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勇者が居ない異世界で。  作者: そら
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第一の命 生きるということ

目が覚めると僕はそこに居た。

産まれたんじゃない。居たんだ。


「おや、起きたのかい?ラルグ」

ドアから入ってきたおばあちゃんが僕に言う。

「うん。おはよう。.........ラーシャおばあちゃん。」



場所、名前、種類、基本的なことはなぜか知っていた。

僕は今出来たはずなのに僕が僕じゃないみたいに知っていた。

何年も生きてるみたいに。母の腹から産まれたみたいに。いろんな人に見守られて育ってきたみたいに。



「おばあちゃんこれはなに??」

目の前に浮かんでいる炎の様なものを指して僕は尋ねた。

「それはね、(ソウル)と言ってお父さんからの最後の贈り物なんだよ。それがあれば武器や防具、職業だって選べる。」

「最後の贈り物.........??」

あぁ、そうさと言っておばあちゃんは悲しそうに笑う。

「この世界では男が死ぬと子供に魂が分け与えられるんだ。」

「じゃあ僕のお父さんはもう居ないの?」

「イヴォブの谷に行ったきり帰ってきていないだけさ。どこかの地方では、生きつつ魂を分け与える技術なんてものもあるらしいからねぇ。死んだかどうかなんて死体を見ないと分からないよ。」


きっと父は死んだのだろう。

不思議と悲しくは無かった。

その後見た母の顔は酷いものだった。きっと沢山泣いたのだろう。

そう感じた。

(ああ、この人はもうじき死ぬんだな)

なぜかそう思った。あまりにも無様な姿だったからとかそんなんじゃなく。


「お母さん。大丈夫だよ。僕がいるから。」

「ありがとう」母はそう言って僕を抱きしめてくれた。

暖かかった。

何が大丈夫なのかは分からないけれど、この人が死ぬまでは僕が大切にしようと思った。




「おばあちゃん。お母さんもうじき死んじゃうね。」

「ええ?」

「なんだか分からないけれどそんな感じがしたんだ。」

おばあちゃんは険しい顔でこう言った。

「その話は誰にもするんじゃないよ!じゃなきゃ殺されちまう!」

「お、おばあちゃん.........??」

おばあちゃんはこほん、と咳払いをした。

「大きな声を出してしまってすまないね。でもこの話は誰にもしとゃいけないよ?」

「うん。分かったよ。」

「じゃあ、おばあちゃんと約束だ。」

「うん。」


それ以来僕はおばあちゃんが怖くなった。

きっと分からないから怖いのだろう。恐れてしまうのだろう。

もちろん、その話は誰にもしなかった。死ぬまで守り続けた。怖いから。



僕は英雄でも勇者でもない。ただの人間。そうじゃなきゃ僕は恐怖に耐えられない。この狂った世界という恐怖に。


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