3話 『課金の御利用は計画的に』
「全く、背に腹は代えられなかったとはいえサイテーの魔法少女デビューだったよ!!」
魔法少女カスタイド・プリンセスに変身する契約を果たした深優姫は、昨日のグダグダな経緯を思い返して苛立っている。一緒に対戦ゲームの相手をしていたラメイルが何故怒っているのか、と相も変らぬ無表情で執拗に問い質してくる事もあって、怒りのボルテージは鰻登りである。
「いや、君案外ノリノリだったじゃないか」
「アレはその場だけのテンションよ! 死にそうになってるのに落ち着いていられるワケないでしょ! あ゛ー……、中学生ならまだしも高校生にもなって魔法少女とかって、恥ずかし-!!」
「君に見せて貰った『心臓もぎ取れサクラちゃん』に高校生で変身するキャラが居たじゃないか」
「フィクションだから大丈夫なのよ!! 冷静になって見ればあのコスチュームは可愛いけど、私に似合ってるワケないでしょ~!!!」
思わず手元に有った大きい枕を抱え込んで蹲る深優姫。アニメやゲームの世界なら通用する格好でも、現実世界で客観的に見れば、『ド派手な衣装でコスプレしているイタイ奴』と認証されるのである。さっきのスパイシアの言っていた事に間違いは無いのである。
「そもそもアンタが教えてくれた名前の『カスタイド・プリンセス』って何よ!?」
「CUSTIDE、つまりCUSTom、Iron、DEadの頭文字から取ってカスタイドだよ。プリンセスはそのまんま、かな?」
「何そのロボットアニメの用語みたいな決め方!? どーせテキトーに思いついただけでしょ!!」
まあそんな事はさておき、とヴァニラは図星を突かれたのか、深優姫の質問の腰を折り、タブレットを見せる。ページには、頭に『マジカル』と付けた英単語の一覧があるだけであった。
「何それ?」
「これは『マジカルアームズ』、ラメイルが変身するアレね。それの追加要素でね。新しい武器や装備を使える様にアンロックする為のページだよ」
「わざわざそんな事しなくても……。あっ、この『マジカル・ブースター』ってのいいんじゃない!? 早速解除してみてよ!」
ハイハイ、とヴァニラが面倒そうにタップしてページの読み込みを待つ。どんな形とはいえ、空を飛ぶ事が出来るのは戦闘にも有利になるだろうし、何より魔法少女っぽいからだ。
読み込みが終わり、画面を覗き込むとヴァニラは納得した様な顔を浮かべて気の抜けた声を漏らした。
「あー、ダメだったよ。『マジカル・ブースター』は1000万ポイント必要だから今持ってるポイントじゃあ全然足りないや」
「破格過ぎ!! アンタ達、人を助ける使命とかある筈なのに助ける気あるの!?」
「いや、僕達の使い魔一派は気長にのんびり駆除するのがモットーだからね。『ダメ絶対、ブラック企業。ノー残業、ノー休日出勤、週休五日制』の優良企業だよ」
「ホワイト過ぎて倒産するわ!! ていうか、企業って何!?」
「まぁ、サボり過ぎたら流石に怒られるんだけどね。この前も半年位サボってた奴が給料半分引かれてたっけ」
「クビにしなさいよ! そんな奴!」
思いがけない真実に思わず声を荒げる深優姫。どうしてこんなに性根まで腐った奴等がこんな事をしているのかが理解出来た。ここまで危機感が無ければ、人間なんざどうでもいいとも思う筈だ。
それよりも腹立たしいのは、この適当に付けたか或いはボッタクリで付けたのか、のどちらかと思う程のポイントである。昨日今日と倒したスパイシア分の稼いだポイントでも全然足りない。
「ホンットに期待外れだよ!! アンタ達使い魔は!!」
「そう怒らないでよ、直ぐにでも解除出来る機能はあるからさ」
「それを先に言いなさいよ! で、どうすればいいの?」
「そうだね、100ポイントで1円のレートだから1000万ポイントだと10万円の計算になるね」
「欲しけりゃ課金しろってか!! 10万円ってどこぞのDLC商法でもそんな額付けないよ!!」
「まぁ、僕達の世界もデフレが進んでてね。此処の所、ずっと冬の時代だよ」
結局ぼったくられる事に変わりは無かった事に、怒りが最高潮に達した深優姫。それを見ているラメイルとヴァニラは、何で怒ってるの? と言わんばかりの無表情ながらに首を傾げていた。
何とか彼女の激しい怒りを鎮めようとヴァニラがページを移動していると、あるサムネイルに目を付けた。
「あ、ミユキ。ラッキーだったね、今なら『魔法少女スタートアップキャンペーン』実施中で1万ポイントでマジカルアームズ10連続ガチャが出来るよ」
「丸っきりソシャゲーじゃない。最初の特典で10連ガチャってのが詐欺っぽいし……。それにしても1000円で十個か……」
高校生にしては高くは無いが安くも無い千円と言う値段に深優姫は思わず揺らいだ。今の金欠の状態で夏目漱石の札が消えると言う事は、自分の首を絞めていると言う事である。しかも、キャンペーンは今日の日付が変わるまで。数分くらい打算して悩んだ挙句、彼女は思い切って財布から千円札を取り出してヴァニラに渡した。
「……まぁ、千円位なら先行投資してもいい、かな。次も敵が出てくるんだし」
「毎度。じゃあ早速回してみるよ」
ヴァニラが何の躊躇いも無く、タップしてガチャを回してみる。ガシャポンからカプセルが次々と放り出される演出から、『ITEM GET!!』と言う字幕が表記される。その中身を見て、ラメイルとヴァニラは、やっぱり、と言葉を漏らした。え、何が? 深優姫は二匹の言葉に不安を募らせた。
「……ミユキ。残念だけど、ガチャの中身は六個被って新しく解除できたのは四個だけだったよ。しかも当ったのも三個微妙なのしか――」
「どーせそんな事だと思ったよ!!! 私の漱石ちゃんが~!!! あァァァんまりだァァアァ!!!」
深優姫、うるさい!!! と母に一喝されて、ゴメン!! 理不尽に思いながらも彼女は反射的に謝ってしまった。
悲しむ暇など無く深優姫はベッドに潜り込み、朝まで眠った……。そして……、目を覚ましてから暫くして、千円札が無駄に消えてしまった事を思い出し……泣いた……。
 




