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プリン・荒モード!  作者: 都月 奏楽
一章『凸凹コンビ結成前哨編』
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1話 『大食い系魔法少女とせっかちマスコット』

日本の都心部『甘魅町』の中でも生徒数が多く、街の中でも一番有名とされている進学校『公立翠逸覇帝嗣慧(すいいつはていしえ)高等学校』の教室で数学の授業を頬杖を突きながら受けていた少女がつまらなさそうにノートに板書を写していた。

 彼女は衣笠(きぬがさ)深優姫(みゆき)。運動は中の下。勉強は中の上。ルックスも何処にでも居そうな程、平凡。コレと言って突出した部分が見当たらない至って普通の高校一年生。強いて特徴を絞り出すとすれば、誰にも大声で言えないオタク趣味にどっぷりとハマっている事だ。

 深優姫が退屈しのぎにペン回しをしていると、右斜め後ろの席の女子が背中を叩いて丁寧にコンパクトに折られた手紙が届いた。差出人は言わずもがな、自分の遠くの席に位置する小学校からの親友の小倉(おぐら)杏子(きょうこ)のモノに違いない。

 手紙をゆっくりと開けて、内容を確認する。『この授業終わったら、隣のクラスの春日君を見に行かない!?』と丸い文字面で大袈裟に書かれたしょうもない事であった。

 わざわざ今この時間に伝える事か。深優姫は手紙の空白部分に『私としては、その提案には反対である』と書いて返信したのであった。



「ねぇ~、お願いだってぇ一緒に行こうよ~」


「一人で行けばいいでしょ」


「そんな事言わないでよ~。アタシ一人だと変なヤツと思われるじゃん?」


 どれだけ付き合わせれば気が済むの? と深優姫は杏子の頼み事に素っ気なく拒否した。それもその筈、もう入学してかれこれ一ヶ月経つというのに土日祝日以外は毎日、授業が終わると決まって杏子は隣の教室に深優姫を連れて行くのである。トータルで最低でも五十回は教室の男子を覗き込んでいるだろう。彼女は何の意味も無い無駄な休み時間の使い方にいい加減うんざりしていた。


「ね、後で学校名物『翠逸シュークリーム』買ってあげるからさぁ」


「……しょーがないね」


 本当ならどうでもいい筈の餌付けであったが、深優姫は敢えて引っ掛からせて貰う事にした。

 決して、大好物のシュークリームにつられたワケではない、と自分に言い聞かせつつも深優姫は手を引かれつつ教室を後にしたのであった。


「ホラホラ、見て深優姫。春日君よ春日君」


「言われなくてもこれだけ毎日付き合わされればイヤでも覚えてるって」


 隣のクラスで男子生徒と連む少し脱色させた様な焦茶色の長髪と屈託の無い笑みを浮かべるのが、春日(かすが)陽輔(ようすけ)である。一年生でありながらエース候補として名が上がっている実力を持つサッカー部員である。少し勉強が苦手らしいが、爽やかで顔もイケメンの部類に入る。杏子に限らず、他の女子も春日陽輔を狙っていると噂されている。

 教室の引き戸前の廊下で立ち話をしているフリをしながら彼をじっくりと観察する事が杏子の目的なのである。


「春日君ねぇ、確かにイケメンだけどホントにモテてるの? 良く分かんない」


「アンタは二次元のアニメキャラにしか興味ないから分かんないかもしれないけど、カッコいいじゃない! サッカーも中学校時代は春日君一人で全国大会進出まで貢献したって程なのよ!」


 二次元ってナニソレイミワカンナイ! と深優姫はあからさまに動揺しつつ否定した。長い付き合いの杏子からすれば、隠しているのがバレバレとの事である。

 確かに、女子からすればスポーツ万能でルックスもイケメンな男子が魅力的なのは分かる事であるが、あまり恋愛について深く考えた事が無かったので実感が湧かないのが彼女の本音なのである。アニメキャラが好き過ぎて現実世界の異性に興味無いとかは有り得ないと思っているので杏子の言った事は間違いと言う事になる。飽く迄、ライク止まりでラブと言う感情にまで至らなかっただけなのである。


「休み時間も終わるし帰るよ」


「あ、待って! せめて最後の十秒くらい――」


 無我夢中で陽輔を見つめている杏子の嘆願も聞く耳持たず、深優姫は無慈悲にも置いてけぼりにしようと教室前を後にするのであった。



 昼休み。教室で生徒達は各自持参した弁当を広げて昼食を取っていた。深優姫は、杏子と、高校生から仲良くなったもう一人の友達の蜂須賀(はちすか)蜜希(みつき)と一緒に机を寄せてグループを作っていた。

 蜜希は凄くおっとりとしていて直ぐに悪い男に捕まりそうな程、危機感が無さそうだ、と、深優姫は第一印象を語る。しかし、彼女は小さい頃から空手を習っていて、しかも有段者だという実力の持ち主である。この前も、如何にもな男子高校生達に無理矢理ナンパされそうになった時に蜜希一人で全員をノして事無きを得たのである。

 杏子は楕円状で色鮮やかな桃色の弁当箱、蜜希は長方形に黄緑色の弁当箱。両者共に成長期の女子相応の量しか詰め込めない程の大きさである。中身の具もオムライスだったりチーズ焼きだったり、野菜中心に可愛く盛り付けられた物である。一方、深優姫の昼食はと言うと……。


「深優姫ちゃん、相変わらずよく食べるねぇ」


「え、そうかな? これでも腹八分目に抑えられてるんだけど」


「自覚無かったの!? ていうかそれで控え目のつもりなの!?」


 深優姫の弁当箱はと言うと、二人の大きさを遥かに凌ぐ重箱の三段重ね。一段目はテンコ盛りに握られた御握りの群。二段目は肉料理を中心とした茶色のコンストラクト。そして三段目は、全部焼きそばを詰め込まれた物であった。

 この、量も献立もあまりにも女子らしさには程遠い弁当を深優姫は何の疑問も感じる事無く食べる。ひたすら食べる。周りのクラスメイトも思わず見とれてしまう程の豪胆っぷりに思わず杏子が呆れ気味に溜息を吐く。


「深優姫……。アンタ、自分が周りに『プリンちゃん』って呼ばれてる理由が分かってるの?」


「え、何で? ていうか、言われてたの?」


「名前に姫がついてるのにその女の子らしくない感じからなのよ。(プリンセス)には程遠いから『プリン(セス)ちゃん』。つまり馬鹿にされてんのよ」


「まぁ、そんなに食べても太らないから羨ましがって言ってるのもあるのかもね~」


 そんなつまらない事に羨ましがっているのか。容姿にあまり自信が持てていなかった深優姫にとっては肥満体だろうが痩躯体だろうがどうでもいい事であったので、蜜希の言っている事にイマイチ理解出来ていなかった。寧ろ、我慢して身体を崩して一体全体何の得があるのか、と彼女は疑問を抱いていた。この今時の女子らしくない捻くれた考え方こそが、姫に程遠い理由を決定づけている事に気付いていない。


「ま、細かい話は置いといて。杏子、昼御飯終わったらシュークリーム忘れないでね」


「まだ食べる気でいるんだ……。その男よりも男らしいアンタが羨ましい限りだわ……」


「でもこういう裏表の無い深優姫ちゃんは私好きだな~」


 二人よりも速く食べ終わった深優姫は、自分に対する蔑称などそっちのけで、前の休み時間に約束したシュークリームを杏子にせがむのであった。



 放課後、杏子と蜜希と別れた深優姫は、家に直行する、と思いきや何となくそのまま家に帰りたくなかったので少しばかり寄り道してから帰る事に決めたのであった。

 まず最初に向かったのは、学校のある街の駅から四本程回った町の駅前近くのアニメ関連の店が集まる通りである。通称、『アニロード』と呼ばれる通りは今日もいつも通りに賑わっていたいたが、辺鄙な隣町にしては、程度であった。

 近所の駅前周辺にもアニメ関連の店があるのに、わざわざ学校からも自宅からも遠い辺鄙な場所にまで行くのには大きな理由が有る。そう、学校の連中に知られる訳にはいかないからである。

 ただでさえ、偏見があるとはいえオタク趣味は世間の目が冷たく良いイメージが無い。こんな事が知られてみたら、白い目で見られるに違いない。それは何より深優姫自身のプライドが許さないのだ。


「まぁ、今月ピンチだけだから見るだけなんだけどね」


 する事が無いのに、制服姿のままで少しむさ苦しい通りをひたすらにブラブラする。よくよく考えたらとても虚しく感じていた。また電車代無駄にしちゃった。何も考えずに移動するだけで消し飛んだ財布の中身を再認識して思わず溜息を吐く。

 何かスッキリしないなぁ。深優姫はこの心の奥から産み出た謎のモヤモヤ感に苛立っていた。自分が『プリンちゃん』という間抜けな渾名を付けられていた事、母親に怒られて弁当の量を減らされた事、変なグッズを買い占めすぎて小遣いが残り少ない事。色々と要因があるが、一番の原因は最近の奇妙な出来事の所為なのである。


「……ッ!」


 彼女の所有しているスマートフォンとは別のタブレットがポケットの中で振動し始める。――現れたんだ、ヤツらが。深優姫は液晶画面をタップして、マーカーの点いている座標を確認する。丁度、この町の近くであった。


「早速お仕事の時間だよ、ミユキ」


「急がなきゃ手遅れになっちゃうよ」


「分かってるよ!」


 彼女のバッグの中からひょっこりと姿を現す縫い包みの様な小動物二匹が急かし始める。鬱陶しいと思いつつも、彼女は目的地へと全力疾走するのであった。



 細い路地裏にて、人間の姿では無い形をした影が、悍ましい音を立てて人間を追い込んでいた。その頭部から生えた触覚の様な鋭い槍で心臓を一突きする。すると、突き刺された方はみるみる生気を失い、身体は忽ち透け通る様になり、透明人間が服が着た様に死んでいったのである。

 漆黒の身体に人間の骨格を持ったこの化け物こそが人々がクリーチャーと噂される『スパイシア』と呼ばれる人類の敵なのである。


「! 遅かった……!」


「クヨクヨ悩んでる暇は無いよ。さぁ、早く変身して戦ってよね」


「イチイチ一言多いのよ、アンタは!」


 小動物の一匹がスマートフォンの様な機械に姿を変える。深優姫はタブレットのページを切り替え、QRコードの様なマークを表示させる。機械をマークに通すと、二つのマシンが光に包まれ、宙に舞う。

 その大きな方の光球から、シャワーの様に光子が彼女に降り注ぎ、身体がまるで真っ白のキャンパスに様々な絵の具を混ぜ合わせた様なベールに包まれた。両手首を叩き、爪先を地面に蹴るとさっきまでの制服姿から、黄色と白を基調とし、リボンとフリルをこれでもかと意匠された衣服を身に纏い、髪もド派手な金色に染色する。

 そして小さな光球から、ハート型の先端を持ったステッキが創造され、少女は華麗にキャッチ。これにて変身は完了し、着地して確とスパイシアに標的を絞った。


「キサマ……、何者ダ? 随分痛々シイこすぷれヲシテイルガ」


「ほら、決め台詞。――早く!」


「……私は、この世の悪を駆逐する者! 魔法少女、『カスタイド・プリンセス』!!! 心を無くした貴方を殺しに参上したのよ!!」


 肩に捕まったもう一匹の小動物の指示の元、魔法少女と変身した深優姫は、渋々ながらメルヘンチックな姿に反して名乗りと穏やかでは無い宣戦布告を上げる。

 案の定、スパイシアは腹を抱えて笑い出す。向こうからしてみれば、変な格好をした人間と言う名の餌が聞くに堪えない台詞を吐いているからである。過呼吸を起こしてまで笑い続けている敵の姿を見て、いい気分だと感じなかったカスタイド・プリンセスは思わず眉間に皺を寄せ睨み付けた。


「ホザクナ! 中二病患ッタ人間風情ガ!」


 カミキリムシの様な姿をしたスパイシアが頭の針を突きつけながら突進を仕掛けて来た。深優姫は冷静にステッキをジャグリングさせ、武器へと変形させる。さっきまでのファンシーグッズの様な物から一変し、鉄をも粉砕しそうな程のスレッジハンマーを手に取り、攻撃を躱しつつ、カウンターで肋骨部分へと一撃をお見舞いする。胸部から火花を飛ばし、スパイシアは身体を丸くしながら後退りをする。それを追討ちを掛ける様に、魔法少女は鈍く重い攻撃で容赦無く叩き続ける。薙ぎ払う様に肝臓部分を叩き付けられ、スパイシアは吹き飛ばされてゴミの山へと情けなく倒れ込む。


「ナ、何ダ、コイツノ力……!? 俺ノ力ヲ以テシテ手モ足モ出ナイナンテ」


「そりゃあ君、スパイシアの中でも雑魚の中の雑魚だからね。魔法少女の前では当然の事だよ」


 魔法少女は、魔法によって身体能力を強靭な物へと進化させ不思議な能力を使いこなす。普通の人間なら蚊に刺される位の攻撃も、魔法少女の膂力にかかれば致命傷に至らせる程にまで威力があがるのである。

 クソッ! スパイシアは顎部分から謎の砲弾の弾幕を張る。しかし、魔法少女にとっては、たかが小雨程度の攻撃なのである。さっきの鈍器から大きな盾へと変身し、攻撃を弾き返した。最早、抵抗する手段を失った敵は思わずたじろいだ。


「よし、今なら命中率95%以上だ。必殺技だよ」


「言われなくたって!」


 盾から元のステッキへと戻し、深優姫は柄に両腕の力を込める。すると、ハート型の先端から純白の光が充填され、エネルギーが迸る。狙いをさっきまでの威勢が嘘の様に怯えて腰を引かしているスパイシアへと定める。悲鳴と共に背中を向けて逃げ出そうとしたが、時既に遅し。極太の光線によって全身を撃ち抜かれ、断末魔を上げながら木端微塵に消え果てたのであった。


「……はぁ、何かスッキリした」


「ゆっくりしている暇は無いよ。早く撤退して変身を解いてよ。僕はさっきの被弾が響いてるんだよ」


 最後の最後まで煩い奴! 深優姫はブーツの足元に力を込めて、ビルをも遥かに越す跳躍力で現場を後にしたのであった。

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