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おまけ7

「ほら、あんたの番よ」

「わ、分かってるって……」

 千歳にそう返し、改めて自分の手札を見る。

 ハートの2、スペードの5、クラブの6、ダイアのJ、ハートのA

 駄目だ。全く共通点がない。

 どうするべきか。全て交換というのも芸がない。

(う〜ん……)

 結局僕は数字の小さい3枚のカードを捨てた。

(頼む……)

 祈るような気持ちで簡易テーブルの中央に置かれた山札から新しく3枚のカードを引く。

 すぐには引いたカードを見ない。

 恐る恐る、おっかなびっくり新たなカードを確認する。

 ハートの6、ダイアの7、スペードのJ

(やった!)

 内心でガッツポーズをとる。

 Jのツーペア。大して強い役ではないが、ブタを回避することができた。

「ビット」

 僕が手札を交換した後、間髪入れずに千歳が宣言した。

 右手側に積まれた硬貨の山から2枚を手に取り、自分の目の前に置く。100円硬貨だ。千歳の目の前には3枚の100円玉があったから、合わせて5枚になった。

(ぐ……!)

 苦い顔をした僕に、千歳がニヤリとするのが目に映った。

 迷わず二枚硬貨を増やしたところを見ると、千歳には自信がありそうだ。

 今やっているポーカーは、一度に増やせる賭け金は二枚までと決めていたが、普通なら1枚ずつ増やす。

 それだけ確信があるというのか。自分が勝つという確信が。

 僕の役はツーペア。ブタよりはましだが、最弱の役。

 ここは降りるのが懸命だ。が、

(うぅ……)

 今日は何度も同じ考えで痛い目を見てきた。

 千歳のあの自信はハッタリかもしれない。千歳の役は10以下のツーペアかもしれない。ブタかもしれない。

 目の前に置かれた3枚の硬貨を見る。3枚の100円硬貨。300円。

 大したお金ではないのかもしれない。でも……

 千歳の右手に置かれた硬貨の山と自分の右側にある山を見比べる。

 明らかに千歳の山の方が大きい。僕の山の3倍くらいの大きさがある。

 僕は今日すでに5000円以上千歳に奪われていた。もうこれ以上負けたくないという気持ちを捨てきれない。


 以前の街から出発して、最果ての街を目指していた道中、雨に降られた。

 仕方なく旅を中断した僕と千歳だったが、特に時間を潰せるものも持ち合わせていなかったから、すぐに退屈をもてあそぶ羽目になった。

 狭いテントの中でできることは限られている。千歳が提案したのはトランプだった。

 ただ遊ぶだけではつまらないからと、千歳はお金を賭けようと言い出した。

 僕が賭け事をしたことは、少なくとも記憶の中にはなかったから、面白そうだと思い、承諾したのだった。

 ちょっと憧れていたのだ。ギャンブルという火遊びにも。賭博で大金を稼ぐ、危険を顧みないワイルドな人たちにも。

 今思えば、それが全ての過ちの始まりだった。


 僕は自分の新たな一面を見出していた。

 今まで知らなかった自分を発見したのだ。といっても、いいことではない。

 僕は賭け事に手を出してはいけない類の人間だった。

 いくら負けが込んでいても、次こそ取り返してやると考えてしまう。少しでも負けを取り戻したいと欲を出してしまう。

 次は大丈夫。上手くやれるはずだ。慎重に、落ち着いてやればきっと勝てる。

 そんな考えが、僕を底なし沼に引きずり込んだ。


 しんしんと降り続ける雨の音で満たされたテントの中、僕は一心に考える。

 降りるべきか、勝負すべきか。

「ほらぁ、早くしてって」

 不意に千歳の声が僕の思考を遮った。

「う、うん。ちょっと待って」

 慌てて言い、再度手札を見返した。

 脂汗が頬を伝わるのを感じる。

 行くしかない

 心のどこかからそんな声が聞こえてきた。

 行くしかない。ここで逃げたら、いつまで経っても千歳に勝てないぞ

 その声は、僕に強く、強く訴える。

 行くしかないぞ。男、斎田優樹

「よし!」

 硬貨の山から2枚持ち上げる。

「コール!」

 2枚の硬貨をテーブルに叩き付けた。

 これで僕の目の前の硬貨も5枚になった。500円。

「ふっ……」

 千歳の口端が吊り上る。

 僕と千歳の視線がテーブルの上でぶつかった。

 互いの目の前には5枚の100円玉。500円。

「勝負!」

 手札をテーブルの上に開く。

 ハートの6、ダイアの7、スペードのJ、ダイアのJ、ハートのA

 それをまじまじと見た千歳が、突然高笑いを始めた。狭いテントの中、千歳の笑い声が充満する。

「あっはっはっは! 甘いわね! 本っ当に!!」

 千歳が手札を広げた。

 スペードの2、ハートの4、ハートの8、クラブのA、スペードのA

「Aのツーペアだと!?」

 息が詰まるのを感じた。

 千歳もツーペアだった。それなのに僕を挑発して、大きな勝負に出たというのか。

「あんた、本当に分かりやすいのよ。ツーペアですって、顔に書いてあったわよ」

 ガクリと首を垂れる。勢い余って、テーブルに頭を打ちつけた。蹲って苦悶の声を上げる。

「頂き〜!」

 千歳が嬉々として僕の500円を奪っていった。

「うわあああああん!」

 悲鳴にも似た声を出しながら泣く僕に、

「もう一回やる?」

 千歳が尋ねる。

「やりません!」

 ぴしゃりと答えた。


 今回の反省

 賭博、ダメ絶対

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