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下克上戦士~バケモノ師匠と目指せ打倒勇者~  作者: 水草
第3部 勇者学園イーロタニア
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10章 コボルト・キング

ダンジョンの壁にへばりつき、角から目だけを出して監視を続ける。視線の先ではローラがコボルトを串刺しにしている。ローラより少し奥の方ではレイナがもう一匹を肉塊にしていた。


コボルトは二層目から出現する魔物であり、ゴブリンよりも力が強く、素早い。そして知性が少しだけ高く一体ではなく複数で行動することが多い。


だがローラは槍で、レイナは『筋力強化ラフォース』による力のゴリ押しで何度もコボルトを蹴散らしていた。正直俺がいなくなってからの二人の動きのキレがいい。息もピッタリで奇襲を成功させていたりもした


「この調子なら大丈夫そうだな。」


二人の探索は順調に進んでいた。このままならいずれ時間になり二人も帰るだろう。あいつらが帰るタイミングで先に脱出すれば完璧だ。


後の予定を考えながら二人を監視していると後ろから足音が聞こえる。


急いで剣を抜き振り返ると二人が通ってきた道とは別のルートから一匹のコボルトが現れる。他の魔物と喧嘩でもしたのか全身に傷があり、血を流している


「いや、爪じゃないな。剣か何かの切り傷だ。他の冒険者か?」


他の冒険者が狩り損ねた個体だろうか?下手に傷を負わせて逃がすと存在進化(レベルアップ)する危険性があるから危険だ。剣を引き抜き、弱るコボルトへ近付いていく。


逃げようとするがもう体力がないのか、その足取りは酷くゆっくりとしたものだ


「ちょっと心が痛むが…そらっ。」


後ろから首を一撃で落とす。耳を切り落とそうか悩んだが辞めておこう。先生にバレたら面倒だ。


死体から目を離し元の通路に戻るが二人の姿は既に無かった


「…何だか嫌な予感がするなぁ。」


ここまで来たのなら仕方がない。最後まで二人に着いていくか。


そう腹を括り、二人が進んだであろう道へ駆け出した


───────────────────────


「──さっきの道は逆だったか…」


あれから二人を探したが見つけられなかった。途中の分かれ道で判断を間違えたようだ。来た道は覚えているから道に迷うことはないが少し困った


「今から戻るか?いや、別の道で合流するか?」


一人腕を組み悩む。諦めて帰るのも…いや、それだと二人が帰ってこなかったら──


どうするか悩んでいるとかすかに笑い声が聞こえた。すぐに耳をすませ集中する。笑い声は複数、女子のものとは異なり男の下卑た笑い声だ。なんとなく声の主の元へ向かう。


少し移動したところで三人の男子生徒を発見した。どうやら俺たち以外にも勝手に二層にやってきた生徒がいたようだ。


三人の前には傷だらけのコボルトが倒れていた。どうやらいたぶって遊んでいるようだ


「ったく退屈だなぁ?この程度の魔物しかいねぇなんてよ。」

「全くだ。先生も他のやつらも何をビビってんだか…よっ!」

「ぎっ!?」


一人がコボルトを蹴飛ばし、コボルトの体が転がる。そのあともわざと火力を抑えた火属性魔法で焼いたり、腕を刺したりとやりたい放題であった。


魔物は基本的に人にとって害ある存在でしかない。一部の魔物は『調教師』によって労働力にされたりするが大半は人を襲い、傷つける。だからこそ俺は魔物を殺すことに一切の抵抗はない。しかし、目の前で繰り広げられている光景は見ていて気持ちのいいものでは無い。


「くだらないな。」


誰にも聞こえない声で感想を漏らす。ローラ達が合流している可能性も考えて見に来たがハズレのようだ


「おい、これ食わせてみよーぜ。」

「おっ、面白そうだな。口の中がぐちゃぐちゃになるだろうぜ。」

「お前ら抑えておけよな!」


来た道を戻ろうとしたところに彼らの声が聞こえる。どうやらダンジョンの壁をコボルトの口に入れるつもりのようだ。ナイフで削れるとはいえ、鉱石に近いそれは勿論魔物であるコボルトといえど食べられるものでは無い。どこまでも醜悪だ。


壁の一部がコボルトの口の中に入れられ、生徒の一人が無理やり咀嚼させる。破片で口の中が傷つき、口から血を流す


「おいおい飲み込みやがったぜ。喉の奥から血がどんどん溢れてくるぜ!」

「面白いな。今度投擲用のナイフ持ってきて食わせてみるか。」

「いいね。抑えるのもめんどくさいから麻痺毒の薬も持ってこよう。」


下卑た笑い声を上げる三人。だが俺はある事に気が付いた


──コボルトの体が先程より少し大きくなっている


男子生徒達は笑っていて気付いていないようだが確実に、筋肉が肥大化し続けている。


次の瞬間、男子生徒の一人が吹き飛ばされていた


「「は?」」


今も尚巨大化を続け、立ち上がるソレに残りの二人は呆然としている。近くの壁を爪で削り取り、口へと運ぶ。今まで聞いたことの無いような豪快な咀嚼音──というより破壊音を鳴らすソレの姿は既にコボルトのものでは無かった。


瀕死の状態で魔力(マナ)の結晶である壁を取り込んだのだ。

────存在進化(レベルアップ)するには充分な条件だろう。


全身の毛、そして両腕の爪が長く伸びる。全身の傷は筋肉の膨張と共に塞がれ、うっすらと痕を残すだけとなった。


残りの二人が戦闘態勢を取る。一人が剣を振るい、もう一人が魔法の詠唱に入る。しかしソレはいとも容易くそれらを避け、お返しと言わんばかりにその爪を振るう。剣士職の生徒は盾で防いだが魔道士らしきもう一人は『防壁(シールド)』を唱える間もなく切りつけられる。


魔道士が膝から崩れ落ちる間、盾で防いだ生徒に追撃が仕掛けられる。凄まじい速度の連打に防戦一方の生徒。遂に盾が弾かれ、腹部を凶爪が貫く


「あっ…助け…」


爪が引き抜かれ、ゆっくりと倒れる生徒。二人がやられ、最初に吹き飛ばされた生徒だけとなる


「あ……こっちに…来るな…来るんじゃねぇ!」


パニックを起こし、手当たり次第に石や武器を投げるがどれも意味をなさない。しまいには恐怖で失禁した。


そんな姿を邪悪な笑みを浮かべ見つめるソレ。


コボルトが存在進化(レベルアップ)した姿、コボルト・キング。到底二層という低層にいていい魔物ではない。


徐々に距離を詰めていくキング。とうとう最後の生徒が壁まで追い詰められてしまった。次の瞬間にはその凶爪が生徒を襲うだろう。その光景を眺めていた俺は───


すでに反対方向へと駆け出していた。


俺一人が出ていったところで敵う相手ではない。一刻も早くローラ達を回収しダンジョンから脱出しなくては。


全力で駆ける俺の背中に男のものと思われる悲鳴と人外のものの遠吠えが届く。


かなりやべぇ!

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