まめしばっ!
某企画投票で小早川か三好かの決戦投票の最中、予選中書いてポツリと残ったこの哀しさ。
2、3話の予定でしたが、ほんの少しイジって投げっぱなしにしました。
この状況は何と言ったらいいかしら?転生?不思議と記憶があるのよねぇ……。
どこかで聞いた話。どこかで知った知識。それらを統合すると時代を遡ってしまったみたい。
生活は不便よ?汚いし、寒いし、貧しいし。なんといったらいいかしら。安っぽい少女マンガの薄幸系ヒロインの生い立ちみたいな生活。ま、文句を言ったってどこもそんなに変わらないもんね。
だからそこは百歩譲っていいとするわ。
何でアタシ、男?
それもね?こう呼ばれるの―――柴田権六って。
記憶があいまいだけどアレよね?柴田権六って、戦国時代の柴田勝家……。
いやぁああああああああああああああああああっっ!ヒゲ面の筋肉達磨になるのはイヤッ!!
だけど、サプリも化粧品もない……ここは戦国時代。それでも美しくあるにはどうすべきか―――日々努力あるのみ!
過食……は、まあ、現代じゃないしね……むしろ食べる時にきっちり食べないと死んじゃう。甘い物を食べたいと悪魔が囁いても、金平糖が金と同じ価値の時代にどうしろと言うのよ。
夜更かし……うん、灯りが無いから無理。
紫外線は、日常だけ傘を使って何とか軽減。でも、結局農作業や出陣時などは流石に差して行けないからあまり意味が無いのよね……。
あとは、蒸した布を当てて、蒸気で肌の手入れをした後、ハッカなどから作った油で手入れをしたり、海藻を何とか手に入れて積極的に食べるように……ぐらいかしら?でも、姉2人、妹1人の女所帯だから、お互い美容法を話し合ったりと環境はまあ悪くないわ。
……権六って女所帯で育ったのに、後の世に残った印象はヒゲオヤジって奇跡よね。
そんな感傷はともかく、ここは戦国時代。ただ美容にだけかまけている訳にはいかない。まあ、毎日がサバイブというか毎日がエブリデイというか、結構体力勝負。幸いなのか、背があって気をつけないと筋肉が付き過ぎてしまう体質だったから、効率を考えて鍛え上げて、
何と言う事でしょう。史実ヒゲオヤジは見事ちょっと軽薄そうなオネェに進化していたわ。なんか、根本的に間違っている気がするけど、頑張った方よこれでも。
後はお金。柴田家は所謂土豪と呼ばれる家だから、あまり裕福では無いわ。傘を買うだけでも一苦労。学を修めて、小競り合いを制して、なんとかって感じ。お陰で槍と人の使い方が巧くなった気がするわ。
それなのに……織田家から声がかかった理由が「美容の秘術を奥方が所望」ってどういう事なのよ?いや別に太陽の下で殺し合いをするより幾分かマシなんだけど、何か損した気分。血で洗ったら若さを保てるのかしら?
さて、それからしばらくして、奥方、土田御前の息子、勘十郎さまの教育を預る事に。あまりの歴史の修正力にため息が出るわ。
「いいですか。若。何度も言いますが、理解できない事に興味を持ちなさい」
「……もう十分身に染みて理解している」
それでも史実の悲劇を起こさないように、何度も何度も根気よく勘十郎さまの野心を挫いていた。この方は確か得体の知れない兄、信長に反発して殺されちゃうのよね……少しは頭を柔らかくしてあげないと。
ところで、身に染みて理解しているというのは、アタシの事じゃ無いわよね?兄の事よね?引き合わされた頃からアタシ相手だとずっと顔が引きつっているけど、そこんとこ重要よ?
「兄と言い権六といい、何で私の周りの人間はこんなにも変な奴が多いんだ……」
「失礼しちゃうわね。私のどこが変よ?」
「私に諫言しながらも、膝の上に私の妹を乗せて髪の毛をイジっているその辺りが、だ」
おっと、手痛い反論。私の膝の上でニコニコしていたお市ちゃんがくるりと顔だけ振り返る。
しかし、織田家って美形揃いよね……お市ちゃんも、お犬ちゃんも素材が良過ぎて凄くイジりがいがあるんだもん。お市ちゃん。髪の毛サラッサラだけどシャンプーは何使ってるのかしら……?
「それで勇名轟かすのだから、本当に性質が悪い」
「たまたまよ。若は遊び心が無さ過ぎ」
苦労は認めるけどそれじゃ生き延びても禿げるわよ。
「まだ未練があります?」
「家督か……昔ほどではないが、どうしてもな。抹香を投げた兄上の姿がどうしても不安にさせる」
「そりゃそうでしょう。今の弾正忠さまは一人ですべてを背負っているもの。私から見ても危ういわ。でも、だからこそ、その支えになろうとは思わないかしら?」
「思わない、事は無い」
「理解できない物を見なかった事で済ます者に、偉大な父君の跡など継げるわけないわ。私はそういう意味では、自分の背負った物を理解し、たった一人でも進もうとする弾正忠さまを評価するわ。それを考えたら、その偉大な父君が亡くなった時に抑えきれなかった憤りぐらい可愛いものよ。アタシから言わせれば、まだ若造だもの」
「成程……な。相変わらず踏み込んだ事を言う」
本当よね……何故かそこを買われたみたいだけど。
勘十郎さまはふぅ、とため息をつくと、懐から書状を取り出した。
「では、この清州の大和守(織田信友)の話には乗らぬ方がいいな?」
「家督の後見の申し出?そんなもん、破滅のもとよ。米のとぎ汁で顔洗ってから出直してこいって感じね」
「米のとぎ汁……そこまで言うか」
「普段の奇行を見て与し易しと思っているようだけど―――信長には勝てないわ。たとえ1回、2回小競り合いで勝った所で一撃でひっくり返してくるわよ。割に合ないわ」
桶狭間とかまさにそれだしね。独善だから決断した時の狙い方がえげつない。
っと。お市ちゃん、髪を梳かし終わったわよ。そろそろお話も終わりね。
「母君が怖いようなら、アタシに言いなさい」
「この話に俺が乗ったら?」
「サヨナラよ」
薄情じゃないかって?
お馬鹿。本当に薄情ならば黙って出ていくわよ。
いい女っていうのはね、そういう物なのよ。
☆ ☆ ☆
1562年。織田信長、勘十郎信行が電撃和解。
以降、覇道を行く兄とそれを必死に支える弟は路を別つ事無く共に天下へと駆けあがる。
その2家に無くてはならない重臣らを人は評する。
米五郎左、木綿藤吉、そして豆柴田。
兄弟を結びつけ、勘十郎家の軍師として名を馳せた男女は今もまだ勝利と美容の神として各地の神社に崇められているという。
またオネェかよ、と……。
すごく書きやすいんだ……オネェっておっそろしいほどコミュニケーション能力高いし。