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プリン・荒モード!  作者: 都月 奏楽
三章『トゥ・リセット・ライフ編』
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15話 『ヒーローとヒーロー』

「いらっしゃいま……せ?」


 曜日は土曜日、時刻は十二時半。人々が昼食を取るであろう時間帯であって、近くのファミリーレストランの店内はスタッフが忙しなく行き交い客を捌いている。普段通りの営業スマイルで来客を持て成そうとしていたが、此方の姿を見て驚いて言葉を失っていたらしい。

 


「え、一体どうしたの? ――って、えぇ!?」


 アルバイトの女子の様子がおかしかったのを察知して正社員らしき人物がやってくる。結果としては、同じ様子で開いた口が塞がらないみたいである。


「あ、あの、何名? ……様で?」


 三名で。そう指で応えると、指定されたのは禁煙席の一番隅側。丁度壁際で窓も無い席だったので丁度良かった。カスタイド・プリンセスがシート座席に座ると、その向かい側にマスクド・シャイニングと白衣のスーツを着た色男が座った。

 お互い正体がバレるのは都合が悪いとの事。しかし、此れからの方針について面と向き合って話し合わなければならない。なら、昼食を奢らせて貰おうという魂胆で、深優姫ことカスタイド・プリンセスは変身した姿のままで、同じく変身したマスクド・シャイニングとそのスポンサー的存在の樫原民人とか言う博士とファミレスで落ち合う事を考えたのであった。


「ありがとうね。私の指名通りにしてくれて」


「まぁ、君にはマスクド・シャイニングを救ってくれた恩義があるからね。昼御飯位は持て成さないと」


「へー、いいの? 私って結構食べるらしいけど」


「らしいって何だよ?」


 和気藹々と雑談を繰り広げている中、深優姫はメニュー表を手に取りながらコードレスチャイムを押して鳴らした。数分も経たない内に店員が恐る恐る注文を伺いに来た。


「この和風ハンバーグのAセットが一つ、若鶏の唐揚げ御膳セットを一つ、トンカツ&海老フライセット一つ。あ、シーフードトマトソースのスパゲッティに、蟹ドリアが一つ。それと、国産牛のビーフカレー一つに、とろーりオムライス一つ。シーザーサラダ一つ、マルゲリータピザ一つ。後は――」


 思った以上の大量注文にウェイトレスが焦りながら伝票を打ち込む中、二人が彼女を見て茫然とする。これは全員分の注文では無い。彼女たった一人が食べる分なのである。セット、単品、デザート、サラダを含む凡そ二十品強を言い終えた所で、カスタイド・プリンセスは二人に何を頼むのか言伝を受けようと聞き出してきた。


「――僕は珈琲だけでいいかな」


「……オレは結構だ。もう昼食は済ませたからな」


 マスクド・シャイニングは仮面を親指で突っつきながら金属音を鳴らす。正体を明かすつもりは無いしマスクを外してまで食べるつもりは無いと言うつもりなのだろう。最近の男って食が細いよね、と深優姫は自身の大飯食らいと比較して、少々情けないと思っていた。



 テーブルに溢れんばかりの料理を魔法少女は食らい尽くす。四分の三程は既に皿を空にしているのである。コーヒーカップを啜っていた民人は驚きよりも、彼女に対して感心していた。


「魔法少女ってのは食べた分のエネルギーで魔法に変換出来るのかい?」


「まぁ強ち間違いじゃないみたい。お腹一杯になるとその分魔法の力が強まるからね」


「魔法少女とやら、現在の科学で証明できない分、実に興味深いな。どうかな? 今度解剖してもいいかな?」


「丁重にお断りする」


「おお、それはもしや神精樹の実を食べまくったあのサイヤ人の台詞かな?」


「え!? 樫原さん分かるぅー?」


「僕はドラゴ●ボールの劇場版全部見ているからねぇ。一番好きなのは最初のブ●リーが出る奴かな」


「あー、好きな人は好きだよねぇ。でも私は王子がめっちゃヘタレてるからあんまりかな。やっぱ私はジャネ●バが出る奴が一番好きだね。ベ●ットよりもゴ●ータ派だったし」


 カスタイド・プリンセスと民人が大人気国民アニメの話で盛り上がる。こんなアニメの話をするのは学校とかでは、衣笠深優姫の姿なら猶更出来なかったので、彼女は内心浮かれて口数を増やす。それを面白がる様に彼もまた熱を込める。二人を腕を組みながら傍から見ていたマスクド・シャイニングは呆れた様子で横槍を入れる。


「……いやいや、俺達はアニメの話をしに来たんじゃないだろ」


「其処まで性根が腐っていたとは……、消え失せろッ! 二度とその面を見せるな!」


「所詮、クズはクズなのだ……」


 民人と一緒にマスクド・シャイニングを作中の台詞を使って戯れる。すると、突然彼の手刀が机に打ち込まれる。忽ち机は真っ二つ。トン単位で放たれるスーツの威力はこんなモノである。瞬時に察知したカスタイド・プリンセスは、まだ食べきれていない料理を事前に持っていた為大事には至らなかったが、完食していた分の皿は落下して殆ど割れてしまった。


「ふざけてる場合じゃないって事、分かってんだろ?」


「調子こいてすいまえんでした」


「……いや、オレもちょっとやり過ぎた。スマン」


 騒ぎを聞きつけて現れる店員をそっちのけで淡々と話を進めようとする男。それがまた恐ろしさを醸し出していた。本気で怒っている様子に思わず二人は平謝りをした。途端に自分のやらかしてしまった事に

気付いて、マスクド・シャイニングもまた謝り返すのであった。


 民人が店長に小切手を渡して損害費用を弁償し終え、席を変えて話を改める。カスタイド・プリンセスは避難させた料理を食べながら、であるが。


「済みません樫原さん。俺が壊した分のお金出して貰って……」


「何、気にする事は無いよ。正直お金には困ってないからね、些末な事さ。それに僕も戯れが過ぎていた点もあるしね。……さて、本題に移ろうか」


 途端に真剣な面持ちに変わる民人。いよいよか、と言わんばかりにカスタイド・プリンセスはフォークの動きを止めて耳を傾ける。


「我々がスパイシアと戦っているのは知っての通りだろう。しかし、今回の強敵の更に強いスパイシアの出現で撃破に支障を来す可能性がある。それをどう対処するかについて話し合おう」


「単純な話、ソイツ等よりも強くなればいいんじゃない?」


「尤もな意見だ。けれど、チンタラやってる場合じゃないってのは分かってるよね?」


「まぁ、アンタ達は難しい話だけれど、私は別にそうってワケじゃないの」


 そう言って、カスタイド・プリンセスは二匹の使い魔をテーブルに置いて、見せつけてみる。しかし、二人は何をしているんだ? と言わんばかりに凝視しているだけであった。彼女は理解した。コイツらの姿が見えていないんだ、と。


「アンタ達、一般人に姿を見せるって事出来るの?」


「魔法の素質が無い一般人は僕達を触れさせればいいんだよ」


 それを早く言えっつうの。カスタイド・プリンセスは思わず愚痴を零しながら二匹の首根っこを掴むと、二人に掌を差し出す様に指示する。言われるがままに出された両手に、一匹ずつ乗せていく。

 ようやく存在を認知したのか、掌に乗っているラメイルとヴァニラを見て驚いていた。


「うおっ!? 何だこのイタチ!?」

「失礼だねぇ、イタチじゃないよ」


「見た事の無い動物だ。ハムスターの様で猫の様な……」

「言っとくけど僕達はそういう種類に分類される様なモノじゃないよ」


「コイツ等の力を借りて私は魔法少女に変身しているの。……かーなーりムカつく奴等だけどね」


 あんまりな言い分じゃないか。二匹が彼女の元に戻っていきながら抗議する。しかし、嫌悪感が生じるのは仕方の無い事だと思って、深優姫はあんまり罪悪感を感じさせない程に憎たらしい事と痛覚が無い(らしい)事を理由に適度に痛めつけているのである。


「コイツがラメイル。主に武器に変化するの」


 そう言って、ラメイルを掴み、軽く宙に浮かせると、動物らしき姿から、彼女のいつも持っているステッキに変わった。種も仕掛けも無い魔法に、二人は関心していた。


「生命体が瞬時に無機物になるとは。化学を超越した現象。凄い、凄過ぎるぞ。もう科学で証明出来なくったって、別にいいと思える魔法。素晴らしいッ!!」


「そしてこっちはヴァニラ。主に武器を変更するの」


 彼女がヴァニラを掴み、前に翳すと、身体は消滅し、ホログラムが出現。適当に画面をタッチすると、ステッキは光に包まれ、魔法少女が好んで使っている巨大な鋏に変わった。


「改めて凄いな、魔法少女ってのは。単にチャラチャラ茶番を繰り広げているだけではない様だ」


「ま、私の場合は特殊だね。こんな殺伐としてるの、正直魔法少女って言いたくないよ」


 酷い言い様だねミユ――。二匹の声が何処からともなく響く。言い終わらせる前にホログラムと武器とを両方掴むと、瞬時に生命体の姿に変わり、カスタイド・プリンセスは二匹を打ち付けて黙らせた。


「正体が秘匿だってのに今名前で呼ぶ奴が居るか馬鹿」


「何もそんなに怒る事無いじゃないか――」


 使い魔のの言葉を遮る様に彼女は何処からともなくタブレットを召喚する。そしてその表示された画像を二人に見せつけた。


「これは私が今後使える可能性のある武器の一覧。つまり、これらを駆使すれば私は簡単にパワーアップ出来るってワケ」


「凄い量だ。戦術の柔軟性もある。我々とは大違いだ」


「そんで、私は気になったんだけど、アンタのスーツって欠陥品だと思うのよ」


 カスタイド・プリンセスの何気ない一言に、二人は思わず睨んだ。しかし、彼女は怖じる事無く話を進める。


「それってさ、凄いキックを一発使ったら暫く使えないんでしょ? 確かに強い敵に対して一撃必殺は持って来いだけど、連戦や集団戦には向いてないと思うよ」


「……確かにそうだね。スパイシアを破壊するのはリミッター解除の攻撃一発しかないっていうのは問題点だ。じゃなければ君を呼びつけて話し合おうって事にはならないよ」


「それって、つまり――」


「君は逆に複数の敵を倒す事に向いている。だから、二人には本格的にタッグを組んでもらおうと思っているんだ」


 民人の言葉に、カスタイド・プリンセスは少し不服そうな顔で頬杖を突いた。


「それで私が露払いをやれって?」


「そんな事は無いよ。僕はただ、お互い本格的に協力すればスパイシア殲滅の効率が良いし、リスクも少ないと思ったまでだよ」


「僕は賛成だね。カスタイド・プリンセスとマスクド・シャイニングが協力し合えば、ポイントもガッポリ儲かるしね」


 お互いの協力者が話を進め始める。しかし、二人は思わず戸惑った。これまで散々いがみ合っていた関係なのに、協力なんて有り得ないと思っていたからだ。カスタイド・プリンセスとマスクド・シャイニングはお互い見つめ合うと、少し気まずそうにそっぽ向き合ったのであった。

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