裏野ドリームランド調査報告書‐入園‐
数多くの廃墟を見てきた我々だが、この門の前に立つと思わず足がすくんでしまう。笑顔で迎えてくれるのはウサギのマスコットだが、いたるとこに苔が生しており、入園ゲートは錆びついている。ほんのりカビ臭いのもまた、適度に恐怖を唆る。
さて、そろそろ今回の訪問者を紹介しよう。縮毛の男は一年の宮島だ。彼は今回が初の実地検証であり、半ば興奮気味の様子であった。そして前髪の長い女は二年の常花だ。彼女は熟練した廃墟探訪家で、今回も非常にテキパキとオカルト研を指揮してくれる。最後に私、三年輪島だが、オカルト研の部長として、日々資料を調達し続けた非戦闘員だ。今回の企画は非常に興味をそそられるもので、私自身興奮を隠せないでいる。
錆びついた入園ゲートを潜ると、まず飛び込んでくるのは巨大なモニュメントだ。モニュメントは件の兎の姿をしており、花壇に囲まれて陽気に歯を見せている。手入れされていない花壇にはどす黒い草花の残骸が 残っているばかりだ。
広場のモニュメントの向こうには巨大な屋敷がある。所謂近代の城であり、多くの人が童話を想起するようなものだ。この地下には拷問部屋があると言う話も聞くが、本稿の趣旨からは逸脱するので指摘するに留めておく。
薄曇りの適度な緊張感の中、もしもの為にと鞄に入れていた雑多な道具の中から懐中電灯を取り出す。私はそわそわとしながら先へ進む宮島の後ろについて行った。ガタガタと音を立てて動くメリーゴーラウンドを見て、宮島が立ち止まる。
「電気、止まってますよね……?」
「止まっている……と思う」
蔦の這い回る操作盤からも容易に想像がつくが、この遊具を使った、と言う痕跡は一切ない。常花がじっと見つめた先には、やはりかつては手入れされていたであろう庭園が不恰好に広がっているだけだ。常花は手に持った懐中電灯で視線の先を照らす。
「……逃げて行ったわね」
「ちょっと、脅かさないでくださいよ!」
宮島が私に飛びつく。私はそれを引き剥がしながら、常花に尋ねた。
「誰がいたんだ?」
「えぇ、あれは子供の霊です、間違いありません。可哀想に、過去に囚われたまま気づかずに遊んでいるんですよ」
常花は手を合わせ、さっさと目的地へと向かって歩き出した。私が後を追うと、震えていた宮島が急いで駆けてきた。
いかにも不気味な遊園地だが、不思議なことに恐怖は感じていない。私も長く調査をして来たが故、なのだろうか。