温もりの発生源?
今日は外は風が強い。寒気が入って今夜は冷え込むと言っていた。
こんな日はお鍋がいいよね。
なので、おでんを作りましょ。
おでんは下準備が大事よね。
大根、じゃがいも、玉子、こんにゃく、しらたき、昆布に、練り物。
練り物はなに入れる?
竹輪に、さつま揚げ、なると、はんぺん。
あと、餅入り巾着もあると嬉しいな。
忘れちゃいけないのは、モツに牛すじ!
これをたっぷりの出汁で煮ていくの。
ふつふつと沸騰させ過ぎないようにしないとね。
そろそろ帰ってくるかしら。
ふふっ。
たまには炬燵で食べるのもいいかな?
やっと炬燵を出したことだしね。
そうか、今日は炬燵を出した記念日ね。
じゃあ、真ん中をあけて、小皿にお箸を置いておきましょう。
そんな風にぱたぱたと動き回っていたら、旦那様が返ってきた。
「ただいま」
「おかえりなさい」
玄関に出迎えて鞄を受け取ったら、頬にただいまのキス。冷たい唇に、外は本当に冷えているのだと思ったの。
居間に移動しながらお話をする。
「なんか、いい匂いだね」
「おでんを作ったの」
「それでか」
「先にお風呂に入ります?」
「そうしようと思う」
「お酒はどうしましょうか。熱燗にでもしましょうか」
「それもいいかな。ところで、先にお風呂に入らないかい、奥さん」
「ええっ!」
「だって」
と言って炬燵を指さす旦那様。
「一度入ったら出るのが難しくない?」
「うっ、確かに」
そう、炬燵には魔力がある。入ったものを炬燵から出さないという魔力。
「えーと、じゃあ、旦那様が出てから入ります」
「それじゃあ、夕飯がお預けになるじゃないか」
「旦那様は先に食べていてください」
「一人で食べても美味しくないよ」
「あう・・・」
「一緒に入ろうね」
結局仲良く一緒に入ったの。不埒なことを仕掛けてくる旦那様から何とか逃れて、お風呂から上がった私達。
炬燵で食べるために、小鉢に入れたお惣菜を運んだり、お茶碗を運んだり。もちろん熱燗も用意した。最後に小鍋に移したおでんを運んで、二人で炬燵に入った。
「おっ!」
「あら」
二人でそっと布団を捲くって覗いたら、そこには我が家のかわいい仔が丸まって眠っていた。
「炬燵をどうしましょうか」
「一応つけようか。温かくなったら消せばいいし」
「そうですね。でも」
言葉を切ってもう一度炬燵の中を覗き見た。
「この仔で十分温かいですね」
「そうかな。やっぱり寒いよ」
旦那様はそう言ってから私を抱きしめてきた。
「うん。やっぱり奥さんを抱いていた方が温かい」
「旦那様。こういうことはご飯を食べてからにしてくださいね」
腕に手を掛けてやんわりと抱擁から逃れる私。
「そうだね。ご飯を食べてからにしよう」
夕飯を食べ終わって片付けて、今度は定番のみかんを炬燵の上においた。
炬燵の中を覗いた旦那様が私にニッコリ笑いかけた。
「本当に幸せそうに寝ているね」
「そうですね。こんな姿を見るとあの歌を思い出しますね」
「猫は炬燵で丸くなる~、ってやつかい」
「そうです。それに本当に温かいですよね。足先を触れさせても起きないですし」
スースーという寝息が聞こえてきそうな、安心しきった顔で寝ている仔。
「確かに温かいけど・・・そろそろ炬燵はこいつに譲って、私達は寝室に行こうか」
旦那様の言葉に頬が熱を持ったように熱くなる。
「私は猫より奥さんで温まりたいかな」
「や、やだ。もう」
口では嫌と言いながらも私達は戸締りを確認して寝室に行って寝たのでした。