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プリン・荒モード!  作者: 都月 奏楽
一章『凸凹コンビ結成前哨編』
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5話 『慢心せずして何が魔法少女か』

「……何? とうとう三人目がやられたというのか?」


「左様。魔法少女を名乗る女子が、拙者達と似た様な技を使って圧倒していたでござる」


「ふぅん、それってアタイらスパイシアと同類って事かい?」


「否定。元は人間であって、使い魔の力を以て魔法という異能力を使っていたと断言する」


 アンノウンの登場で楽しい展開になりそうだな。漆黒のマントを身に纏いながら、偉そうに座っていた四人を横切ろうとしていた。

 ネロ様!! さっきまでの態度から一変して、一同が阿吽の呼吸で立ち上がり、一礼を送った。そして上座に座ったネロと言う男は、頬杖を突きながら一人が持っていた写真を寄越せ、とばかりに人差し指を動かした。


「魔法少女『カスタイド・プリンセス』か……。丁度良い。僕も無抵抗で弱い人間を襲うのも退屈していた所だった。君達、彼女を丁重に持て成せ。そして人類にそこはかと無い絶望を送ってやろうではないか」


 グラウンドで生徒に取り囲まれていた所を撮った魔法少女の写真を見ていたネロの前に、跪いて前傾した。フッと笑い指を鳴らすと、さっきの写真が手に接触せずとも紙飛行機に折られ、そのまま近くに飾られていた燭台へと滑空。炎に突っ込み、勢いよく燃えて黒炭になったのであった。



 魔法少女が学校でスパイシアを倒した事により、噂が確立した物となった。ある所ではカスタイド・プリンセスのグッズを勝手に作って売ったり、ある所ではカスタイド・プリンセスのファンクラブを設立したりと、局地的ながら一種の流行となっていた。

 実の正体である衣笠深優姫はこの現象に少し気恥ずかしく思うも、自分が魔法少女である事を隠し通す事に徹していた。


「凄い人気だよねぇ、カスタイド・プリンセス。ホントに可愛いのにカッコよかったよ~」


「深優姫も人助けなんかしてないで大人しく逃げとけばその勇姿が見れたっていうのに。勿体無い」


 そう言えば私ってそんな事言ってたっけ。深優姫は誤魔化す為とはいえ、無理矢理過ぎる嘘を言った事を思い出して思わず恥ずかしく感じてしまった事もあったが、その場を取り繕わなければならないという事もあって苦笑いでその場を凌ぐ事しか出来なかった。


「そんな事より、今日の日替わり定食何かな~」


「アンタはその食い気をどうにかした方がいいわ……」


「でも、大食いじゃない深優姫ちゃんは深優姫ちゃんじゃないよ?」


 そりゃそうだけど。杏子が蜜希の言葉に納得し兼ねているが、深優姫本人は気にしていない。人よりちょっと多く食べている自覚はあるが、止める気は無いのである。

 他愛ない会話に華を咲かせながら廊下を歩いていると、曲がり角付近で、深優姫は誰かに鉢合わせして衝突しそうになった寸での所で一歩退いて回避した。彼女が吃驚したと同じ様に、向こう側に居た男子生徒も驚いていた。


「あ、わ、悪い」


「あ、ううん、こっちこそ」


 杏子が思わず唖然とした。その男子生徒が彼女の片想い中の春日陽輔であったからだ。深優姫は遠くからずっと(杏子の巻き添えで)見ていたので、改めて近くで見てイケメンだと感じた。目は切れ長であるが目つきが悪いと言う訳では無く、鼻筋も通っていて凛としている。身長は一七〇代半ばで制服越しでも分かる引き締まった身体。若干脱色させた茶髪に今時の男子高生らしい髪型が、爽やかでサッカー美少年を引き立たせていた。確かに杏子が夢中になるのも分かる、と深優姫は冷静に陽輔のルックスを分析していた。

 男子は理由も無く黙ったまま彼女の顔をマジマジと見ていたので、彼女は少し訝しそうに見つめ返した。


「……え、何?」


「い、いや、何でもない。おい、行こうぜ」


 陽輔が連れていた友人と共に擦れ違っていく。何だったんだ、と深優姫は彼の背中を振り返りながら見ていると杏子が腑に落ちていない顔をしながら飛び掛かって来た。


「みぃーゆきぃー!! 春日君に何色目使ってたのよー!!」


「違うって!! 向こうが睨みつけて来たから――」


「あー、もしかして春日君って深優姫ちゃんの事が好きになっちゃったのかも~。きっと一目惚れだねぇ~!」


「何ぃ!? そんな事、許せるッ!! じゃない、許さないからね~!!」


 だから違うってぇ~! 嫉妬に駆られた杏子のチョークスリーパーが深優姫を襲った。キッチリと頸動脈を絞めている腕を何回も叩いてギブアップを示したが、彼女は無視をして絞め続ける。それを他人事みたいに蜜希は笑って見ているだけであった。



「杏子ったら本気で絞め付けちゃってさ。マジで落ちたらどうすんのよ全く……」


 絞められていた首を抑えながら下校する深優姫。陽輔の事など興味無かった事は知っていたので、半分冗談だったであろうが、苦しかった事に変わりは無かったので思わず愚痴を零した。


「にしても大人気だね、魔法少女さん」


「いい迷惑だわ。……まぁ、悪くないけどね」


「それがツンデレって奴かい?」


「全然違う」


 ひょっこりと鞄から顔を現してからかい始めるヴァニラとラメイル。この二匹はお互いに気怠そうで腹立たしい雰囲気を醸し出しているが、微妙に性格が違っていた。基本的に合理的主義で無駄な消費を抑えようとしているのがラメイル。兎に角面白い事に顔を突っ込みたがるのがヴァニラ。ある意味正反対であるが、どうしてタッグを組んでいるのかが不思議な所である。


「アンタらって、仲良いの?」


 いいや其処までは。二匹が声を揃えて返した。やっぱり、とは思ったが別に険悪という感じもしなかったので、特別仲が良いと言う訳では無さそうであった。


「使い魔は基本ツーペアで行動するんだ。変身担当と武器変更担当とね」


「それで僕達はそのペア組の時にお互いはみ出たから組んでみたって感じだったね」


 何か凄い生々しい裏側。深優姫は二匹の淡々とした事情に思わず苦笑いを浮かべる他無かった。


「え、じゃあ他にも使い魔は居るし魔法少女が居るって事?」


「まぁ、そうなるね。僕達のグループが日本国を任せられているんだ。……けどこの前言った通りで皆そこまで乗り気じゃないから新しい魔法少女は当分先送りじゃないのかな」


 思い出した。コイツら、人類の危機だっていう場面でも週休五日制でノー休日出勤とかヌかしてやがってた。深優姫は一昨日の会話を思い返して、思わず腹立たしく感じていた。私が居なかったら日本終わってたね、と改めて恐怖していた。


「日本が不憫で仕方ないよ。こんなヤツらに任せられてたんじゃあ」


「そんな言い方無いと思うんだけれど」


「自分の胸に手を当ててもっかい言え!」


 深優姫と使い魔達が口論を繰り広げていると、何やら人が何かに注目して集まっていた。何だろうと、彼女が人混みの間をすり抜けて、その何かを探ってみた。其処には、デカデカとしたレイアウトで『募集中!!』と人を募集しているポスターであった。


「『椅子に座って質問するだけで一万円貰えます!! 拘束時間はほんの十分!! 年齢性別職業問いません!! 詳しい内容はこの近くのビルの二階にて!!』……うわぁ、胡散臭い。こんな怪しい所に行く人なんて居るワケ無いよ。どうせ頬に傷が入った怖い人達に取り囲まれるのがオチだし」


「ミユキ、丁度いいじゃないか。ちゃちゃっと行って、一万円貰って、そのヤクザとかいう軍団を倒して何かマジカル・アームズをアンロックしちゃってよ」


「絶対するかッ!!」


 ヴァニラの淡々とした物言いに腹立たしそうに苛立つ深優姫。確かにアームズを解除するのは名案であったが、コイツら使い魔の金となるのが癪だったので辞めておく事にした。人混みを抜けてさっさと家に帰ろうとした瞬間、タブレットが振動し始めた。連戦続きってワケね、と若干うんざりとしていたがタブレットを起動させてポインターを確認した。


「丁度近くに居るね」


「ドケチな魔法少女の所為で地道に稼ぐしか無いって事だね」


 しまいにゃ殴るよ! 深優姫はラメイルの嫌味に青筋を立てて憤っていたが、こんな奴に構っている暇は無い、と自分に言い聞かせて、急いでスパイシアの方へと向かっていった。


「……よし、誰も居ないね。――変身!!」


 人気の居ない所で先に魔法少女へと変身した深優姫は、直ぐに人が襲われている現場へと駆けつけた。

 見つけた。彼女が見つけたのはフェンスで囲まれたバスケット場で人間に襲いかかるスパイシアの姿が。先手必勝とばかりに彼女はマジカル・シザースの二つ刃で斬り付ける。怯んだ隙に深優姫は襲われていた人間の元へ駆けつけて保護した。


「か、カスタイド・ プリンセス! 来てくれたんだ!」


 人間達を逃がした所で、敵と対峙する。見た所、蟷螂だろうか。両手の甲鋭く鈍く光る鎌の様な形状が生えており、顔も逆三角形を模した様な形である。カスタイド・プリンセスを見かけた瞬間、両方の刀を構え、ノーインターバルで突撃してきた。深優姫はそれをシザースの刃で立ち向かった。刃と刃がぶつかり合い、火花を散らし金属音を打ち鳴らす。

 コイツ、今までの奴等と段違いだ。最初の剣戟で彼女は確信した。コイツは多くの人間を襲ったランクの高いスパイシアだと。昨日の間抜けなカメレオンとは違い、動きに隙も少なく攻撃が重たい。縦に並べて放った斬撃に対し、深優姫はバツ印に交差させて受け止めて鍔迫り合いの状態へと移った。


「ミユキ、コイツは近距離の攻撃しか出来ない。接近戦に持ち込む必要は無いから遠距離に対応した武器に変えるよ」


「ちょっ、こんな時だってのに勝手に変えないでよ!」


 斬るか斬られるかの緊迫した場面で、ヴァニラは気の抜ける調子で呑気に深優姫の肩に乗ってスマートフォンのページをスライドさせていた。邪魔をするなとばかりに、彼女は勢いよく弾き返し、スパイシアの胴をがら空きにさせるとそのまま前蹴りを一発入れて距離を取った。

 二つ刃を重ねて元に戻してからボタンを押すと、鋏から変化し、彼女の膝から頭まで程の銃身を持った火器が生まれて来たのである。しかし、その大きさに反して発泡スチロールの張りぼてかと思う程、軽いのである。彼女が銃を構えて撃つと、薬莢も弾丸も発しない代わりに、謎の光の粒子が火花と共に発射され、スパイシアを撃ち抜いたのである。


「『マジカル・ライフル』。弾を込めなくても魔法で生成した物を代わりに発射させる銃だよ」


「へぇ、案外いいじゃんコレ。気に入ったわ。一個当たりだったヤツがこれ程までとはね」


 彼女は引き金に指を通し、ガンスピンをしながらスパイシアに接近。当然、襲い掛かってくるが、鎌を振り上げたと同時に回転を止め、瞬時に銃口を敵に合わせてトリガーを引く。魔法製の弾丸でハチの巣にされ、銃撃を受けた蟷螂は仰け反っていた。

 彼女はそれを追討ちを掛ける様に銃身で叩き付け、体勢を崩させた所で踵落としを脳天目掛けて一発。勢いよく地面に叩き付けた所で、深優姫が攻撃を止める事などまず有り得なかった。銃身で引っ掛け上げて顎を露出させると、そのまま魔法で強化させた脚力による爪先蹴りで宙に浮かせる。無防備になった敵に対し、トリガーを引き続けて連射する。宙に浮いたまま撃たれ続けて、陸に上がった魚の如くジタバタともがいていた。


「遠距離に対応した武器って言ったじゃないか」


「有効打になってたんだし、細かい事は言いっこ無しだよ」


 銃口から煙が上がり、乾いた音が鳴り始めた。もう弾切れになって、銃はただの硬い筒になり果ててしまったのだ。彼女は極めて余裕を持った様子で、マジカル・ステッキへ戻し狙いを定める。撃たれ続けて大ダメージを受けてしまっていたスパイシアは碌に立ち上がれずに居て、動かない的と化していた。


「今日も余裕で終わらせるよ!!」


 彼女がステッキに魔法を溜めて放とうとした瞬間、気の抜ける様な音と共に魔法は不発。何の冗談だ、と言わんばかりに彼女がステッキを振り回していると、スパイシアは最後の力を振り絞って立ちあがると、この戦闘区域を離脱してしまったのであった。


「魔法の使い過ぎだ。決定打までに至らない攻撃を無駄打ちし過ぎている」


「まぁ、いいか。多少は強くても私の勝ちに揺るぎは無いしね。今度見つけたら確実に仕留めるよ」


「……ミユキ、君はちょっと慢心していないかい? 確かに君の戦闘センスは凄いし、僕達が出会った中では一番だ。……けどそんな調子じゃあ、その内とんでもない竹箆返しを食らってしまうよ」


「ふん、何それ。人間に興味も持っていないアンタらに私の事で注意される筋合いなんて無いよ。黙って見ていればいいよ」


 ヴァニラの言葉に聞く耳も持たなかったカスタイド・プリンセスは、さっさと人達が集まる前に変身を解き、タブレットを制服のポケットに戻した。

 深優姫は此処の所、スパイシアに対して快勝続きで負け知らず。一部からは英雄と評され支持を得ていた。今まで、こんなに注目される事が無かった彼女は、一変した人々の目線に酔っていて、それに気づいていなかった。そんな彼女が自信を失ってしまうのも、時間の問題であった……。



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