婚約破棄は私から
「ユーリス・カストナー殿下、あなたとの婚約はなかったことにして頂きますわ」
決まった!
これ言ってみたかったんだよねぇ
だいたい、どの話でもいっつも男から女に向けて婚約破棄とかずっこいんだよねぇ
だって毎回毎回、浮気した挙句婚約破棄を宣言するのって男の方だよねぇ
物語読む度に腹立ったわ〜。自分の浮気棚に上げて何ほざいてんだって思ったもんね
自分だったら絶対こっちから婚約破棄してやる!って思ってたもんね
って言っても、身分の格差がない現代日本で一般家庭に生まれた自分が、身分の高い相手と婚約することも、その相手に浮気された挙句婚約破棄されることも、まぁ、ないよね?
ところがどっこい、何が起こったのかわかんないんだけど、ある日突然目が覚めたら17歳だった日本の一般庶民の自分ではない、この世界の13歳のシンシア・クレーゼ公爵令嬢として生きることになってたんだよねぇ。勿論シンシアとして生きてきた時間もちゃんと記憶にありましたよ?
乗っ取り?
転生?
まぁよくわからんけど、これまでの記憶がちゃんと残っているって事は特に困る事はないって事だ!と思って気にしないことにした
うん。人生楽しく流れに身を任せ生きるに限るよね!そしてできることならまったり生きたい!
神様、苦情は言いませんのでどうか私にスローライフをプリーズ!!
さて、だいぶ話が脱線したので元に戻しましょう
シンシアは10歳の頃にこの国の第2王子で同じ歳であるユーリスと婚約した
まぁよくある政略結婚ですよ
その辺は公爵家に生まれたってことで仕方ないと言いますか、しょうがないと言いますか
え?同じ意味だろって?まぁそうなんだけどね
それで婚約したものの、このユーリスって男ろくな男じゃなかったんだよね
勉強嫌いでとにかく勉強から逃げ回っていた
おかげでいつまでたってもおバカなまま
剣術の訓練も痛いの嫌いとかなんとか言って逃げ回っていたから誰と戦っても一向に勝てない。更にワガママ坊ちゃんだから勝てなければ文句言う
お前が悪いんだろとは王子相手に誰も言えるわけもなく…
せめて王様もなんとか言ってやればよかったのに、仕事にかまけて全く家庭を顧みないダメ親父だったんだよねぇ
第1王子の母親は正妃様なんだけどこのユーリスは側室の子。その側室っていうのがまたワガママな貴族の娘で子どもの教育より自分のおしゃれに忙しくてこれまたノータッチ
自然、誰も何も言わない事をいい事に好き勝手ワガママ放題
ある日気がついた王様が慌てて軌道修正しようとしたけどどうにもこうにもならず、いっそのこと誰かに押し付けちゃおうって安易に考えて出てきたのがこの国の宰相を勤める我が父!
そんでもってついでに娘もいるし婚約しちゃえば?ってなんとも軽いノリで押し付けられてしまった
そんなこんなで15歳になる今日まで婚約者として関わってはきたものの、ほんっとーに酷い奴なんだよ
まず、2人の距離を縮めるためにと場をセッティングしたところ、好きなお菓子がなかったという理由でやってきてものの数秒で退散
一緒に乗馬でもどうかと馬に乗ればあっという間に落とされ、それならばダンスでもと向かい合えばダンスなんてした事ないとほざきやがった
じゃあ何をしますか?と尋ねたら
めんどくさいから寝る、あとは勝手にしろとベットに潜り込んでしまった
いや、これってどうなの?無理じゃね?って思ったのは私だけじゃなかったはず
それでもどうにかこうにか婚約者として逢瀬を重ねて?きたものの
1ヶ月前に学園に入学してきたある大きな商会の娘にどうやら一目惚れなるものをしたそうな
毎日毎日飽きもせず王室の予算でプレゼントを買い与え(私は一度ももらった事ないけどね!)
パーティがあると聞けばドレス一式プレゼントした挙句エスコートし、ヘタッピなダンスを申し込み(足踏んでたけどね!)
王都にある有名なケーキ屋さんで1日限定10個という高級ケーキを側近に並ばせて買わせ、仲良く食べていたな(私も食べたかったなぁ)
まぁ、要するに浮気しているのを隠すでもなく、なんとも堂々とイチャイチャしていたのだよ!
はっきりいってドウデモイイ相手だからね、婚約破棄するのは全く問題ないんだけど、ここで1つ問題が出てきたんだよね
どうやらユーリスの奴、本気で彼女と結婚したくなったから婚約破棄を考え出した
ところが、ユーリスには問題がたくさんあったけど、こっちにはなんの問題も落ち度もない
このままだと婚約破棄もできなければ彼女との結婚なんて夢のまた夢
この国では側室が持てるのは王太子と国王のみ
第2王子では側室が持てないのだよ
だからどうしてもこの婚約は取り消したいということだ
勉強のできないユーリスだったけど悪知恵だけは働いたようだ
まず彼女の持ち物を隠したり、壊したりする(勿論側近が)
彼女の悪口を広める(側近が)
彼女が歩いてるところに上から水や植木鉢を落とす(勿論側近が)
そしてトドメは階段の上から突き落とす(これまた側近の仕事ですよ)更にこの時は下で待ち構えていたユーリスが見事彼女をキャッチ…できるわけもなく、たまたま通りかかった第三者がキャッチして無事でした(ユーリスはその横で転んでたな)
仕上げはこれら側近にさせた事を全て私がしたように偽装する(なぜかここだけユーリスがしてた)
そしてついに婚約破棄イベントがやって来ましたよ!
もうね、なんもかんもがバレバレすぎて可哀想になってきちゃったよ(側近のことが)
でもここで同情なんてしてたら向こうから先制パンチを受けちゃうからね
で、見事こっちから婚約破棄を宣言してやりましたよ!
あの世にいるお父さんお母さん、あなた方の娘はやりましたよ!(いえ、両親は別の世界で健在だとは思うのですが、ここはノリでってことで)
あ、回想してたらボーッとしすぎてたわ
ん?ありゃ、ユーリス目も口も開いてる
タマシイ抜けてないかい?
はっ!
「し、シンシア・グレーゾ、お前との婚約を破棄する!」
いやいや、ツッコミどころ満載ですがな
「まず、婚約破棄はわたくしが先に宣言いたしました。そして、わたくしの名前はシンシア・グレーゾではなくシンシア・クレーゼです。5年も婚約していて相手の名前を間違えるとは失礼にも程がありますわ」
うわ〜、焦ってる〜
本当、名前くらい覚えてなさいよね
「ふ、ふんっ。わざと間違えたんだ、わざと!」
いやいや、本気だったよね?ほら、目がウロウロしてるしね
あの人嘘つくと目がウロウロするんだよなぁ、わかりやすい人
「そ、そんなことより婚約を破棄する!」
「いえ、だから先程も申しましたがわたくしが先に申しましたわよ」
「え、あ、えっとそうなの?え、じゃあ婚約破棄したってこと?」
「はい。だからそう申しました
理由はユーリス様の浮気ですわ。陛下には先に報告しております
あ、これ大事なことなんで言っておきますけど、ユーリス様が全てわたくしのせいにして行ってきたそちらの令嬢に対するイジメですが、こちらに証拠がございますのであしからず」
「は?何それ!?
私はユーリス様の婚約者であるあなたが私とユーリス様との関係に嫉妬してやっているんだって聞いてるんだけど!?」
あー、ですよねー
でもここはハッキリしとかないとね!あの令嬢も自業自得とはいえ、さすがにあんな男に捕まるのは可哀想だもんね
それに私がしたってことになったままだと、後で何か仕返しされるかもだしね?
「えぇ、わたくしがしたようにユーリス様が細工をされましたの。随分とお粗末な細工でしたのですぐにバレましたけど
それと実行犯はそちらの側近の方ですわ
あ、でも彼はユーリス様に言われて仕方なく手を貸しておられただけですの。あなたにケガをおわせないよう細心の注意は払っておられましたわ」
「ちょっと!どういう事よ!あれ全部あんたがやったの!?信じらんない!あんたみたいなロクでもない男なんてこっちからお断りよ!もう2度と近づいて来ないでよね」
おぉ!激おこぷんぷんまるである
「シンシア、君は僕になんの恨みがあってこんなことしたんだ!計画が台無しじゃないか」
おっとこっちも激おこである
ちっとも怖くないけどね!
「なんの恨みも何も、ご自分のされた事をわたくしのせいにされてはたまったものじゃありませんもの
それに、わたくし結婚するなら文武両道、とまではいかなくてもそれなりに努力をキチンとされる、浮気をしない誠実な方が良いですもの
ではユーリス殿下、これまでありがとうございました。と言っても特に何もして頂いてはございませんが、一応お礼くらいは言って差し上げてもよろしくてよ
では、ごきげんよう」
「待って、待ってくれ!彼女にフラれ、君にまで捨てられたら僕は誰と結婚すればいいんだ!?
頼む、置いてかないでくれーーーーーーーーーーー」
これにて一件落着!