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プリン・荒モード!  作者: 都月 奏楽
一章『凸凹コンビ結成前哨編』
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7話 『同極のマグネット』

 スパイシア二体に挟み撃ちを受け、絶体絶命のピンチに陥ったカスタイド・プリンセス。しかし、突如現れた謎の仮面男、マスクド・シャイニングによって危機は逃れられた。本来なら、礼の一言を言ってもいい筈なのだが、戦闘が終わり部屋に戻っていた深優姫はあまりいい思いはしてなかった。寧ろ、機嫌を悪くしていてベッドで不貞腐れて横になっていた。


「ミユキ、さっきからどうしたのさ。あの仮面男が気になるのかい?」


「ンなワケないでしょ!! 全く、アイツの姿を見るだけでもイライラしてくるってのに……!」


「初対面で、何より君のピンチを救ったんじゃないか。普通は印象良い筈だと思うんだけれど?」


「違う! アイツ、ハナから私を助ける気なんて無かった。それならまだしも私を見下していた! 気に入らないったらありゃしないよ!」


「君の思い込みだろ。顔が隠れてたってのに分かるワケないじゃないか」


 もういい知らない!! 深優姫は使い魔二匹の正論に聞く耳も持たずに外へ放り投げると布団に包まって電気を消して寝支度を済ませた。


「ミユキ、別に部屋から追い出してもいいけど、漫画を貸してくれないかい? 僕が見ている漫画の6巻だけでも」

「あ、じゃあ僕も携帯ゲームだけでも――」


 うるさい!! 深優姫は扉越しから怒鳴り声を上げて、キッチリと施錠してから再び布団の中に潜り込んで、真っ暗闇の中でさっきの戦いを思い返した。結局、浮かび上がってくるのは、振り返って此方を直立不動で見ていたマスクド・シャイニングの隠していた顔だけなのである。

 やっぱりムカつく!! 彼女の思い込みもそうなのだが、何よりこれまでトントン拍子で勝ち星を挙げていた深優姫がまさか二体に追い込まれて、助けられて借りを作ってしまったというのが屈辱なのである。

 夕飯が出来て母に呼び出されても、食欲旺盛であった筈の深優姫は体調の悪いフリをして、風呂にも入らずに不貞寝を続けたのであった。



「深優姫ちゃん、聞いた?」


 午前の休み時間の教室にて、早弁をしていると蜜希に唐突に話しかけられた。何? と彼女は箸を止める事無く白飯を口に放り込んでいく。


「カスタイド・プリンセスに続く、謎の仮面ヒーローの事よ」


 深優姫の箸を動かしている手が止まった。杏子達は曖昧にしか言っていなかったが、彼女は確信していた。間違いなく、昨日のマスクド・シャイニングの事に違いないと。その名前だけでも腹が立つのだが、平常心を保とうと再び箸を動かして、おかずのミートボールを頬張った。


「仮面ヒーロー? ライダーなのに車とかいう意味不明なヒーローじゃなくって?」


「カスタイド・プリンセスに続くって言ってんでしょーが、現実世界の存在よ。真黒なスーツに金色の角のヒーロー。噂によると、凄いキックで敵を潰したんだとか」


 こういう噂が流れるのは早いものなぁ、と思いつつ深優姫は知らないフリと興味無いフリをしつつ、弁当を平らげた。流石の蜜希もこの彼女の姿には苦笑を浮かべる他無かったらしい。


「まぁ、二人もヒーローが居れば、怪物の天下の終わりも秒読み待った無しって事なのかしらね?」

「そうだね~、早くそんな日が来るといいのにな~」


 あんなの居なくたって、私が! と深優姫は完全にマスクド・シャイニングの事を敵意剥き出しにして邪険にしながら、これからのスパイシア討伐に意気込むのであった。

 そう思った瞬間、スパイシアの反応が出た。やってきました、とばかりに深優姫は机に居れてあった筆箱と財布を入れた鞄を肩に提げて教室を出ようとした。


「深優姫、何処に行くの!?」


「今日はフケるって言っといて!」


「まだ二時限目しか受けてないよ~?」


 彼女が廊下を走って校舎を抜け出そうとすると、同じく授業開始間際だというのに、教室から抜け出している陽輔とぶつかりそうになったが、深優姫が寸での所で急ブレーキを掛けた為に接触事故は起こらなかった。目を丸くした彼は思わず立ち止まって見つめた。


「……あ、えっと、隣のクラスのきぬ、がさ、だっけ? 授業始まるのに何で飛び出してんだ?」


「早退だよ早退! そーいう春日君こそ何処行くっていうのよ?」


「俺は――、えーっと……、あー、そう! 俺も早退なんだよ! 奇遇だなー! ハハハ!」


 嘘吐くのが下手だよ、春日君。深優姫はバレバレな嘘を目を泳がせながら吐く陽輔を見て思わず呆れてしまう。彼も同じ様に何か授業を抜け出さなきゃならない事でもあったのだろうか。彼女は考えてみたが、再び振動するタブレットに気付き、モタモタしている場合じゃないと思い深優姫は改めて陽輔を横切って廊下を全力疾走する。校門を抜けたらもうこっちの物なのである。タブレットを取り出してマーカーを覗き込んだ。


「ミユキ、家に学校の電話が来たらどう言い訳するんだい? アニメでは普通に早退してもお咎めなしだったけど、この世界じゃ通用しないんじゃあ?」


「何でアンタがそんな事知ってんの! お母さんも今日はパートのシフトだしお父さんも仕事中だから家には誰も居ないから大丈夫だよ! それに、怒られる位ならアイツにギャフンと言わせてやる方がマシっつーの!」


「全く、君って奴は一旦熱くなると直ぐコレだ。僕達は知らないからね」


 ヴァニラに呆れられながらも彼女は制服姿のまま全力疾走で駆ける。仮にも早退した筈の彼女は体調を悪くした様子でも無ければ仮病を演じている訳でも無い。授業の時間中に校外を走る事は悪い意味で目立つだろうが、彼女は一番槍を取ろうと必死だった為、その事まで考慮していなかった。


「……よし、ここなら誰も居ないね。ラメイル!」


 彼女は誰も居ない物陰に隠れて魔法少女カスタイド・プリンセスへと変身。ステッキ片手に走り出す。そして目的地へと近づくと、例の取り逃がしたスパイシアであった。これは好都合、と魔法少女は口元を吊り上げ笑うと、問答無用でライフルに変形させてトリガーを引いた。

 すると、スパイシアは持っていた鞭を前方に拘束回転させて、魔法製の弾丸を撃ち落したのであった。これにはカスタイド・プリンセスも驚きであった。


「ヒゲのモビルスーツみたいな事してくれるじゃない!」


「ミユキ、遠距離攻撃はダメージが通らないから接近戦に持ち込むんだ。……今度は落とさない様に、ね」


 一々嫌味を言うな! 彼女はライフルからシザースに変形させ、二つの刃で突進を仕掛ける。撓る棘付きの鞭を刃で弾き返し、懐の所まで入り込み一閃。もう一発、と思いきやさっきまで三メートルまで伸びていた鞭が一気に収縮。剣状に形を変えると、そのまま刃と刃が擦れて躱された。


「ミユキ、武器の形状を変えたよ。気を付け――」


「変えたからって、何だってんのよ!」


 彼女はシザースからハンマーに変更。重さと硬さを兼ね備えた鈍い攻撃で、スパイシアの身体を撃ち抜く。負けじと剣の突きを入れようとするが、カスタイド・プリンセスは先端の面で防ぐと、そのまま手首を下から打ち上げて武器をすっぽ抜かした。昨日のお返しとばかりに、深優姫はハンマーで何度も叩き付けて吹き飛ばしては壁にぶち当て、吹き飛ばしては壁にぶち当てを繰り返していく。


「さぁ、これで、終わりッ!!」


 ステッキに戻すと、そのまま弱ったスパイシア目掛けて大型の魔法の光線で木端微塵に粉砕。前回の失態を挽回する戦いで幕を閉じた。

 遅れてマスクド・シャイニングがスパイシアの居た現場に到着するが、もうカスタイド・プリンセスが倒してしまっていたので、彼女は鼻で笑って挑発した。


「あーら、一足遅かったんじゃない? アンタがノロノロしている間に、倒しちゃったんだけど?」


 彼女の言葉を聞いたマスクド・シャイニングは周囲をじっくりと見渡し、確認し終えると突如彼女に近付き胸倉を掴んで睨み付けて来たのだ。


「……てめぇ、自分が何をやったのか分かっているのか? 見ろよ、てめぇが暴れ回った所為で辺りは滅茶滅茶だ」


 彼女は今更になって気付く。スパイシアを吹き飛ばしている時に、建物や建設物に大きな損傷が多数出来てしまっていた事に。しかし、カスタイド・プリンセスは気安く掴んできたマスクド・シャイニングに対して機嫌が悪そうに彼の手首を掴んで捻り上げて引き離した。


「戦いを遊びでやってんじゃねぇぞ。俺はお前みたいな名前と上っ面だけの英雄(ヒーロー)なんぞ認めねぇ。何が魔法少女だ。スパイシアを倒すのは俺だけで十分だ」


「ふん、アンタなんぞに認められなくったってケッコーだよ。私もアンタは気に入らない。アンタなんか必要無い。邪魔するならアンタも倒してやる」


 両者が至近距離で睨み合っっていると、突如ホイッスルを吹く音が聞こえてきた。さっきの騒ぎを聞きつけ、駆けつけてきた警察官が此方に向かって来ているのだ。

 今此処で捕まると厄介だと、お互いゆっくりと後退しながら距離を離していくと、そのまま正反対の方角へと逃げていったのであった。

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