Boy’s side ~Part2
「風に舞う」
僕を見つめるその瞳は
氷のように冷めやかなのに
貴女の躰は火のように熱い
けれど風を抱くように
貴女はいつもするりと
風に舞う鳥のように
僕の腕から逃げてしまう
僕の心を見透かすように
僕のものにはならないと
「君を抱く」
君が泣くから
僕は君を抱き締める
君が泣いている訳を
僕は知らないけれど
君が僕の胸の中で泣くから
僕はただ君を抱き締める
ただ抱き締めている
君が泣くから
「十五の夏」
髪を切ったのと君は
いつもの笑顔で僕の前に現れた
あれは真夏の午後三時
顎のラインがシャープなボヴカット
耳に銀のイヤリングを揺らしながら
可愛いでしょと君は笑う
ねえあたしのことすき?
ほんとうにあいしてる?
甘えた声で君は問うた
答える代わりに僕は君を抱き締めた
そのまま離さなければ良かったのに
眩しかった輝いていた
あの十五の夏に
君は逝った
僕だけを独り置き去りにして
その理由を僕はいまだに探している
幾たび夏が廻り来ようと
「杏子」
君の名を初めて問うた時
君は軽やかに「杏子」と
答えた杏の子で杏子だと
その日以来、気がつくと僕はいつも
その名を口にしている口ずさんでる
歌うように 囁くように
君の名は杏子
その名のとおり甘酸っぱい想いで
僕の胸を占めてゆく君の名は杏子
それ以外君のことを僕は知らない
「春まだ来」
雪混じりの風が吹く頃
君はもう
春が来るのを待っていた
野を駆け
花冠を結い
僕と一緒に戯れる
そんな夢を描いていた
サナトリウムの白い壁の中で
春を待たずに君は逝った
僕を独り置き去りにして
「エオリアン・ハープ」
晴れた五月の草原を想わせる
その軽やかな調べ
”ピアノの詩人”
そう後の人々が讃えし
ショパンのエチュードを君は
いとも鮮やかな音で紡ぎ出す
「ピアノが恋人」と笑うその
表情はあどけなく
君はまだ本当の恋を知らない
「朝」
溢れる陽光
暖かい部屋
目が醒めて気付いた
隣にいる君に
照れながらそっとキスをした
あの初めての朝
「君の横顔」
色褪せたその頬を伝うのは
雨、それとも
涙……
君の横顔は限りなく美しく
僕はただ立ち尽くす雨の中
「流れぬ涙」
泣きたい
泣きたい
声を枯らして泣き叫びたい
君を想えば想うほど
身も心も引き裂かれるのに
けれど涙が出ないんだ
けれど涙がでないんだ
「涙の訳」
あの時
君の頬をすっと一筋伝った涙
僕は今でもその涙の意味を探している
「僕の美しい妻」
僕の妻は美しい
細くしなやかな肢体
透き通るように白い肌
濡れ羽色した切れ長の瞳
誰もが感嘆する僕の妻
けれどいつの頃からか
妻の視線は夫ではない
別の男に注がれている
妻はいっそう輝きを増し
前にもまして華やいでゆく
しかし彼女は唯の一度も
僕を裏切ることをしない
彼女にとっては秘めた想い
ただ想うだけの恋
だからこそ限りなく
妻は美しくなってゆく