神田 暁の失敗
「失敗した!失敗した!失敗した!」
僕、神田 暁は自分の部屋のベッドで枕に顔を埋めながら、足をバタバタさせてもがいていた。
今日の学校の帰り、山崎 綾さんが、友達の鮎川 瞳が用事があるそうで一緒に帰れなかったらしく、僕が帰ろうとした時に綾さんから声をかけられる今日も僕と綾さんは一緒に帰る事となった。
「……」
僕は綾さんを意識してか、彼女が僕の小説が好きでファンなのを知ってるからか教室の時のように上手く話せずにただただ無言で歩くしかなかった。
「ねぇ、今日はあまり喋ってくれないね? どうしたの、私と一緒に帰るの嫌だった? この前も帰り際に急に私の事避けるように帰るし……なんか怒ってる?」
綾さんは僕の態度が淋しかったのか、少し悲しそうな顔をして疑問を投げかけてくる。
「えっ! あっうん、ち、違うよ、ただちょっとね……あっ!?そうだこの前、綾さんが勧めてくれた作品読んだよ、とても面白かった、ありがとう教えてくれて」
僕はとっさに話題をそらそうと、綾さんが好きそうな話題に話を変えた。
「えっ、 本当! 嬉しい、自分の好きな作家さんの作品読んでももらえるのってファンとしては自分の事のように嬉しいよ」
綾は凄く嬉しそうな笑顔を僕に向けた。
「そうそう、私も嬉しいことあってね、その作品の生臭 異臭先生がね私の作品に感想くれたの、生臭先生はあまり読者に関心持たない人だと思っていたから……私ずーと生臭先生の作品に感想書いたけど返信してもらった事なかったし、だから自分の作品読まれたのが嬉しかった」
綾は僕が感想に返信した事が嬉しかったのか、薄っすら涙を浮かべ、心から喜んでいる。
(感想の返事を貰うだけでこんなに喜ぶんだから、やっぱり恋歌 花園さんは綾ではないのだろう、恋歌さんくらい人気がある人なら既に一感想くらいでは喜びや悲しみの感情すら薄れている事だろうから)
僕はそんな偏見を持ちながら、綾との会話に僕の作品の読者が誰なのかを探っていた。
だが僕はその時の会話で自分の過ちに気がついた。
(あっ!? そうか……失敗した……三人のうち一人に感想書けば良かったのに、僕はあの日、三人の作品を読み、三人に感想を書いてしまった……)
「暁みたいに『小説家をやろう』をやってる友達出来たり、生臭 異臭先生に私の作品読まれて、感想もらったり、最近嬉しいことばかりで幸せ」
綾は僕を見つめながら話す。
「そ、そうなんだ、良かったね……僕も綾さんのような同じ趣味を共有できる友達が出来て嬉しいよ」
僕は感想を書いただけでこんなに喜んでくれる事に、僕も書いて良かったと思った。
「暁の書いてる作品はどうなの? 読んでくれたり、感想くれる読者とかいるの?」
「まぁ……いると言えばいるかな、あまり人気ないけど、その必ず読んでくれる読者の方には好評みたいで、更新しないで長く経つと催促のメッセージをもらったりもするよ」
「へぇ〜、凄いなぁ、熱狂的なファンだね……私も暁の小説読んでみたい……ダメ?」
綾さんは上目使いたいで僕を見つめ、僕の腕を掴んで甘えながら聞いてきた。
「あつ!? えっ……う〜ん書き手としてこんな事を言うのはダメなんだけど、知り合いに今書いてる読まれるのは恥ずかしいし……だったら僕が綾さんの為にノートに新しくなんか書くからそれじゃダメ……かな?」
僕はなんとかこの場をごまかす為に、とっさに思いつきで僕から提案を綾さんに申し出てしまった。
「えつ!? 本当に……私のために小説書いてくれるの? 嬉しい、読みたい、書いて書いて!」
綾はとても嬉しそうに、満面の笑顔を向けた。
「僕なんかの小説読みたいの?」
「読みたい、読みたいに決まってんじゃん」
「だったら書いては見るけど、あまり期待しないでよ……」
「ううん、期待しちゃう……へっへっ。 だって暁が私のために書いてくれるんでしょ? その気持ちだけで私はもう十分満足しちゃってるもん、ありがとう」
綾は頬を赤く染め、ハニカミながらお礼を言う。
「そう言われると余計にプ、プレッシャーだよ〜」
僕は困った顔をして苦笑いを浮かべたが。
(こんなにも僕の作品に期待し、喜んでくれる人がいるなら、一生懸命期待に応えられるそんな作品に仕上げてあげなきゃね)
僕は心の中ではそんな彼女に喜んでほしい、綾さんの期待以上の物を書いてあげたい、そんな決意にみなぎらせていた。
「あっ!? そうだ、生臭 異臭先生に感想もらったなら、感想の返信をしてあげたら? その方が生臭先生も喜ぶんじゃない」
僕はふとある事を思いついた。 三人に感想を書いた失敗をしたが、感想の返信を促す事を綾さんにすれば、感想の返信と言う滅多に起こり得ない事が起こった人が綾さんだと分かるはずだと。
「えっ!? 感想の返信をするの……め、迷惑じゃないかな? 私は先生と話したい事沢山あるから、全然返事書きたいけど……」
「迷惑なんかしないよ、僕が同じ立場なら絶対嬉しいよ」
「そ、そうかな、暁が言うなら返事書いてみるね」
綾は僕が猛プッシュすると、納得してくれたらしく、返事を書くらしい。
僕はそれを聞いて小さく小脇でガッツポーズを決めた。
そして家に帰り、シャワー浴びて、一息つき、『小説家をやろう』にアクセスすると、感想が来ていますと表示され、僕は「よっしゃー」と天に高々と拳を突き上げ、コメント蘭を開き感想を読むと。
「……」
僕はスマホをみて固まった。
僕が書いた感想に対しなぜか三人が感想の返事を送ってきていたのだ。
「なんでだよ!」
僕はスマホを床に叩きつけようとする動作をしようとしたがやめ。
「なんでだよ! なんで感想の返事を三人が送ってきてんだよ! 意味分かんねーよ! それも同じ時間、同じタイミング……嫌がらせか! 綾さんが誰かわからねーじゃねーか!!」
僕は一人スマホに向かいツッコミを入れ、ベットへと飛び移り枕に顔を埋めて、のたうち回り、僕は深くため息をつきながらも、感想の返事を読んでいると、あるメールの一文に目が止まった。
その感想の返事の一文にはこう書かれていた。
『生臭 異臭先生は私と同じ高校生ですか?』と……