恋歌 花園の好きなもの
「皆さまお待たせ致しました、この度ネット小説大賞受賞されました恋歌 花園先生の登場です、盛大な拍手をお願いします」
広いホテルを借りた会場には沢山のメディアや出版社が集まり、私、山崎 綾こと、恋歌 花園は司会の紹介と共に壇上に上がった。
「恋歌 花園先生、デビュー作『恋する私と恋する僕』の年間ネット小説大賞受賞おめでとうございます」
「あ、ありがとうございます、こんな大きな賞を頂けたのも、読者の皆さんのおかげだと思っております、今後もこの賞に恥じない様、日々精進し頑張って行きたいと考えています」
私、山崎 綾、ペンネーム恋歌 花園は若干16歳にして初めて書いたネット小説『恋する私と恋する僕』が一ヶ月弱で異例の一億PVを叩き出し、ネット小説の頂点に登りつめ、出した書籍も三百万部突破の売り上げを記録した超新人である。
容姿もサラサラした茶髪のロングヘアーに、クリクリした大きな目、いつも明るく笑顔で、スタイルもモデルの様にスリムで、高校でも入学したその日に下駄箱にラブレターが詰め込まれ、校舎裏に何度も呼ばれ告白されたほどだ。
私の受賞挨拶が終わると会場から盛大な拍手が巻き起こり、直ぐに私の元に各出版社やメディアが集まって来たが私はそれらをスルーして直ぐに舞台裏へと逃げた。
会場に残っていると各出版社のインタビュー、挨拶と次回作のオファーなど色々な人から責められ、疲れてしまうからだ。
初めて賞を頂いた時はとても嬉しかったが、日々何回も色々な賞をもらうと流石に喜びも薄れ、だんだん私の作品が評価されているのではなく、私のネームバリューが目当てになっている気がして嫌気がさしてきていた。
私は家路に帰る電車の中、黒縁眼鏡をかけ、スマホを取り出すと、小説投稿サイト「小説家をやろう」を開き、ある小説を読んでいた。
ちなみにこの「小説家をやろう」は小説を書くのに使ったサイトで、ここに投稿し沢山の人に評価され私はこうして有名作家の一人の仲間入りをさせてもらった。
「どれどれ、あの人は投稿が不定期だからいつ更新してるか分からないんだよね、この前の投稿も一週間前だし、そろそろ新しい話し更新してるかな……あっ! 更新してる……ありがとうございます、生臭 異臭先生、久しぶりだな先生の更新」
私は電車の中で笑顔を浮かべ、スマホの小説を読みふけっていた。
「ふぅー、今回も意表をつく展開に、予想も出来ない次回繋ぎ、毎回私の予想を遥か上を行く展開には脱帽です、最高の小説ありがとうございます」
私は電車の中一人スマホに頭を下げ感謝の言葉を述べる。
私が今読んでいたのは、生臭 異臭先生と言う方が書かれた「小さな小石を蹴ったら世界最強」と言う、ランキングにも乗らず、ブックマークも三件で、ユニークユーザーが三人と言う不人気作である、だが評価人数は三人で三十点と感想は常に更新するたび、三人が常に感想を書いていた。
「この生臭先生の小説を読むと一日の嫌な事も全部吹っ飛んだ気分になる……早く次話出ないかな〜」
私はそんな事を考えながら、また生臭先生の作品を読み返していた。