ですよねー。」
その後、出発前に夕食をとることになった。勿論一人で飯を食べられる状態にない俺はアイリーンに食べさせてもらった。この上なく恥ずかしかったがその姿を見て爆笑する師匠への怒りの方が凄かった。
夕食が終わり、いよいよ出発の時が来た。ユニコーンに『魔力糸』で括り付けられる。全身に包帯を巻いているので遠目に見れば荷物のようにも見えるかもしれないな。
アイリーンが師匠から手紙のようなものを受け取っている。多分ミストリオーレにいる知人へのものだろう。他にもいくつか手土産のようなものを受け取っている
「それではジーン、行ってきたまえ。学園での後処理は私がしておくから心配しなくていい。完治すること、それが君が今すべきことさ。」
「あぁ。よろしく頼むぜ師匠。」
「それでは行ってまいります、ライザ様。」
アイリーンが手網を引くとユニコーンが進み出す。ゆっくりと歩きだし、次第に加速していき景色が次々と後ろへ流れていく
「そういや検問はどうするんだ?あまり俺の状況を知られるワケにはいかないだろ。もう手は回してあるのか?」
「いえ、そこまですると王宮や騎士団にバレてしまう危険があります。」
「じゃあどうするんだ?」
話しているうちにもどんどん城壁へと近付いていく。ユニコーンの速度からしてあと十秒足らずで城壁へと到達するだろう
「ですので、検問は受けないことにします。そのために日が落ちるまで待ってましたからね。」
手網を振るい、ユニコーンが大きく跳躍する。その跳躍は二十メートルはあろうかという城壁を軽々と越え、着地する。
ユニコーンにへばりつくように括り付けられている俺に衝撃が伝わるが全く痛くない。かなりの衝撃だったが何も感じないというのは俺が頑丈になったからではなくこの身体の異常のせいだろう。死にかけているというのは嘘ではなかったようだ。
今までのどの時とも違う、実感のない死の気配に不気味さを覚える。一体『人間作家』とは何なのだろうか?
これから向かう見知らぬ大地、自分の身体の状態、『人間作家』。いくつもの不安が頭の中を巡る。
が、実技演習で疲れていた俺はいつの間にやら耐えがたい眠気に襲われていた。ユニコーンに騎乗中でかなり揺れるが何も感じないせいで眠気を抑える要素がない
「眠れるのでしたら眠っても大丈夫ですよ。」
「じゃあお言葉に甘えて。おやすみ、先生。」
「はい。お疲れ様でした。」
激しい揺れの中瞼を閉じるとギリギリのところで堪えていた眠気に包まれ、すぐに夢の世界へと誘われた。




