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プリン・荒モード!  作者: 都月 奏楽
二章『仮面の下の憎悪編』
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14話 『連載当時のナッパ戦並の絶望感』

 思った以上にスーツの損傷率は軽く、ほんの半時間程度で完全修復し、消耗していたコロナストリームも満タンになった。あれだけ滅多打ちに攻撃を食らったのに装着主が軽傷で済んでいるのは、自分の開発した、コレが最高傑作だと言う事だろうか。しかし、民人は素直に喜べなかった。病室のベッドで横になっている陽輔を見ていると、猶更であった。

 マスクド・シャイニングの変身ギアの腕時間はもう回収されてから一時間経過する。丁度、ほぼ同時に少年は目蓋を開け、身体を起こし始めた。


「此処は?」


「研究所の病室だよ。……目が覚めて良かった」


 陽輔は民人の顔を見つめて少し硬直する。何故自分が此処に居るのかを考えているのだろう。合点が行くと、彼は慌ててシーツを払い除けてベッドから立ち上がろうとしていた。しかし、集中的に攻撃を食らった胸部を抑えて悶えだした。


「まだ無理はしない方がいい。軽傷とは言え、危うく骨折する所だったんだ。安静にした方がいい」


「でも!! 俺はまだ戦わなくっちゃあ!!」


「その事なんだけどね、君をスーツ装着者から外そうと思っている」


 こういう事はさっさとハッキリ言った方がマシだと踏んで、民人は陽輔に解雇予告を告げる。思わぬ言葉だったのか、驚いた表情を浮かべていた。


「何で俺が!?」


「君は僕の指示に従わなかった。それでも撃破していたなら大目に見るつもりだったんだけど、返り討ちに遭い、肝心のスーツを破損させた。他のスタッフも大方賛同しているし、妥当な判断だと思っているんだけど?」


「だれが俺の代わりにやるんです!?」


「実は君以外にコロナストリームの適応者を発見していた。その子が居るから心配は無用だよ」


 陽輔は唇を噛み締める。それはもう裂けて血が出る程強く。まだ納得がいっていない様であったので、民人は少し厳しい口調を強めて諌める。


「……陽輔君。君の事は色々と調べさせて貰ったよ。妹の愛海ちゃんがスパイシアに殺された事も、それに対して復讐しようと考えている事もね」


「――!!」


「しかし、ハッキリ言わせて貰う。スパイシアを殲滅するに当って、私情を挟んで支障を来す様じゃあ困る。例の魔法少女に対して、戦いを遊びでやるんじゃないと君が言ったが、復讐心に駆られて目先が見えていない君にそんな事を言う資格なんて無いと思うんだけどね」


 陽輔は俯く。我ながらキツい言葉を重ね続けたが、これも彼の為である。民人はそう自分に言い聞かせて、心を鬼に徹する。何より陽輔に対しては、スパイシアと戦うにはあまりにも荷が重過ぎるのである。最悪、命を落とす可能性は遥かに高い。


「さぁもう暫く休んでていいから、今日中には荷物を纏めて家に帰りなさい。僕は魔法少女がスパイシアの足止めしている間を使って新しい子にスーツの使い方を教えるから」


 民人は変身する為のバングルと腕時計を手に持ったまま、病室を後にする。廊下に出た所で、振り返って少年の様子を見ていたが、依然として俯いたままであった。これでいい、と民人は少し後悔しつつも無理矢理納得して扉を閉めた。


 研究員に二つの開発品を置いたトレーを渡そうとした瞬間、後をつけてきたのだろうか、陽輔が二人と擦れ違うと同時に変身する為のマシーンを奪取したであった。そして走ったままバングルを腕に装着すると、そのまま腕時計を装着し、マスクド・シャイニングに変身。装着したまま、研究所の廊下を駆け抜けていく。行き先からして、ヒートヘイズのあるガレージに向かうのだろう。


 民人は急いで控室に置いてあったヘッドセットマイクを耳に掛け、通信を開く。流石に看過出来ないので、一層口調を強めて言い聞かせ様と試みてみた。


「……陽輔君。一体どういうつもりだ。聞こえているだろう。此方に接続しなさい」


『――樫原さん。……すみません。俺、自分が矛盾しているって事は分かっているんです。スパイシアを殲滅するのが妹の敵討ちの為なんて馬鹿にされるのは当たり前だと思っています』


「分かっているのなら今すぐ引き返して、ギアウォッチとトランスフォームバングルを返しなさい。……でなければ、僕は、力づくでも、君を……」


『けど、俺、やっぱりスパイシアを許せないってのは変わらないから、俺は春日陽輔では無く、マスクド・シャイニングとして戦いたいんです。――お願いです。もし良かったら、俺に最後のチャンスを下さい』


 すぐにスーツの緊急停止を作動させるべきです!! 民人を追いかけた研究員は、手に持っていたリモコンを彼に託す。赤いボタン一つだけで、マスクド・シャイニングは忽ちスーツの機能が凍結し、装着主の身体が動かなくなってしまう。親指がボタンに触れる。力を込めるだけで、万事解決。しかし、彼は吹っ切れた表情を浮かべると、装置を投げ捨て破壊した。

 突然の行為に戸惑っている研究員達を尻目に、民人はタブレットを手に取りながら苦笑を浮かべた。


「全く、無理矢理奪っておいて最後のチャンスだとか良く言うよ。――分かったよ。これまでの君の失態や処分は全て不問にしよう。ただし、一つだけ条件が有る。……絶対に死ぬんじゃないよ。いいね?」


『有難うございます!! 俺、絶対勝ってみせます!!』


 マスクド・シャイニングはヒートヘイズに乗り、そのまま現場へと向かっていく。もう、溜息しか出ない。けれど、この選択は正しいと民人は信じていた。


「樫原博士! 良いんですか!?」


「スーツを緊急停止させたら、丸一日は復旧に時間が掛かる。それまでにスパイシアの被害が増えるのはナンセンスだと判断したまでだよ。……あぁ、呼び出しておいて悪いんだが、君専用のスーツはもう少し時間が掛かりそうだ。もう暫く待って貰っていいかい? 本当に済まないね」


 民人が申し訳なさそうに謝罪すると、控室で待機していたコロナストリーム適応者の、対異能生命体駆逐スーツ装着主の男はこの騒動の一部始終を目の当たりにして、微笑ましそうに笑っているだけであった。



 フルスロットルでヒートヘイズを疾走させる。音速を難なく超えるスピードを出すこのマシンによって、現場へ駆けつける時間を短縮出来るのは便利なものである。最近では警察もマスクド・シャイニングの活動を容認していて、多少の交通違反なら目を瞑ってくれている。黒いカードの御蔭なのかどうかは別にして。

 あっという間に、敗れたスパイシアとカスタイド・プリンセスの対峙している所へと到着。そのままヒートヘイズを蛸目掛けてアクセル全開で突進。そのまま吹き飛び、敵との距離を確保できた。


「マスクド・シャイニング! アンタ、もう大丈夫なワケ?」


「ああ。……待たせたな」


 彼は彼女が持っている盾を見る。随分とボロボロで、今までスパイシアの攻撃を防ぎ続けていたのだろう。負けてしまう事を覚悟の上で。


「……カスタイド・プリンセス。あまり言いたくはないが、オレはお前が思っている程人間出来ているワケでは無い。寧ろ、クソッタレでどうしようもないカスだ」


「復活してきた割には凄い卑屈な事言うんだね……」


「しかし、お前はこんなオレの言葉を真剣に考え、答えを見つけた。お前は強い。お前こそが英雄だ」


 マスクド・シャイニングはカスタイド・プリンセスを認める。最初こそ彼女は役に立たないと思っていた。しかし、決意を固め、芯の強さを持った彼女は自分よりも強い筈なのである。男が女に負けるという事が許さなかったのだが、それこそが自分の弱さなのだと気付いたのであった。弱い部分を向き合う事から逃げていたのであった。


「……キモッ。そんな仮面付けてるクセに急にマジな事言っちゃってさ。キモ過ぎだっつうカンジ」


「ブッ飛ばすぞテメェ」


「――何てのは冗談。マスクド・シャイニング。今までで一番カッコいいよ。そしてアンタはクズでもクソッタレでも無いからね。アンタはアンタなりに何かを背負い込んで戦っている事、そしてその背負ってるモノと戦っている事、私はよーく知ってるよ」


 少し照れ臭そうにカスタイド・プリンセスはそっぽ向きながら、柄にも無く飾り気の無い言葉を放った。何もかもお見通しだと言う事か。マスクド・シャイニングは、魔法少女に対して敵わないなと首を掻きながら苦笑したのであった。


「……覚悟は出来てんだろうなァ? 逃がしてやったってのにノコノコやって来やがって。今度こそそのクソみてぇなスーツをぶっ壊して殺してやるよ」


 吹き飛ばされていたスパイシアがゆっくりと此方へ向かって来る。どれだけ敵が強くても、怖くても、負ける気はしなかった。何故なら、今は頼れるヒーローが自分を含めて二人も居るのだから。


「マスクド・シャイニング。……ホントは私が止めを刺してやりたい所だけどね、もうそんな気力も残ってない。私が援護するから、アンタが討つんだよ」


「了解。お前の期待に応えてみせる」


『僕の期待にも、ね?』


 カスタイド・プリンセスは盾を銃に変えると、そのままトリガーを指に掛けて発砲。光弾を乱れ撃つが、スパイシアは蛸の腕を高速で振り回す。弾かれ、全くのダメージには至らなかった。

 続いて、鋏に変えると、鋏に力を込めて光を包み込ませる。勢いよく振り放つと、刃に帯びていた光が波状のまま敵に飛ばされ、斬り付けようとする。しかし、蛸が腕を交差させて防御すると、そのまま勢いは果てて消滅。これまた効いていない様子である。


「どうした? これでお仕舞か?」


 油断した隙を突き、カスタイド・プリンセスは四つの筒を持った謎の装置に変えると、煙幕を展開。助けられた時と同じ、あの鼠色の煙幕である。


「ふん! 目暗ましのつもりみたいだが、こんな煙如きで足止め出来るとでも思っていたのか!」


 蛸の腕を円を描きながら回転。凄まじい突風と共に煙を吹き飛ばした。その隙を突き、カスタイド・プリンセスはウインチで背中の腕ごと巻き付けて、動きを封じた。


「一瞬でも止まったら足止めって事になるんじゃない?」


「ほう、減らず口を叩く余裕がまだ有ったか。しかも小賢しい手を使いまくる。お前はただじゃ死なさんぞ」


 思い切り力を込めて、雁字搦めに縛り付けていたワイヤーを無理矢理解く。そして触手が勢い良く伸び、彼女の首や四肢に絡みつかせ、宙に浮かせる。締め付けるなんて生易しいものでは無く、身体の骨を圧し折る程の力が籠っていて、苦痛に思わず顔を引き攣らせた。


「さぁ、魔法少女とやら。死ぬ準備は出来たか? やり残して後悔している事は無いか? もしあったら俺が聞いてやらんでも無いぞ」


 彼女はスパイシアの言葉を聞き、ゆっくりと口を歪ませて笑う。まんまと罠に掛かっている事に気付いていない為だ。


「アンタにそんな事を心配されなくったってケッコーよ」


 スパイシアの背後から、リミッター解除したマスクド・シャイニングの跳び蹴りが放たれた。気付かれて、思わずカスタイド・プリンセスを手放して蛸の全部の腕で防ごうと伸び始める。しかし、もう遅い。足を絡め取ろうとする全ての腕は千切れ、彼のコロナストリームを帯びたキックが胸部に直撃する。吹き飛び、そのまま倒れる。


「やったか!?」


「それ、失敗フラグ――」


 カスタイド・プリンセスが言い終える前に、スパイシアは起き上がる。確かに当てた筈なのに。当たるとスパイシアは爆破する筈なのに。魔法少女の危険を冒してまで放った攻撃が通用していない事に陽輔は思わず絶望した。


「ちぃとばかし痛かったぞ。けれど、倒すまでには至らなかったな。不運だったな、俺を怒らせただけだぜ――、ぐっ!? な、何だコレは……!? あ、熱い!!」


 スパイシアも言い終える前に、少しよろめき始める。全然効いていない事は無かったんだ。二人がもう一度決定打を打ち込もうと身構えると、突如としてスパイシアの後ろから誰かが現れた。


「ね、ネロ様!! どうして此処に!?」


「……ネロ? あの人が?」


「僕もスパイシアを倒す二人を見たくなっちゃってね」


 一見、普通の笑顔が眩しい青年に思える。何故、こんな奴に恐縮しているのか理解できなかった。蛸が思わず跪いて敬礼をしているのである。


「ネロ様の手を煩わせる程ではありません……!! あっという間に終わらせます!」


「ああ、それなんだけどね」


 君には無理だよ。ネロと呼ばれていた男の貫手がスパイシアの腹部に突き刺さる。断末魔を上げる間もなく、蛸は一瞬にして灰と化し、消滅してしまった。

 あれ程苦戦していて、倒せなかったスパイシアをたった一撃で、たった一瞬で殺してしまったのである。


「全身に行き渡るだけでもアウトだよ。つまりさっきの攻撃を防ぎ切れなかった時点で君は遅かれ早かれ負ける運命にあるワケ。せめて苦しむ間もなく殺してやっただけだよ。君は四天王の中でも最弱だし、君程度なら換えは幾らでも効くからね」


 そう言い残して立ち去ろうとするネロをマスクド・シャイニングは引き止めた。


「お前が、スパイシアの親玉ってワケだな?」


「まぁそうなるね」


「アンタは何の為にスパイシアを産み出しているの!?」


「僕の為であり、『ペッパーズ』の為であり、君達の為である。……ま、詳しい事は君達が強くなってからだね。アディオス――」


 答えになってねぇぞ!! マスクド・シャイニングが勢いよく拳を振るったが、一瞬の内に消え去り、空振る。そして、消え去ったと同時に緊張が解れたと同時に一気に恐怖が押し寄せてくる。今死んでしまったスパイシアより更に強いスパイシアが存在している事を知ってしまった為。


 途方にも無い、絶望感に思わず立ち尽くしてしまったのであった。

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