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プリン・荒モード!  作者: 都月 奏楽
二章『仮面の下の憎悪編』
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13話 『マスクド・シャイニング死す!?』

『ひっ! だ、誰!?』

愛海(まなみ)ッ!!!』

『お兄ちゃん!! 逃げて!! お兄ちゃん!!』

『やめろッ!!!』

『ああああああああああああああああ!!!』

『愛海!! 愛海ーーーーーーーーっ!!』



 陽輔は悪夢に思わず目覚めてしまい、勢いよく身体を起こした。カーテンの向こう側にある筈の太陽は昇っていない。時刻は午前四時。早起きには早過ぎる位である。

 またあの夢か。思わず溜息を吐いてしまう。かれこれ、何十回も見た光景だ。そして何度もそれで苦しんでいる。陽輔はその鬱憤を晴らすべく、ぐっしょりと寝汗で濡れた寝間着を脱ぎ、ジャージに着替えてジョギングを始めようと階段を降りていく。


「――愛海、お前は死んでしまったんだよな……?」


 春日愛海。陽輔の実の妹である。一年前、一人で学校の帰っていた所をスパイシアを襲われたとされ、衣類だけが残った遺体に変わり果ててしまった。享年、十二歳という若さで命を落としてしまい、家族中が大泣きした。

 陽輔は居間に飾られてある彼女の仏壇とその遺影を見て呟く。皆が皆、噂が広まっていた、あの消える遺体事件の被害者として死亡したと信じている。彼も昨日まではそうだったが、遺体からスパイシアが産まれたあの怪奇現象を目の当たりにして、揺らぎ始めたのであった。


「確かに遺体の感触は有った。……でも、あの触感は本当に愛海なのか?」


 昨日の出来事をじっくりと思い返す。服を着た透明の遺体は、蒼白い炎を発しながら動き、衣類を落としながら暫く経ってからスパイシアに変わった。

 問題は其処なのである。一年前の事件では、衣類を着ていない透明の遺体があっただけで、患部だけ穴が空いた愛海の服は残ったままだという事である。つまり、愛海が確実に死んでいるのなら、これまでのスパイシアの行動を考えるとすると、衣類を着ている遺体となっている筈なのである。


「もしかしたら、愛海はスパイシアに……?」


 陽輔は思わず両頬を叩いて雑念を払う。一番考えたくなかった事を考えてしまった。そしてスパイシアがスパイシアを産み出すなど、知りたくも無かった。もう、汗だくになって全てを忘れたい。靴紐を結び終えた陽輔は外に出ると、全力疾走で町中を駆け巡るのであった。



 走り込みを終わらせ、シャワーを浴びて朝食を取る。一つ空席が有る事以外は何も変わらない春日家の朝の日常そのものであった。

 猫舌の父は何度も何度も熱い味噌汁に息を吹きかけ、料理好きの母はいつもの様に朝食に腕を掛けて次々に料理を食卓に並べる。十歳になる弟の夏樹は食欲旺盛で小さい体ながらによく食べる。

 一年前の傷はまだ癒えていない筈である。しかし、今は明るく振る舞っている。もう居ない筈の愛海の事を誤魔化す様に。いつまでもクヨクヨしているワケにはいかない、と家族全員で決めた事なので仕方ないのであるが。


「じゃ、俺行ってくるよ」


「気を付けてね。携帯持った? お弁当持った? ……チャックは?」


 いつもの様に母が注意を呼び掛ける。うん大丈夫、と相槌を打ったが、スラックスのジッパーが下に落ちていたので慌てて上げた。すると、御飯を頬張りながら夏樹が呼び止めた。愛海が居なくなって寂しい為か、ここ一年間ははよく絡んでくる。


「なぁ兄ちゃん。今度こそ学校終わったらさ、俺にサッカー教えてよー」


「あ、あぁ、俺が早く帰れたら、な?」


「ちぇー、最近いっつもソレだよ。兄ちゃんが中学の時はほぼ毎日教えてくれたってのに」


「高校生になったら色々とやる事が多いモンだよ。……にしても、陽輔。夏樹の言う通り、最近帰りが遅い事が多いが、何をしているんだ?」


 父の言葉に思わずドキッとした。まさか自分がマスクド・シャイニングに変身してスパイシアを倒しているなんて、部活が終わって晩まで研究所に入り浸っているなんて、口が裂けても言えない。

 部活だよ、部活。陽輔がそう誤魔化すと、置いてあったエナメルバッグを肩に掛けて家を後にしたのであった。



 コロナストリームを帯びたマスクド・シャイニングの跳び蹴りが蟹のスパイシアに命中。間髪入れずに爆死した。最近、スパイシアの出現が多くなってきている気がする。現に今回の戦闘は複数で襲撃していて、偶然出くわしたカスタイド・プリンセスと共に殲滅しているのである。


「マスクド・シャイニング」


 ヒートヘイズの所へ戻ろうとし、背を向けた途端にカスタイド・プリンセスが呼び止めた。何なんだろうか、速く帰りたいのに。陽輔は若干鬱陶しそうな素振りを見せながら、振り返り彼女を睨んだ。


「アンタ、最近どうしたのよ? 何か変じゃない?」


「……別に」


「あの時からずっとじゃん。何か余裕が無いって言うか、何かに迷っているって言うか。兎に角、アンタらしくないんだよね」


 余裕が無い? 迷っている? コイツは何を言っているんだ。マスクド・シャイニングは魔法少女の発言に思わず苛立つ。何処をどう見て余裕が無いなんて捉えているんだ、と言うのが陽輔の率直な意見である。


「ま、正直言うけどね。私はそんなアンタ見たくないんだよね。私にガツンと言ってやった、あの時みたいなカッコよさが有ってもいいんじゃない?」


「黙れ!! 知った風な口をベラベラと!! お前にオレの何が分かるって言うんだ!!!」


「な、何も敵キャラの台詞みたいな事言ってキレる事無いじゃない」


 カスタイド・プリンセスが思わずたじろぐ。コイツと話すと余計にイライラする。陽輔はさっさと退場しようとヒートヘイズに跨ろうとした瞬間、クックックと何処からともなく笑い声が聞こえる。思わず辺りを見渡したが、スパイシアも人間も居ない、二人だけであった。


「いかんなぁ。ヒーローごっこをする上で喧嘩をするなんてなぁ」


 突如現れた、蛸の様なスパイシア。両腕を組んで立つその余裕綽々の姿。二人は思わず身構えた。そして感じ取れた。今までのスパイシアと違う、と。


「……マスクド・シャイニング。アンタは逃げた方がいいよ。もう必殺技を使い切っているんでしょ? 私は足止め位なら出来るから」


「馬鹿を言うなッ!! 最近強くなっているからって調子に乗りやがって!! リミッター解除が使えなくてもオレは戦える!! 倒してみせる!!」


「分かんないヤツだね!! 今のアンタじゃ足手纏いだって言ってるんだよ!!」


 カスタイド・プリンセスの失言は彼の逆鱗に触れた。途端にムキになって彼はシャイニング・クロスを手に取りながら我武者羅に突撃を始めた。男の自分が女を残して逃げるのは、何よりスパイシアを目の当たりにして敵前逃亡するのは彼のプライドが許さないのである。


「止めろ馬鹿!!」

『陽輔君ッ!! リミッター解除を使い終えた君には危険過ぎる!! 離脱するんだ!!』


 彼女の制止も、通信からの民人の言葉も耳に通らなかった。シャイニング・クロスを打ち付けて爆破攻撃を食らわせながらそのまま急接近。そのまま右ストレートをボディに一発。しかし、蛸はびくりとも動かない。余裕の態度を崩さないまま、フフンと鼻で笑う。

 一瞬、驚いていたがマスクド・シャイニングは叫んだ。そして何度も何度も何度も何度もパンチとキックを繰り出す。ヤケクソになりながらも攻撃を続ける。しかし、全部ダメージには至っていないのである。渾身の一撃をお見舞いしようと出した突き。しかし、難なく拳で受け止められた。


「パンチってのはなぁ、こうするんだ、よ!!」


 お返しとばかりにスパイシアの拳がマスクド・シャイニングの頬を貫く。少しよろめき体勢を立て直そうとするが、今度は相手の連続攻撃を食らい続ける。圧倒的な力の差を反撃の中で痛感してしまった。そして、立ち直れそうにも無い。自分は、負けるワケにはいかないというのに。


「おおっと!! くたばんのはまだ早ぇぜ!!」


 息も切れ切れで倒れそうになるマスクド・シャイニングを掴み上げ、スパイシアは、背中に生えている先の鋭い蛸の腕で突きを連発。火花を散らし、強固なスーツは見る見るうちに破損していく。

 余りの衝撃に悲鳴を上げながら、マスクド・シャイニングはノックダウン。仮面の目の光が徐々に消えていき、身動き一つ取れなくなってしまった。


『陽輔君!? 陽輔君!! しっかりするんだ!! 今倒れている場合じゃないだろう!!!』


「スパイシアの脅威に成り得ると言ったから出てやったものの、とんだ見かけ倒しじゃねぇか。こんな雑魚に倒されたなんてな。さて、せめてもの手向けとしてコイツの命を奪うとするか」


 蛸の腕を伸ばそうとした瞬間、濃い煙幕が立ち込める。思わず手で煙を振り払おうとしている隙に、カスタイド・プリンセスは倒れているマスクド・シャイニングを肩に担ぎながら撤退する。


「全く手間のかかる!! 後で何か奢ってよね!!」


「……カスタイド・プリンセス。何で……?」


「何でって聞きたいのはコッチ! 勝手に突っ込んで勝手に自滅しちゃってさ! どうかしてるよアンタ!」


 スーツの重さにひぃひぃと息を切らしながらマスクド・シャイニングを引き摺る形で運んでいくカスタイド・プリンセス。弱々しく喋る男に対して容赦無い一言を放つ彼女に思わず苦笑いが出る他無かった。


「んで? 何処に行けばいいの? スマートブレインなりボードなりゼクトなりアンタを匿ってくれる所とかあるんでしょ?」


「……1丁目の、33-4――」


 彼女の言っている意味は分からなかったが、行かなくてはならない場所は有る。樫原民人の所へ戻らなくてはならない。住所を口にすると、マスクド・シャイニングは意識を失い、スーツの光は完全に消えてしまったのであった。

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