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プリン・荒モード!  作者: 都月 奏楽
一章『凸凹コンビ結成前哨編』
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9話 『申し訳ございません、この様な共闘で』

 家に帰り、深優姫は制服姿のままベッドに寝転がった。俯せのまま、タブレットの電源を入れ、撃破スコアを確認する。いつの間にか、十本の指で数える事が出来ない程にまでスパイシアを倒していたらしい。そんな実感が無かった彼女は、今までの戦闘を思い返してみる。


「……私って、何となくしか戦ってなかった。ただ出て来るから戦って、それで皆に評価されて、それで、チヤホヤされて……」


 深優姫こと、魔法少女の戦いは受身に過ぎなかった。その事を昨日のマスクド・シャイニングに見透かされてしまった。幼さが残る彼女は、男に図星を突かれて嘲笑われた事にも腹が立っていたが、何よりも許せなかったのは、それを言い返せれなかった自分自身に対してであった。そのもどかしさが有ったからこそ、陽輔の言葉に救われたのであった。


「ミユキ、スカートめくれてる。パンツ見えてる」


「……殺すよ」


「そんないつものキレの無い調子じゃあ流石の僕達も気が狂っちゃうよね。折角わざわざ色気のない柄を覗いてやったってのにね」


「イヤミか貴様」


 近付いてきたラメイルを両足で挟み込んで首を締め付けて苦しませているものの、深優姫の沈んだ気分が晴れる事は無かった。それよりか、もっと虚しくなるだけであった。それを紛らわせるのは、陽輔の励ましの言葉だけであった。


「――私だけの何か、ねぇ」


「ミユキ、流石に意識が遠退きそうなんだけど。さっきからずっとタップしているんだけど僕」


「それ以上いけない、ミユキ。……レフェリー無視は反則負けだよ、ミユキ」


 口煩い使い魔達を八つ当たりで纏めて適度に痛めつけて、深優姫は早めに寝る事にしたのであった。



 翌日。日曜日と言う事で、深優姫は暇潰しと鬱憤晴らしに隣町のアニロードへと行く事にした。ラフな格好に少し垢抜けたキャスケットが彼女の、この時だけの正装なのである。

 部屋のドアノブを手に掛けながら、コンセントに刺さったままタブレットを一度見る。いつも持ち歩いて備えているが、今日だけは戦いの事や色々と忘れたかった。いざという時は、マスクド・シャイニングがのこのこと現れてちゃちゃっと倒してくれるだろう。そんな無責任な事を考えながら、扉を開けると、

案の定使い魔二人が引き止めて来たのだ。


「ミユキ、タブレットはどうするのさ」


「……今日は持っていかない」


「それは困るよ。それにアニロードに行くなら僕達も色々と見たいモノがあるし――」


 アンタ達はここで留守番しなさい。深優姫は近付いて来る二匹を蹴っ飛ばして壁に叩き付けると、扉をキッチリ閉めてから家を後にしたのであった。


 深優姫は隣町に行く為の駅に到着する。いつもの様に駅ビル前のロータリーは休日と言う事もあって、バスやタクシーやらがごった返していて忙しなさそうである。彼女は町に行く前に行きつけの珈琲店で一先ず休憩しようと思った。

 店と一直線にある横断歩道を渡ろうとしていた深優姫は、何か異変を察知した。それと同時に嫌な予感も肌で感じ取る。やっぱり寄り道せずに目的地へ行こう、と言い聞かせて一歩退いてから反転。回り込んで駅へと向かおうと気を変えた。


 彼女が後ろへ向いて歩き出すと、突然叫び声が聞こえ始めた。声の発生源を見なくても、大体は気付いていた。スパイシアが現れたのだと。悪い勘が不本意ながらに当たった事に思わず苛立つ深優姫。見て見ぬフリをしたかったが、仮に勘違いだった事を期待して見る他なかった。


「うわああああ!!! 身体が!!!!」


 さっきまでの芋を洗ったロータリーの人の群が、一斉に散り散りになる。深優姫が逃げる人達の中で唯一立ち止まって見たのは、スパイシア。それも、今まで見た事の無い、獣の部分が前面に出た様な、四足歩行で巨体を揺らしながら人々を襲う個体であった。

 こんな時に限って! 現在、魔法少女に変身出来ない彼女は思わず身を隠して様子を窺う事しか出来なかった。しかし、このスパイシアは知能が無かった。ひたすらに、咆哮を轟かせながら本能のままに人を象牙で串刺しにして捕食する。そんな事を深優姫は柱の物陰で分析をしていた。


 気付かれた。彼女は瞬時に察知する。象が此方へ振り向くと、突き刺さっていた人間の死体を放り付けてきた。死体はどんどんと色彩を失っていき、衣服だけになると彼女に倒れ込んで来た。確かに感触はある。冷たくはあったが、仄かに残る温もり、そして、貫通させられた部分から出て来たのであろう水分が抜けて干からびた血が彼女の服に付着する。

 見とれていると、今度は牙を突き付けながら突進して来たのだ。深優姫は慌てて遺体を退けて立ち上がりながら回避。柱に激突すると、一発で木端微塵になってしまった。パワーも前に出会った人型の物と比べると桁違いに強い。

 ジグザグに逃げていき、スパイシアを振り切ろうとするが、思った以上に執念深く、執拗に追いかけていく。もう、体力が持ちそうにないと思った瞬間、象の馬鹿でかい足音が止まった。今更ながらに登場してきたマスクド・シャイニングが押し込んで動きを封じていたのだ。


「早く逃げろッ!!」


 魔法少女の正体だと気付いていなかった男は、深優姫を逃がそうと身体を張る。彼女は全力疾走で撤退し、安全な距離まで避難すると、無人地帯で戦うマスクド・シャイニングを目の当たりにした。


「アイツ、何であんな強そうな奴だってのに、あんなにボロボロになってでも戦うの……? アイツの闘う理由は……?」


「此処に居たのかいミユキ。やっぱり君は戦わなくてはいけないんだ。ホラ、早くしなって」


 ふとタブレットを抱えながら足元へと駆け寄るラメイルとヴァニラ。しかし彼女は無視をして、象の攻撃をまともに喰らって吹き飛ぶマスクド・シャイニングをまじまじと見ているだけであった。

 彼女は周りを見る。彼方此方に火が回り、さっきまでの賑わっていたロータリーは荒廃した景色へと変わっていた。周りの大人達は怯え、小さな子供が泣いている。警察隊も脅威の存在に機能すらしていなかった。

 何で、こんな関係無い人達が、こんなに怯えなくてはならないのか。人間として生まれた以上は、人間らしく天寿を全うして死ぬべきではないのか。こんな姿を消され辱められた死が有っていいのか。


 また新たに湧いてきたスパイシア数人が人々を捕食しようと追い詰めていく中、物陰に隠れていた彼女は確と眼を開き、何も言わずにタブレットを手に取り、携帯電話に変身したラメイルをマークに通す。大小の二つの光の玉が包み込み、衣笠深優姫は、魔法少女カスタイド・プリンセスに変身する。


「もうちょっと優しくやってくれないものかな?」


「悪かったね。……ラメイル、ヴァニラ。アンタの扱いを良くしてやってもいいよ。その代わり、条件がある」


「条件って? 君の事だから、理不尽な事に違いないと思うけど――」


 肩に捕まっているヴァニラを掴み、彼女は前に翳した。すると、ヴァニラとソイツが持っていたスマートフォンがメニュー欄の様なホログラムにへと変わり、表示される。彼女がその半透明の画面を人差し指でタッチすると、マジカル・ステッキは瞬時にマジカル・シザースに変わった。


「戦闘中は私の勝手にやらせて貰う事。いいね?」


「アッハイ。……何だ、そんな事でいいのかい? もっとすんごい事やらされるかと思ったよ」


「御託はいいから。……OKでいいって事の?」


「勿論。正直僕達も指示とかそーいう事は億劫だったんだよね。好都合だよ」


 彼女は少し微笑み、頷いた。そして気を引き締め、眼を鋭くさせてシザースの二枚刃を構えてスパイシアの隊へと切り込んでいく。

 一閃、一閃、もう一閃と敵を退けて魔法少女は逃げ惑う人々の前に立つ。彼女の姿にどよめく人類。正体不明のコスプレ女に首を傾げだすスパイシア達。


「スパイシア!! 私の目の黒い内は、アンタ達の好き勝手にはさせない!! このカスタイド・プリンセスが許さない!!」


 問答無用とばかりにスパイシアが襲い掛かる。カスタイド・プリンセスは腕を交差させ、腕に力を込める。大きく震えながら、二枚の刃に黄色の光子が包み込むと標的を見据えながら一気に虚空へ振り払う。すると、風を切ると同時に刃に付いていた光がそのまま飛んでいき、バツ印を描きながらスパイシア達を切り裂く。まともに喰らってしまった二体は消滅。


「武器特化型魔法少女の固有魔法『オーラ・アームズ』だ。……ミユキ、この短時間で、僕のさっきのと言い、これと言い、もしかして君は――」


「全部勘だよ。何てったって、私は魔法少女だからね。こんなのも出来なくて務まるワケないじゃん」


 オーラ・アームズ。ヴァニラの説明によれば、武器に魔法の力を付与させ、破壊力などを上げるとされている、魔法少女の中でも会得が難しいとされている魔法である。

 とんでもない人材を引き当てちゃったみたいだ。ヴァニラが思わず関心する。深優姫は知らず知らずの内に魔法少女の素質を開放している様である。残りの一体も、オーラ・アームズによって切れ味を増したシザースの一薙ぎで消滅するのであった。あっという間に殲滅したカスタイド・プリンセスを、人々は賞賛した。しかし、彼女はそんな事もそっちのけで、マスクド・シャイニングの方へと視線を向けた。

 思った以上に苦戦しているらしく、大きな前足を持ち上げて動きを止めているだけであった。


「…よし、邪魔は居なくなった! 後はアイツだけ!」


 刃を重ねて鋏の状態に戻し、オーラ・アームズを放出させると、彼女はそのまま全力で走り出し、倒れていた車をそのまま踏み台にして高く跳躍。そして象の背中へ、落下の位置エネルギーも重ねた一突きをお見舞いする。根元まで刺さり、指穴を掴んで傷を抉る様に開こうとすると、痛みに象が暴れ出して深優姫を振り払おうとしていた。数十秒程、しがみ付いていたが、突き刺さっていた鋏が傷口からすっぽ抜けて振り落されて背中から落下してしまった。


「いっててて……」


「お前、案外無茶するな」


「ま、丈夫なのはアンタだけじゃなくって私もって事」


 彼女はゆっくりと立ちあがると、シザースからハンマーへと変更。一歩マスクド・シャイニングへ前に出て、振り返った。


「マスクド・シャイニング。最初に言っておくけど、私はアンタが嫌いだ。アンタの知った風な口を叩く感じが気に入らない。何でもかんでも背負い込んで戦おうとしている様な感じが気に入らない。……だから一回だけしか言わないよ。……有難う」


「……急にどうした?」


「私、アンタに言われた事、考えてみた。自分が何の為に戦っているかって。そして私は見つけた。私は、町の人達を護る為に戦う。スパイシアの、こんな無惨な殺人なんか許せないって、そう思ったから、私は戦う。……何が可笑しいのよ? やっぱ、変?」


 その言葉に、マスクド・シャイニングは鼻を鳴らしながら一笑した。思わずしかめっ面を浮かべたが、両掌を前に出して制止していた。


「いや。お前にしては上出来だ。良い台詞だった。そんな言葉が出るなんてな。感動的だ」


「だが無意味だ。……って事は無い、よ、ね?」


「無意味?」


「いや、何でもない」


 喋っている間に、象のスパイシアは更に唸り声を上げて此方に襲い掛かって来た。傷口が痛み、激怒しているのだろう。動きに凶暴さが滲み出ていた。


「来るぞ。無茶苦茶な誰かさんが怒らせた所為でな」


「踏み潰されそうだったマヌケな誰かさんを助けた所為だよ」


「ふん、言ってろ。……カスタイド・プリンセス。俺も甘ちゃんのお前が気に入らんが、今はお前の力が必要だ」


 思いがけない男の台詞に深優姫は思わず疑った。しかし、自分一人でも倒せそうには無かったので、素直に話を聞いてみる


「幾ら図体がデカくて身体が硬くても、頭だけはどうしようもない弱点の筈だ。そこを俺のリミッター解除したキックを一発入れる。その足止めをしろ」


「確かにグッドアイディアだね。けど、そのエラソーな頼み方が気に入らないね。自分で何とかすれば?」


「……足止めをして、くれ」


「は? なめてんの? 馬鹿なの? 死ぬの? 日本語を一からやり直したら?」


「……足止めを、して、下さい」


 その言葉を聞いて満足そうな顔を浮かべた魔法少女が頷き、ハンマーを構える。覚えてろ、と後ろで身構えていた仮面の男が恨めしそうに呟いていたが、聞こえないふりをした。


「じゃあ行くよ」

「ああ、行くぞ」


 彼女がハンマーを構えながら先行して突撃。一気に距離が縮まり、象の前足が大きく振り上げて深優姫を踏み潰そうとしていた。しかし、彼女は一気に速度を上げて避けると、そのままスパイシアの背後目掛けてへ走り出し、後足を光に包み込ませたハンマーで思い切り叩き付ける。怯んでいるが、これではまだ足止めにはならず危険である。


 彼女はメニュー表をスライドさせて、ある武器へと変更させる。それは自分の顔程の大きさのフックと見るからに千切れなさそうなワイヤーの両方を持つウインチであり、左肘から下に装着された。魔法少女は天に目掛けて手を叩き付ける様に腕を振ると、フック部分が射出。そのままどんどん飛び出していき、鋏で開けた傷に引っ掛けた。そしてワイヤーを伸ばし、それを左後ろ足と左前足にそれぞれ数回程巻き付けて縛りつけた。片足を抑えられ、巨体を支えきれなくなった象は横転。鮮やかに足止めは成功した。


 マスクド・シャイニングは背中のユニットを展開させて、リミッターを解除させると、そのまま高く跳躍。そして強烈な跳び蹴りを倒れて身動き取れないスパイシアの頭部目掛けて一発。そのまま首から上だけが地面にめり込み、爆発。象のスパイシアは消えていったのであった。


「なかなかやるね、マスクド・シャイニング」

「お前こそな、カスタイド・プリンセス」


 お互い、一笑するとそのまま背を向け合い帰ろうとしたが、嬉しそうな顔を浮かべていた避難していた人間達に囲まれてしまい質問攻めに遭ってしまった。深優姫は、こういう時だけはお互い苦労するなぁと相手に同情していた。

取り敢えずの一章は終わりです。小ネタを入れながら、二章へと続けます。

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