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2章

最弱職の朝は早い。起きるとすぐ外柵の見回りだ。この辺りの魔物はスライムぐらいしかいないとはいえ、森の動物たちが荒らしに来ているかもしれないし、南のオリン山からイノシシが降りてきているかもしれない。雨風に晒され補強が必要な箇所もあるかもしれない。


「ハッハッハッハッ──」


田舎とはいえ最も大きな大国の村だ。意外と規模が大きい。こうして見回りついでに走るだけでいい運動になる。見落としがないように三周走り、自宅に戻る。


朝食に黒パンと目玉焼きを食べながら日程を確認する。この後は村長に外柵に問題がないことを報告する。そして昼からはニーナとギルが森に行くのでお守りとして同行する。少し早めに迎えに行こう。日が落ちる前に村に帰ればいいだろう。


さて、これだと村長の家に行ってから昼まで予定がないな…剣の素振りをしようにも、疲れた状態で森に入っては万が一の事態に備えられない。


朝食を食べ終え、一応そのまま森に行けるように剣とポーチを腰に付ける。さてさてどうするか悩みながら村長の家に向かう。


村長の家に着き、ノックしようとするとドアが自然に開いた。


「おや、君は昨日の。」


ドアを開けたのは例の旅人だった。昨日と同じローブを着ているが、昨日よりも綺麗になっている。そしてフードを被っておらず、その素顔が露になっていた


肩で切りそろえられた赤髪、それと対象的な碧眼には凛とした強さを秘めているようだった。そして俺をジロジロ見ながら興味があるかのように口元を歪める


「昨日はどーも。」

「おいおい、そんな雑に扱わないでくれよ。君と私の仲じゃないか。」

「別に親しいわけでもないし俺が用あるのは村長だけだ。」


そう言いやって早く行けと道を空けて促す。この女はどこか胡散臭い


「やれやれ嫌われてしまったかね。悲しいよ全く。」


全然悲しそうな素振りも見せずに旅人は出ていった。調子の狂う人間だ


「おはようジーンくん。」

「おはようございます村長。外柵異常なしでした。」

「あぁ、いつもありがとう」


旅人の次に玄関に来たのは中肉中背でおっとりとした雰囲気の男性。このベア村の村長、トーマスさんだ。


「しぼりたての牛乳があるんだ。あがって飲んでいかないかい?」

「いいんですか?ではいただきます。」


特に予定がないので誘いを受ける。テーブルに座るよう促され、コップに牛乳が注がれ運ばれる。


────美味しい。やはりしぼりたての牛乳はいい。朝食を食べたあとだがパンが欲しくなる。


「パンもあるが食べるかい?」

「いえ、朝食は済ましてきたので。」


そんな心を見透かされていたようだ。そのまま他愛のない話を続ける。


「おはよう〜お父さん〜誰かいるの〜?」


2階から寝ぼけたリノが下りてきた。そして俺の方をジーッと見つめたかと思えば


「え!?ジーン!?なんでなんで!?ちょ、お父さん!ジーンがいるなら言ってよ!」


俺を認識するや急に騒ぎ出し、寝癖のついた頭を押さえて二階に戻って行った。


「相変わらず元気ですね、リノは。」

「あぁ、あの子は妻の遺した私の宝だよ。」


二階からドタドタと音が聞こえる。その様子に苦笑しながら村長は話を続けた


「私はリノに村長の座を継がせようと思っている。あの子は村で1番賢く、優しい子だ。」


朝には弱いがね──と村長は付け足しながら語る


「ジーンくん。君はこれからどうするつもりかい?このままこの村で過ごすのかい?それともあの夢を追いかけて他所へいくのかい?」

「俺は────」


村長とリノは俺が父の後を追っているのを知っている。周囲が馬鹿げた夢だと笑っていた中、二人だけは笑わずに聞いてくれていた


「俺は────」

「ジーン!今から時間ある?ちょっと付き合って欲しいんだけど!」


再び二階からリノが下りてくる。部屋着から外出用のワンピースに着替えたようだが、寝癖が残ったままだ。


「あぁ。昼までなら時間がある。」

「本当!?なら早くいくわよ!」


腕を掴まれ引っ張られる。急いで残っていた牛乳を飲み干す


「では村長、これで。牛乳ご馳走様でした。」

「ジーンくん。」


リノに引っ張られてゆく俺に、村長は優しい顔を向ける。昔から俺を励ましてくれた顔だ


「僕は君がどんな道を選ぼうと応援してるよ。それはリノも同じさ。」


そうして村長は見送ってくれた

───────────────────────

「どこに行くんだ?」

「色々と買わないといけないものがあるの。」


リノに連れられ、村唯一の道具屋、『銀の帽子』に入る。ちなみに帽子は売っていない。


「らっしゃい!リノ嬢!ジーン!デートかい?!」

「デデデ、デートなんかじゃないです…よ…」

「リノの買い物に付き合っているんですよ。クロッカスさん。」


立派に蓄えられた黒髭、白シャツにオーバーオールを纏い、店の名前と同じ銀の帽子にゴーグルを付けた炭鉱夫の様な装いをした店長のクロッカスさんが出迎えてくれる。


「そりゃデートだぜリノ嬢!お熱いねぇ!」

「違いますってばぁ!薬草三つください!」


リノの顔がドンドン赤くなる。ニヤケ顔のクロッカスさんはリノを見てますますニヤケていく。


「ほいよ。注文の薬草だ。どうした?トーマスさんが怪我でもしたのかい?」

「いえ、父さんはいつも通りです。ただ今来ている旅人さんが怪我をしていて、家の薬草を使ったので補充しに来たのです。」


そういえば俺と会った時ローブがボロボロだったな、来る途中で魔物にでも会ったのだろうか


「あ、クロッカスさん。俺にも薬草一つくれ。あと毒消しも。この後森に入るから一応な。」

「なんでい久しぶりに冒険ごっこか?お前さんももういい歳だろ?」

「俺はニーナとギルの付き添いだ。冒険ごっこは12歳でやめたよ。」

「ほう、あのちびっ子どもがか!クク、子供は元気がいいねぇ!リノ嬢みたいにもう少しお淑やかでもいいのにな!」

「そ、そうですね〜」


リノは目を逸らす。リノは真面目でそういったことと縁が無さそうに見えるが、何を隠そう俺の冒険ごっこはいつもリノと二人組でやっていた。もちろん周りの大人たちには秘密で


「ジ、ジーン!他にも買うものがあるから行くわよ!」

「あ、おい待てよ!クロッカスさん代金。釣りはいらない!」

「毎度ありぃ!」


クロッカスさんに銅貨4枚を投げて店を出る。ちなみに薬草と毒消しで銅貨4枚だ。クロッカスさんがジト目で見てきたが気にしない


一足先に出たリノの姿が見つからない。どこに言ったんだ?と思い見渡していると食堂のドアが開いた。


「ふぁ!リーン!ごむぇむ。わはひごふぁむたへへはふて。」

「食うか喋るかどっちかにしてくれ。」


するとリノはムシャムシャとエッグトースターを食べる。恐ろしく早い買い食いである


「ごめんねー私ご飯食べてないの忘れてて、急にお腹空いてさー。」

「大丈夫だ。次は何を買うんだ?」


こんな自由なやつが次期村長でいいのだろうか。そんな心配を他所にリノは俺を引っ張り次の店へと向かう


買い物を一通り終えると昼が近くなっていた。リノと食堂に入り、昼食をとる


「いやー、本日2度目の食堂だよー。あ、ミートボールスパゲッティくださーい!」

「俺も同じものください。」


そのまま料理を待つ間、リノは例の旅人の話をした。


なんでもこの村に来たのは人探しのようだ。どんな人を探しに来たのかは知らないが、この村に用があるとすれば村長のトーマスさんか、『銀の帽子』店長のクロッカスさんだろう。

あのクロッカスさんは引退はしたが元凄腕の冒険者だったらしい。道具を別の村に仕入れに行く時、道中の魔物を殲滅しているなんて噂もある。


料理が運ばれ、それと同時に話題も変わる。

「さっきクロッカスさんが冒険ごっこって言った時、昔のこと思い出してね…懐かしく感じたんだよ。」

「二人でよく森に行ってたよな。俺が一人で行こうとするといつもリノがいつの間にか後ろに着いてきていた。」

「だって同年代の遊び相手がジーンしかいなかったんだもん。それに、冒険は楽しかったし。」


懐かしい。あの頃は父の剣を持てなかったから木の棒を剣代わりに振り回してはしゃいでいたか。


「ねぇ…覚えてる?スライム相手に木の棒で1時間以上苦戦してたの。」

「あれは木の棒だっからだ、今なら剣で核ごと一刀両断できる。」


そんなこともあったな。結局木の棒を捨てて突撃し、核を噛み砕いたのだったか。スライムでベタベタになったのは言うまでもない。


懐かしい思い出に浸っているうちに、スパゲッティを食べ終え、店を後にする。


「じゃあ俺は今からニーナたちとの約束があるから、またな。」

「うん。付き合ってくれてありがとう。気をつけてねー!」


リノと別れ、クレハさんの家に向かおうとする


「今度は2人で冒険ごっこしようね。」


耳元で囁かれ振り返った時にはリノは走って帰っていった。

───────────────────────

「こんにちはークレハさん。」

「こんにちはジーンくん。」

「ジーンお兄ちゃんだー!」「ジン兄だ!」


クレハさんの家に着き、ドアを開けるとニーナとギルの突進をくらう。二人の体重がかかり、よろけそうになるが年長者として倒れるわけにはいかない。


「それじゃあジーンくん。よろしくね。」

「任せてください。ほら、2人とも行くぞ。」

「「はーい」」


三人で歩き、村の関所に着く


「よーし!オリン山にでんせつのひほーを探しに行くぞー!」「オー!」


元気なギルの掛け声にニーナが応える。

ちょっと待てオリン山だと?


「森に行くと聞いていたが山に行くとはどういうことだ?」


ニーナからは森に行くと聞いている。戸惑う俺に二人はキョトンとした顔をする


「ジン兄、でんせつのひほーは森なんかしょぼい場所にないよ、オリン山の頂上にあるんだよ。」「だよー。」


待って欲しい。確かに麓までは歩いて数分で着くし、冒険にはうってつけかもしれない。しかしオリン山には魔物以外に危険な動物がいるし、万が一にも山のヌシを怒らせれば命の保証はない。それに標高が低いとはいえ日没までに登頂し戻れるか怪しいところだ


俺は二人にやめさせようとするが


「「冒険♪冒険♪ウッキウキワックワク冒険だぁ!」」


誰が止められようか子供の元気な姿は。ここで止めれば後日俺に秘密で山に行くに違いない。クレハさんもまさかオリン山に行くとは思ってもいなかっただろう。

俺は覚悟を決めて、2人を満足させて早々に切り上げることに決めた。

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