表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

少年と大木

作者: ローレル





或るところに、少年がいた

白い白い部屋の中、たった1人で生きようとしていた

少年の隣には、いつも大木が在った

深く地に根を張り、ただそこに在るだけの大木が

白い部屋に囚われた少年にとって、大木は唯一の“少年に自由を与えてくれる存在”であり、“自由の象徴”

故に寄り添い、愛し、無二の友人のように思っていた


或るところに、大木が在った

時の流れに取り残されたかのように、ただ在った

大木の隣には、いつも少年がいた

くるくるとよく変わる表情と、キラキラと輝く目を持った少年が

時の流れに取り残された大木にとって、少年は唯一の“大木の時を動かしてくれる存在”であり、“生の象徴”

故に慈しみ、守り、無二の友人のように思っていた






少年は願った

       /大木は思った

「このままここで朽ちていきたい」と

       /「このまま一緒に生きていきたい」と

けれどそれは叶わなかった

       /けれどそれは叶わなかった

周囲の大人が許さなかった

       /大木が自身を許せなかった

『出来る筈が無いだろう。出てはいけないと言ったのに』

       /「出来る筈が無いだろう。人と私が同じ時を過ごせるわけがないのに」

そう戒められて

       /そう戒めて

白い白い部屋に囚われた

       /大木はまた時を忘れた

そうして

       /そうして



少年の隣に在った大木は、消えた

       /大木の隣にいた少年は、消えた



「あの大木は今も尚“自由の象徴”として在り続けているのか」

       /「あの少年は今も尚“生の象徴”として在り続けているのか」

少年は1人部屋の中、大木のことを思った

       /大木は孤独に苛まれる中、少年のことを思った






時は流れ流れて、幾年も過ぎた



青年となった少年は、ただ1人白い部屋の中で考える

あの大木はどうしているんだろう、と

たった少しだけでいいから、見たい、触れたいと切望し

そうして、思い至った


「…ああ、会いに行けるじゃあないか」


あの時、青年を戒めた大人達は、もういない

この白い白い部屋から、抜け出せるのだ

青年は笑った

無邪気に、ただ笑って


白い白い部屋から逃げ出した


あの日あの時青年の前に立ちはだかった白く重い扉は

実は、とても軽かったのだと知って


開け放ち、外へと



老木となった大木は、ただ孤独な永い時の中で考える

あの少年はどうしているのだろう、と

たった少しでいいから知りたい、感じたいと切望し

そうして、思い至った


「ああ、少年にはもう会えないのか」


あの時、時を進めてくれた存在は、もういない

己に会いになど、来ないんだろう

老木は嘆いた

虚しさを胸に、ただ嘆いて


遠い遠い少年へ、思いを馳せた


あの日あの時少年が訪れなくなったのは

己の存在など忘れてしまったからだと


思い込み、また嘆き






そんな老木を救ったのは、人の声だった

どこか聞き覚えのある、けれど変わった声

老木は閉じていた意識を開き、そして驚いた

青年だった

少年はいつの間にか姿を変え、けれど心は変わらずにまた此処へ来た


感じたのは、歓喜


とても切なく懐かしい思い出が、老木を襲う


青年は、言った


「このまま、一緒に、朽ちていこう」


唐突に、老木は悟った

もう、“生の象徴”はいないのだと

あの少年は、大人になり、そして生を失っていったのだと

静かに笑う青年に


生の、命の強烈な輝きは無く


ただ、儚い美しさだけがあった


「そうだな、それもいいかもしれない」



そう思った老木に、青年はただそっと寄り添って目を閉じた



いきなり突風が吹き、老木から葉を奪い去っていく

それが通り抜けた後には、もう、2つの命は消え去っていた
















季節は巡り、時は流れて


或るところに、老木があった



枯れ果てた老木に寄り添うのは、白い白い――――――

最後まで読んでいただき、ありがとうございます!

誤字脱字、文章構成、その他「これってどういう意味?」「ここがよくわからない」など、なんでも構いませんので疑問に思ったことなどを教えていただけると幸いです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 書き方がとても読みやすかったです! [一言] 短編って読みやくて良いですね(超個人的)w
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ