鮎川 瞳の秘密にしてる事
私、鮎川 瞳は東西新井高校の一年生で、山崎 綾とは小学校三年生からの大の仲良しの親友である。
昔から髪型はショートカットのスポーティーな感じで、実際運動神経も良く、運動部からも助っ人を頼まれる事が多かった。
身なりや性格から周りは私の事を明るく活発な女子と見る事が多く、親友の綾でさえそう思っているのだろう……でも実際の私はとても内向的で、アクティブとは真逆のインドアを好む女子なのだ。
「瞳、今日は一緒に帰ろうよ?」
授業が終わり放課後、綾から一緒に帰ろうと誘われたが。
「あっ、ごめん綾、今日はちょっと急いで帰りたいから……また今度ね……今日も暁と一緒に帰りなよ」
私はどうしても急いで家に帰り確認したい事があり、授業が終わると直ぐに帰りの支度をして、友達の誘いも断って家路へと急いだ。
頭が整理できない、一旦落ち着いて考えないとこのドキドキが止まらない。
なぜ私の気持ちがこんなにもパニックになり落ち着いてない理由だけは分かっている。
だって、あの生臭 異臭さんが感想をくれた……それも、もしかしたら生臭さんが同じクラスの神田 暁かもしれないのだ、こんな事が、こんな事があるだろうか……
私には親友の綾にも言っていない秘密があった、それは私は体育会系女子とは真逆の文系女子で、綾と出会う前から『小説家をやろう』に投稿している「綾小路 袋小路」と言う事。
昔から物語を読むのも書くのも好きな私は、『小説家をやろう』を知り、直ぐに登録、子供ながらに物語を書いては自分が面白い、読みたいと思う物語を書いては投稿していた。 当然話を作るノウハウも知らないど素人の子供の作品など見向きもされず、今まで私の投稿作品を読んだ人は0人で、1ページだって読まれた事がなかった、それでも私は書く事が楽しく、読む事も好きだった。
そんなある日、私は色々と読み漁っていた時だ、生臭 異臭さんの作品と出会った。
生臭さんの作品は他のどの作家さんとも違い、インパクトもあり、私の創造の遥か上をいく展開で驚かされた、そんな面白い生臭さんの作品ですら全く人に読まれず、評価もされない、でも生臭さんは自分のスタイルを崩す事なく、不定期であるがいくつもの作品を投稿し続けていた。
私はそんな姿勢に感銘を受け、励まされ、いつしか生臭 異臭先生のファンになっていた。
(私は生臭さんのお陰でこうして筆を折る事もなく、先生の作品を読んでいつも勇気を頂いています、初PV、初感想ありがとうございます)
帰宅の道中、生臭さんに感謝を述べながら私は家に着くと。
直ぐに自分の部屋に入り、コンタクトレンズを外し、いつもの家にいる時につける黒縁眼鏡をつけ、タブレット、パソコンを起動、『小説家をやろう』サイトへと飛んだ。
「あっ、やっぱりだ、私の作品『力を失った勇者は、それでも魔王に立ち向かう』のPVが1と表示され、感想が一つ書かれているだけだ……もしさっき教室で暁が本当にこれを読んだと言うならば、PVが2になってないとおかしいし、彼は言った「感想も書いた」と……」
私は感想ページにカーソルを合わせクリックする。
「私は暁が『小説家をやろう』を利用してるのは知らなかったが、もし彼も使っているならユーザー名があるはず、でも私の作品に書かれた感想は『生臭 異臭』先生の一通のみだ……ここから導き出せる結論はただ一つ、生臭 異臭先生は……神田 暁って事以外に私には考えられない……」
私は急にドキドキした、もう確信に近い真実に辿りつき、私の尊敬し、憧れていた人が、同じクラスの男子だった事が。
「ど、どうしよう……」
私は顔を真っ赤にして、手で顔を覆った。
「で、でも待って! 感想をもらって舞い上がっていたけど、も、もしかしたら物凄く貶していて、バカにしているかもしれないじゃない……そ、そうよ、流石に好きな作家さんでも私だって貶されたらショックで、筆を折って、生臭さんを嫌いになるかもしれないじゃない」
私は限りなく0に近い僅かな1%の思いを抱き感想を読んだ。
『いつも僕の作品を読んでくれてありがとうございます。 いつも僕の作品を読んで感想をしてくれているのに僕は綾小路さんの作品を読んでなくて申し訳ないです、ごめんなさい。
で、ちょっと訳あって綾小路さんの作品を読ませて頂き、めちゃくちゃ面白く、ラストのあの展開には度肝を抜かれました、早く続きが読みたいほどです。
過去作も全部読ませてもらったのですが、どの作品もクオリティーが高く、面白かったです。
あまり大勢の方には読まれてなくモチベーションが上がらない事もあるかもしれませんが、個人的には今後も書き続けて、素晴らしい作品を投稿してくれる事を一読者として願うばかりです。
突然の感想すいません、今後もお体には気をつけて頑張って下さい、僕も綾小路さんに負けないように頑張りたいと思います』
「……」
私は感想を読み終わり、ただただ画面を見つめ、目から涙を流していた。
「な、生臭さん……いえ、暁……めちゃ良い奴じゃないかアンタ……こ、こんな事を書かれたら筆折れる訳ないだろ……」
私は涙を流しながら、ティッシュで鼻をかみ、さっきまでのドキドキが更に増していたのが分かり、とてもなんとも言えない息苦しさを感じてしまった。
「ど、どうしよう……私、暁の事……」
私は机の椅子からベッドの布団に移動すると、枕に顔を埋め足をバタバタさせ。
「ごめんね綾……」