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3章

どんどんと山を登る2人に後ろから着いていく。毎日走り込んでいる俺はなんともないが、いやはや子供とは元気なものだ。一切疲れる様子がない。


「なぁギル。秘宝ってなんのことなんだ?」

「ひほーはひほー!誰も見たことがないのだ!」

「なんだそれ。そんなもん見つかるのか?」

「だーかーらー!山の頂上にあるの!」「あるのー!」


2人して元気にはしゃぐ。適当に満足させて早めに切り上げようと思っていたがどうやら本当に頂上に行かないと無理かもしれない。幸か不幸か出会うのはウサギなど草食動物ばかり。ニーナはともかくギルは到底満足しないだろう。


いっそイノシシでもたたっ切れば満足するだろうか。


────ニーナの教育に良くないな。このまま遭遇しないことを願う。


既に2時間は登っただろうか。流石の2人も疲れてきたのかペースが落ちてきている。もう少しで頂上だ、頂上で休憩して下山すれば日没まで余裕で間に合うだろう。


「あっギル!」

「うわぁ!」


ニーナの声で思考を切り、顔をあげるとギルが木の根っこにつまずき、転んでしまったようだ。

急いで駆け寄ると、膝を怪我してしまったようだ。

ポーチから薬草と包帯を取り出す。薬草をちぎり、傷に当てて上か包帯をする。

薬草には止血効果、そして自然治癒を促進する効果がある。こうやって傷口に当てて上から包帯をすれば軽い怪我なら半日で治る。問題は─────


「ジン兄臭い!臭い!」


──臭いのだ。鼻にツンとくる臭い。獣避けの材料として使われることもあるほどである。


「しょうがないだろ、半日の我慢だ。臭いのがイヤのなら早く立って傷口から顔を離すんだな。」


俺の手をとり、ギルが立ち上がる。涙目なのは傷のせいだろうか、それとも薬草のせいだろうか。


「頂上まであと少しだ。伝説の秘宝とやらを見つけるんだろ?」

「うん…でんせつのひほー…ひほー!ひほー!」

「ひほー!ひほー!」


すぐに元気になり、また山を登り始める。ニーナも後を追う。俺はポーチに残りの薬草と包帯を仕舞い、2人についていく。

───────────────────────

とうとうオリン山の頂上につく。頂上には椅子、そして古びた祠がある。2人はひほーひほー叫びながら辺りを散策している。俺は椅子に座る。2人を見守りながら周囲を警戒する。


ここはどこか安心できる。嫌なことを忘れられるような気がした。何故だろうか、ずっとここにいたいような──


2人との距離が離れてきたので立ち上がり、傍に行こうとする。1歩踏み出すと背後から気配を感じた。俺は慌てて振り向く。


そこには5mをゆうに超える白いシカのような何かがいた。神々しさすら感じさせるその姿に見とれると同時にこの場所の安心感はこいつの影響だろうと直感で分かった。


いや、俺はこの生物を知って───────


「ジーン!助けてー!」


ニーナの悲鳴で我に帰る。ニーナたちの警戒を忘れていた。気がついたら白シカは姿を消していた。一体なんだったのだろうか。急いでニーナの声がした方向に向かう。ギルの姿が見当たらない。


「ギルがぁ…ギルが滑って落ちてぇ…。」

「ギルはどこから落ちたんだ?」


ニーナは泣きながら近くの急坂を指さす。俺は最悪の状況を想定しつつギルを探そうと急坂に近づく。

急坂は5mほどで下にギルの姿を見つける。


──良かった。息はあるようだ。ただどこか怪我をしたのだろうか、横たわったままだ。


ニーナを置いていくのは不安だが打ち所が悪かったら大変だ、坂を滑り降りて近づく。


手早く状態を確認する。気を失っているようだが大きな怪我はしていないようだ。

ひとまず安心し、ニーナのもとへ戻る道を探そうとし──


やけにデカい足跡を見つけてしまった。


背筋が凍る。異常なサイズの足跡だ、頂上で見た白シカのものでは無い。大きな楕円と5つの小さい指のような足跡、熊のものだろう。


しかしこのサイズはおかしい。これではまるで─


「魔物…」


喉が渇く。落ち着け、たかが足跡だ。すぐに下山して村長に報告を───


「グルルルアアァ…」


耳に響く人ならざるものの声。まだ確認してない方向から感じるのは圧倒的な存在感。頭の中では警鐘が鳴り響く。


振り返るな。逃げろ。1人で逃げろ。走れ。走れ。

心臓がうるさい。汗が止まらない。


───────ダメだ。1人で逃げてはいけない。ギルが襲われてしまう。


「ジーンお兄ちゃん!」

「ニーナ!逃げろ!村長に伝えるんだ!」

「で、でもっ…」

「いいから行けぇ!」


ニーナに怒鳴り、逃げさせる。道中危険な動物もスライムもいなかったが遭遇しないとは限らない。頼むから無事に帰れるように祈る。


「ガアアアァァァ!!!」


俺の声に興奮したのか、巨熊が近づいてくる。せめてこいつをギルから遠ざけなければ。他の野生動物に襲われないように残りの薬草を細かくちぎりギルに振りかける。気休め程度にしかならないがないよりはマシだろう。


「さぁこっちに来やがれ!」

「グルアアアァァァ!」


巨熊を挑発し、坂と反対方向に走る。

ニーナが村に戻り、助けを呼んでも3時間以上はかかるだろう。恐らく逃げ切るのも難しい。


不可避の死。そう結論が出る。


『──受難の未来が見える。村の外に出ないことをすすめる。』


あの旅人の言葉を思い出す。

真面目に聞いておけばよかったなぁ…

徐々に距離を詰める死に余計な思考をする余裕が無くなる。


「クソがああああああああぁぁぁ!!!」


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